#008 困った時の生産職頼み!
ところどころ福井弁出てきます。
間違ってたら誤字脱字報告などで教えていただけると幸いです。
「どうすればいいのかなぁ、このレンズのない眼鏡……」
私とゆっきーはメガネザル攻略を終えて街に戻ると、最初に来た喫茶店に入ってレンズのない眼鏡の扱いについて相談する。
「聞いた話だと、眼鏡のレンズがない部分は“フレーム”っていうらしいよ。だから、これはメガネフレームっていうことだね」
私は「なるほど~」と言いながらそのメガネフレームをかけてレンズがある部分から指を入れたり出したりしてみる。なんか自然というか、不思議な感覚がする。
「よくそうやる人見るよ……」
ゆっきーは私がこうやって遊んでいるのを見て呆れている。そんなにおかしいかな?
「私の父方の祖父母は眼鏡屋さん経営してるでしょ?」
「え、初耳だよ?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
うん、一切聞いてませんよ。そもそも、父方の祖父母の話をすること自体初めてなんじゃないのかな…。うん、初めてだと思うよ。
「今は伯父さんに代替わりしているけどね」
「あ、いつも柿とか梅とか送ってきてくれる人のこと?」
「うん、そうそう。チビッ子が多いからあんまり行きたいとも思わないけどね~。あ、でももう一方も似たようなものか……」
ゆっきーはとっても面倒見がいいから、いとこ達によくなつかれているという。私も一度会ったことがあるが、元気すぎて手が付けられなかった。苦労はすれども、かわいかったのも事実だ。
「でも、本当にどうしよっか。レンズなければ眼鏡として機能しないし……」
「だよね~」
脱線しかけた話を元に戻して、私たちは考え込む。注文したコーヒーを飲みながら、腕を組んだり、手を顎に当てたりしながら考え込む。
そして、10分ほど経った時、ゆっきーが口を開いた。
「とりあえず、知り合いのグッチーの所にも行こうかねぇ」
「グッチー……って、誰?」
初めて聞く名前が気になって私は質問をする。グッチーというからには、本名は山口、だろうか。
「ああ、うん。グッチーっていうのは、私がEWOのネット時代から仲良くしている生産職だよ。同じギルドにいた間柄だし。この前も攻防に顔を出して、武器の修理を頼むかもって伝えておいたし」
「…さすがはトッププレイヤー。もうそんな知り合いもいるんだ」
「え、うん…。同じギルドにいた仲間はもうすでに常連になっちゃってるけどね。こういう時は、困った時の生産職頼みってやつ!」
流石は上位ギルドだと素直に思う。底辺ギルド出身の私からしてみれば、すごいとしか言えない。
私たちはそのグッチーという生産職の所に行くことに決めて、喫茶店を後にした。
〇 〇 〇
街の中心…噴水広場から北に5分いったところに、「工房GUCCI」という看板がった。
周りの家とまったく変わらない外見だったので、通り過ぎてしまうところだった。
「ここだよ……。グッチーは少しコミュ障だからね。先にちょっと行ってくるよ」
「あ、うん。ここで待ってるね」
ゆっキーは交渉のためなのかなんあのかわからないけど、工房の中に入っていく。よく見ると、張り紙に「紹介者以外お断り」と書いてある。どうやら、ゆっきーの言う通りコミュ障のようだ。
辺りの景色を見つめていること3分。ドアが開いてゆっきーが顔をひょこっと出す。
「アオ、入っていいよ~」
「あ、うん!今行くね」
入室許可が下りたので、私は座っていたベンチから立ち上がって中に入っていく。
中にはタイルが張られており、電球も昭和にありそうなものを使っており、どこかレトロな感じを覚える。カウンターがあり、奥には堺の町工場にありそうな窯のようなものをはじめとした器具がすらりと並んでいた。
そして、工房には一人の男性…青年とも少年ともとれそうな人が立っていた。
