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カノジョとカレシ

汚部屋カノジョと猫耳カレシ

作者: Wana-wana

 俺こと伊豆野卓也は近頃、実家暮らしのすばらしさを再確認している。何せ夕飯は出てくるし、自宅の掃除は俺を含めた誰かしらがやっている。そのため、少なくとも飢え死にすることはないし、極端に部屋が汚くて足の踏み場がなくなることはない。

 どうして唐突にこんな話をしたかというと、


「生きてる?」

「………………いきてる」


二週間ぶりに恋人である佐伯加奈が一人暮らしをしている自宅に訪れると、足の踏み場がない床に埋もれていたからだ。


「なんでこんなことになってるのさ」

「卓也さん、できれば質問する前に、助けてくれ…………」

「あ、本気で埋まってたんだ」


 よっこいしょと、彼女の周りの物品をどかす。彼女は、かなり分厚いゲームの攻略本や、なぜか辞書の類に埋まっていたので、これは確かに寝転がった状態で自力で抜け出すのは少しつらいだろう。というか、広辞苑の初版から最新版までなんで持ってんのさ。


「助かった……」

「それは、なにより。で?」

「その、さすがに、私も暮らしにくくなってだな。居住可能区域を広げようとしたら、崩れた」

「あらら」


 まるで、人類圏の拡充みたいな言い回しをしていたが、そこはスルーしておいた。


 加奈には、生活力がない。厳密にいえば、生活に余力を回すつもりがないというのが正しい。そのため、しばし週末にはおうちデートという名前で、掃除などの家事をこなすというのが俺の週末のルーティンになっていたりする。先週は、俺が仕事の都合で顔を出せなかったために、修羅場のようなことになってしまっていたわけだ。

 そんなわけで、俺たちは今仲良く掃除にいそしんでいた。


「加奈、掃除機どこに埋もれてるの?」

「多分、あっちらへん」

「あっちって…………うわあ」


 指さされた方には、立派な不要物の山ができている。掃除機は、あの山の奥にある収納にあるはずなので、まずあの山を解体しなければならないだろう。


「今回はさすがに、悪かったと思っている……」

「うん、その反省ついこの前も聞いた気がするね」

「私は、過去に囚われないない女……!」

「用事思い出したから、俺帰るわ。掃除は、一人でもできるよね?」

「ごめんなさい」


 軽くじゃれあいつつ、この場は加奈に任せることにして俺は掃除機の発掘に取り掛かることにした。


「なるほどね」


 積みあがった山の正体は、大量のごみ袋だった。どうやら適当にぽいぽいした結果、こうなってしまったようだ。


「順番考えて、片づければよかった……」


 今更言っても、後の祭りだけど。

 ひとまず、掃除機さえ引っ張り出せればいいので、ごみ袋の山の位置を少しだけずらすことにした。ずりずりと、数センチ山を動かしていると、カランと何かが落ちてきた。どうやら、ごみ袋に乗っかていたらしい。

 

「なにこれ」


 俺は、それを拾い上げた。猫耳カチューシャだ。


「あー」


 おおむね察した。おそらく加奈のお姉さんの仕業だ。あの人は、妹を着飾ることを生きがいにしている。あの人に言わせると、「私が好きなのは、加奈ちゃんを着飾ることじゃなくて、かわいいものをめでることですよ?ということで、あなたも女装しませんか。さあ!」らしい。加奈がどうなろうと知ったこっちゃないが、俺は巻き込まないでほしい。

 そんなわけで、この猫耳カチューシャは加奈のお姉さんがこの家に来た時に、置き忘れたのだろう。


「ふむ……」


 今なら確実にわかることがある。この時の俺は、疲れていたのだ。そうでなければ間違っても、猫耳カチューシャを装着するはずがない。


「うん、きもい」


 掃除機を運びがてら、姿見の前をわざわざ通過して確認した。そりゃまあ、一般的な27歳のおっさんがこんなもんつけたら、そうなるわな。一体俺は何がしたかったんだろうか。

 ところで、加奈の家は一人暮らしには十分すぎる1LDKなのだが、当然めちゃくちゃ広いというわけではない。つまり、たとえ別の場所で何か作業していても、丸見えなわけで。


「…………何やってるんだお前は?」


 うえっ。


「い、いつから見てた…………?」

「お前がそれを拾い上げた時からだな」


 そういうと、加奈はめちゃくちゃ優し気な眼差しで、


「安心しろ、私には理解がある」

「やめて!ほんの出来心だから!」

「姉さんが喜ぶよ」

「本当にやめてください、何でもしますからその携帯から手を離してください、お姉さんに連絡しようとするのはやめてください!!」

「やっぱり、ストレスの発散は大事だもんな」

「あたたかいめでみるのやめてほんきで」


 なんだろう、死にたい。

 加奈は、俺の必死の説得でお姉さんに連絡をするのはやめてくれたけど、その後しばらくなぜかお姉さんから、二着分のコスプレグッズが送られてきていた。違うんです本当に俺にそんな趣味はないですから。



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