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13.頼りになる老人

 清一くんは誰かと違って頼りになる先生に相談しようと思い、昼休みにエメトと一緒に職員室の山田先生を訪ねました。先生はコンビニ弁当(アジフライ弁当)と缶コーラでまったりと昼食をとっているところでした。

「先生、どうしましょう」

 清一くんは真剣な顔をして今日のことを話しました。山田先生は普段どおりの様子で白飯と漬物をコーラで流し込み、「ふーん」と唸るだけです。

「ふーん、じゃないッスよ。誰かがちょっとした悪戯のつもりで脚でも引っ掛けて、エメトが転ばされた拍子にどっか壊れたりしたらどうするんですか。修理費数千万ですよ!」

「別にお前が払わされるわけじゃないだろ」

「そんな無責任な!」

 清一くんは憤慨しました。隣で椅子に座っていたエメトが、無表情のまま口を開きます。

「私の開発予算は十分用意されているので、多少故障してもすぐに修理できますよ。コンピューターは損害保険にも入っています」

「う、うるさい、お前は黙ってろ」

 ムキになる清一君を見て、山田先生は「お前ら仲がいいなあ」と豪快に笑いました。

「笑ってる場合じゃないですって。先生のクラスでイジメが起きてんですよ! 何とかしてくださいよ!」

「ワハハ、実際イジメに対して教師一人で出来ることなんてなあ――」

 まるで他人事のようにヘラヘラしている先生を、清一くんはギロリと睨みました。先生は仕方なく咳払いを一つして、弁当を食べる箸を一時置きます。

「あー、これはなあお前、犯人は多分女子だなあ」

「女子……ですか?」

 確かに女の子のイジメはやり口が陰湿だっていうし、今回のケースなんかまさにそれかもしれないな、と清一くんは納得しかけましたが、

「お前とエメトがあんまりにも仲がいいんで、嫉妬した奴の仕業だろう」

 という山田先生の言葉ですっかり腰が砕けました。

「山田センセェ、冗談言ってる場合じゃないって、マジで!」

「冗談じゃあないぞ、お前は感じてないのか? いつも後頭部に突き刺ささる視線を」

「はあ?」

「俺はいつかお前の頭に穴があくんじゃないかと思ってるんだが」

 山田先生はなにやらわけ知り顔ですが、清一くんは全く、何一つピンと来ません。もっとも清一くんは、仁名村さんの名前すらよく覚えていないのだから、ピンと来いと言っても無理な話かもしれませんが……。

 それに比べて山田先生は、教卓から教室を見渡しているだけで、色々なことを感じ取っているようです。四十年のキャリアは伊達ではないということでしょう。

「先生は、誰かが清一さんと親密になるために、私を障害であると判断して攻撃行動に出たのだ、と言いたいのですか?」

 と、言ったのはエメトでした。

「おおー、よく分かってるじゃないか。清一、お前ロボットに負けとるぞ」

 山田先生はまた大笑いしましたが、清一くんはそれをよそに、エメトが思っていた以上に会話の文脈を掴めるようになっていたのに驚きました。つい一週間ほど前までは『はい』か『いいえ』ぐらいしか返事のバリエーションがなかったのに、とてつもない進歩です。

「すると、私と清一さんの親密度が下がったと判断されれば、犯人は障害が無くなったと認識し、私への次の攻撃行動を取る可能性が減少する、と予想されますね」

「んんー、ああー、難しい言い方をするとそうだな」

 山田先生、あまりわかっていないような顔。

「それなら、一日あたりの会話回数や、半径一メートル以内の近距離に同居する時間が減れば、新密度は下がったと判断されるでしょう。しかし、私は前もって学校にいる間は清一さんの監督下にあるように命令されているため、この解決方法を実行するとそれに違反することになります。また同時に、私は常に自己保全に務めるようにも命令されていますが、この事態を放置していた場合に考えられる危険はさほど大きくないと予想します。以上の理由により、前者の命令を優先してもよいと私は判断しました。この判断に則って行動してもよいですか? 清一さん」

「ええっと……」

 清一くんも言葉に詰まりました。エメトが難しい言葉ばかり、それも早口に話すので意味が通じにくかったようです。

「イジめられてもいいからお前と一緒にいたいと言っとるようだぞ、清一」

「いちいち茶化すのやめてください」

 山田先生は笑いながら、アジフライの尻尾を丈夫な歯でバリバリ噛み砕きました。

「いいか、エメト」

 清一くんは真面目な顔でエメトの方に向き直ります。

「犯人がわかったら、俺が人間同士できっちり話をつけてやる。だからお前は何もしなくていい。普段どおりにしてろ」

「はい」

 エメトは笑って頷きました。普段の表情から笑顔への切り替えが、ずいぶん自然にできるようになりました。清一くんはなんとなくその笑顔を直視することができずに目をそらします。

「お前がそんなにデレデレしてちゃ、犯人はますますエメトをイジめたくなっちまるだろうけどなー」

 先生がボソッと言ったので、清一くんは顔を赤くして睨みつけました。


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