15.男たちの昼餉
清一くん達の通う学校の近郊に、一件の小さな中華料理店がありました。安くて、そこそこの味で、とりあえず大量に食べられるという理由で付近の男子学生に人気のお店です。
今日も狭くてお世辞にも綺麗ではない店内に学生たちがひしめき合います。清一くんも、数人のクラスメイト達と一緒にカウンター席に並んで座っていました。
「今度、かなえちゃんを食事に誘おうかと思うんだ」
と、はにかみ笑いを浮かべて言ったのは関総次郎くんです。
私服通学可の学校とはいえ、面倒くさがりの男の子たちの多くは制服を選びがちですが、関くんはそんな中でも服にお金をかけるタイプでした。そして、彼の言うかなえちゃんとは、ついこの間西口さんを辛口の指摘で追い詰めたあのバレー部の蔵持かなえさんです。
関くんと蔵持さんは、いわゆる友達以上恋人未満の関係でした。見た目は二枚目だけれどどこか頼りないというか、気の弱い性格の関くんと、物怖じしない性格の蔵持さん。対照的な二人ですが、何か噛み合うものがあるようです。イジメる役とイジメられる役がはっきりしているのがいいのでしょうか。
「おお、ついにか!」
お調子者の須藤くんが声を上げました。
「前からいい感じだったもんな! いけるいける!」
須藤くんは関くんの背中を叩いて励ましました。食べながら喋るので口からチャーハンの米粒が飛んでいます。
「ホントにいけるかな。自信ないんだけど」
「いけるんじゃないの」
不安げな顔をしている関くんを元気付けるように、清一くんも頷いて見せました。
「でも、どこに誘えばいいのか迷ってるんだ。どこかいい店知らない?」
関くんの質問に対し、須藤くんが何故か偉そうに笑って答えます。
「自慢じゃないが俺はこの店ぐらいしか知らないぜ! そういうことは清一に聞け」
「あっ、そうか」
二人の視線が清一くんに集まりました。
「いや、なんで俺なんだよ」
「だって俺らの中で彼女いるのお前だけだもんな」
「ねえ」
須藤くんと関くんは意味ありげに頷きあいます。
「彼女って誰だよ……」
清一くんは苦い顔をしました。もちろんその答えはわかっています。エメトのことです。
転校以来ずっとエメトに構いっぱなしの清一くんは、いつしかすっかりみんなに恋人同士だと認識されてしまったのでした。清一くん自身にとっては激しく心外なことですが。
「別に隠すことないのになぁ」
「そうだよ。恋愛の先輩として色々相談に乗ってくれよう」
「だから、違う! 付き合ってない!」
清一くんと他の二人の間に、付き合ったの付き合ってないのという水掛け論が始まりました。こういったやり取りはエメトが転校してきてから百万回ほど繰り返されてきましたが、須藤くんたちは何度やっても全然飽きないようです。
口論がしばらく続いた頃、今まで隣で黙々とラーメンギョーザ定食大盛りを口に運んでいた、体の大きな男子生徒が口を開きました。
「放っといてやれ」
彼、大島公平くんは寡黙な男ですが、たまに口を開くと圧倒的な説得力を発揮します。柔道部で鍛えた体は全身筋肉、身長一八三センチ、体重八六キロ。高校生で彼に口答えできる人はそうそういません。
「ちぇっ……、じゃあ結局、ぼくはかなえちゃんをどこに誘えばいいのかなあ」
関くんはため息をつきました。
「別に気取ったところを探さなくてもいいだろ。近場のハンバーガー屋とか、ドーナツ屋とかにさりげなく誘えばいいじゃないか」
清一くんが言うと、
「セイちゃんが言うんならそうする」
「清一の意見じゃしょうがないよなー」
関くんと須藤くんがまた妙なコンビネーションを発揮して声を重ねてからかうので、清一くんはムスッとして、お皿の上のチャーハンをかっこみました。