「アオ、この人がグッチー、生産職の人だよ。グッチー、こっちは私の幼馴染のアオ」
「こんにちは。アオって言います。よろしくお願いいたします」
「ああ、うん。グッチーだよ~、よろしくね~。あ、ちなみに僕は大学生だから先輩になるのかなー?」
グッチーと名乗った青年は眠そうな目をしており、話し方も間延びしていた。なんだか、馴染みやすい感じがある。
「大学こそ言ってるけど、普段は部屋に引きこもってるからね…ちょっとコミュ障なんだよ~。まあ、知り合いが連れてきた子だったらある程度大丈夫なだけどね~。あんまり気を悪くしないでねー」
「あ、いえいえ。大丈夫ですよ」
少しグッチーさんの背後に影のようなものを感じたので、私は慌ててフォローする。なんだろ、うちの技術研にも同じような影を作っている人がいた気がする。
「それで、今日はどうしたのかな~?」
「あ、はい!実は、メガネフレームがドロップして。これを使い物にするには、どうすればいいのかと……」
「あーうん、メガネフレームがドロップ……メガネフレームがドロップ!?」
グッチーさんはカウンダ―の向こうに戻りながらうなずいたと思ったら、急に向きを変えて驚いたような声を出した。
……うん、これが普通の反応なんだろうな。
「え、どこでドロップしたのそんなもん……」
「あーうん、これは私たちしか知らないし。他言してほしくないんだけど」
「わかったよ~、だれにも言わないね」
間延びしてそう約束されても、不安なんですけど。と心の中で思っておく。
「大丈夫、グッチーはああ見えても秘密とかは絶対に守ってくれる人だから。あ、今は緊張してるから標準語だけど、崩れると福井弁で話すからね~」
「あ、うん。まだ私は警戒されてるってことがわかったよ……」
「あ、違う違う。信用はしてるけど女子高生2対オタク引きこもり1だからちょっと弱気になってるんだよ。それに、アオが思ってたよりかわいかったんじゃない?」
「そそそ……そんなことにゃいよ!!」
ゆっきーが私にそんなことを言ってきたので、慌てて否定するが、噛んでしまった。たまにこういうことをしてくるからゆっきーはほんと…もう!
「あ、そのお取込み中悪いんだけど…そのフレーム見せてもらっていい?」
「あ、はい。これです」
言われた通り、私は赤面しながらもアイテム欄からフレームを取り出して、グッチーさんにドロップしたメガネフレームを渡す。
すると、グッチーさんは眼鏡の細部まで観察し始める。耳掛けの所を展開したり閉じたり、レンズが入るであろう場所の長さや寸法を測っているようだ。
そして、1分もしないうちにうなずいて「これなら」という。
「これなら素材さえ持ってきてくればレンズを作って、一つの眼鏡として作れるね~」
「えと、その素材って何を持ってくればいいんですか?」
「ほやのー…1つのレンズにガラス水晶10個…んなもんや」
「え…と…じゃあ、ガラス水晶を持ってくれば作っていただけるんですね」
「ほやほや」
えーと、これが福井弁というやつなのかも。関西弁に似ているようでそうでない…。ちょっと慣れるのに時間がかかりそうだ。
「水晶玉系を落とすのは…どこだっけ。また調べて行こっか」
「そうしよっか…」
「まだ宿題やってえんのやって…じゃあ、今日はもうログアウトするねー。それじゃ」
今度水晶玉を発掘しに行くことを約束してからすぐ、ゆっきーは福井弁で何かを言ってログアウトしていった。
「意味がわからなかった…」
「あれは標準語で、宿題やっていないからっていう意味だよー……」
「そうなんですね…って、まだやってなかったの!?ちょ…今回は結構出てたのに……!」
今日分かったこと。ゆっきーもノリノリで福井弁を使い、宿題をサボっていた。
そして、私はこれから、福井弁を勉強しなければいけないということ。頑張ろっさ。
ご観覧ありがとうございました。
次回の更新は12月24日 午前7時を予定しております。