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18.関くんと蔵持さん②

 一方、関くんと蔵持さんは、今のところ和やかなまま世間話を続けてました。

「そしたら須藤の奴マジ泣きでさー」

「アハハ、それはちょっと見たかったよ」

 会話の内容はどこまでも他愛の無いことです。関くんは、本当はこんな話をしたかったはずではないのですが、なかなか本題に入るきっかけを掴めないでいました。

 お互い、今日のことは意識して来ているはず。クラスではいい雰囲気になっているけれど、こうして学校の外で二人だけで会うのは初めてのことですから。ただドーナツを食べて世間話をするだけのために、わざわざ前日から電話して待ち合わせたわけではありません。

蔵持さんも、話をしながらどこか気持ちは上の空で、関くんの出方を窺っているであろうことはなんとなくわかりました。

 もちろん、自分から電話して誘ったのですから、関くんは自分から話を切り出すつもりです。でもいざ話そうと思うと緊張してしまい、喉ばっかり渇いて、メロンソーダをすぐに飲み干してしまいました。このままでは間が持ちません。

「ねえ関くん」蔵持さんが先にシビレを切らせました。「今日はなんか……話でもあるの?」

 関くんはどきりとしました。思わず助けを求めるように、清一くんたちがいる店の奥に視線を泳がせます。三人と一台の姿は衝立に遮られて見えません。

 しっかりしろ。ここで何も言わなきゃ始まらないぞ、と自分に言い聞かせ、関くんは話し始めました。

「いやあ、あのさあ、アレなんだけどさあ。僕らって、クラスでも結構仲いい方じゃない」

「うん」

「だからさあ、なんて言うのか……ハハハ、困っちゃうなあ」関くん、顔を真っ赤にして、すごくまだるっこしい喋り方。「もし良かったらなんだけど、僕たち、付き合ってみたり……」

 語尾を濁らせながらも何とかそこまで言いました。

関くんは脳みそがすっかり茹だってしまい、目を閉じて下を向きながら、とうとうやってしまった! 付き合ってくれって言ったぞ! 僕は今告白したんだ! と思っていましたが、しばらくしても蔵持さんからの反応がないので、待ちきれずに顔を上げてみると、蔵持さんはまるで何も聞いていなかったかのように右の方に顔を向けていました。

あれっ? と思って関くんがその視線を追ってみると、いつの間にか、関くん達のテーブルのすぐ傍に女の子が一人立って、二人をじっと見ているのでした。とても肌の色の白い、人形のような顔立ちの女の子で、上から下まで真っ黒でフリルつきのゴシックな服装に身を包んでいます。

 その子の顔を見た途端、関くんの顔色が変わりました。

「総くん、久しぶり」

 鈴の鳴るような儚げな声で女の子が喋ります。かなりの美人です。あの街中ではすこぶる目立つ耽美的な服装も、彼女は服に負けることなく着こなしていました。

 蔵持さんが何が起きているのか分からず関くんとフリルの女の子の顔を見比べていると、女の子はさも当然と言った風に関くんの隣の席に腰掛けました。関くんは壁際の席に座っていたので、逃げ道を塞がれた形になります。その額に脂汗が浮き始めました。

「中学以来だね。元気してた?」

「…………」

 その問いかけに、関くんはうつむいたまま応えません。蔵持さんがようやく口を開きました。

「あの、誰?」

 その質問に、フリルの子は輝くような微笑を返して答えます。

「私? 総くんの元彼女」


 その頃離れたところにいた清一くん達も、関くん達の雰囲気がおかしいことに気がつきました。須藤くんがまず立ち上がって様子を見ます。遠くからでもわかる特徴的なファッション。それを見た瞬間須藤くんは「あっ!」と叫んで衝立の影に身を隠しました。

「どうした?」

 一同の注目が須藤くんに集まります。須藤くんはいつになく深刻な顔をしていました。

「まずい……伊遠椎子がいる」

「何だそれは? 誰なんだ?」

 清一くんも身を乗り出して、関くん達の席に黒っぽい服を着た女の子がいるのを見ました。でも、清一くんには全く見覚えがありません。須藤くんは質問に答えるのを少し躊躇っている様子でしたが、やがて観念したように目を閉じて、

「総の……中学時代の彼女だ」

 と言いました。

「何だそりゃ! そんなの聞いた事ないぞ?」

「その話題には触れないことになってたんだ。中二の頃に三ヶ月ぐらい付き合っただけだったけど、総の精神に確実にトラウマを残していった女だからな。俺はあいつと中学が同じだったから知ってるけど、あいつはヒドイ奴だ。今頃出てくるなんて……」

 須藤くんがこんなに真面目な顔になるとはただ事ではありません。清一くんも思わず息をのみました。エメトは呑気にドーナツを齧りながら、人知れず耳の奥の集音マイクの感度を上げました。遠く離れた関くん達の会話内容を、ドーナツ屋の喧騒の中から拾います。


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