#001 ログインと設定
『やっと文化祭終わったね~』
「うん!やっぱ文化祭は疲れるね~、もうヘトヘトだよ…」
『あはは、葵は頑張ってたもんね!技術研のやつらは渋々だったけど』
「やっとこれで私はEWOのVR版をやることができるよ!」
「私は発売初日からやってたから、もう慣れっこかな。面白いよ!」
スマホの奥で、雪葉が声を明るくする。このトーンになるということは、よっぽど楽しいんだろうなぁ…。
私は、雪葉と違って、数学が危なかったり、文化祭で体力が吸い取られたりで、ずっとやることができなかった。
でも、落ち着いたから今日からやっとできるんだ!
『おやぁ?葵さん、楽しんでますねぇ…』
「だって、あれだけ雪葉から聞けばいやでも興味出るよ!」
文化祭準備期間中は嫌というほど聞かされたEWOの世界の思い出。地平線が見えるとか、きれいな花畑があったとか、森でハイキングとか、そんなの聞いたら意地でもやりたくなる!
「じゃ、じゃあ早速私は設定やるから!」
「頑張って!設定終わったら言ってた喫茶店で待ってるから」
「うん、わかった!また後でね」
そういって、私は電話を切る。少し充電が少なくなったので、充電器につなげる。その後、部屋の隅に置いてあった真新しい段ボールへと手を伸ばす。
中は既に開封されている。というのも、さっきお父さんにEWOやると言ったら、「そうか、だったらすぐに設定から始められるようにしといてやろう」と言って、進めておいてくれたのだ。優しい。
段ボールの中には、VRゴーグルと、専用のコントローラ、そしてEWOのマニュアルが入っていた。
その中から、私はVRゴーグルを手に取り、頭にかぶせて、それから専用のコントローラを握りしめる。
それから、スイッチを起動して徐々に電脳世界へと意識を落としていった。
〇 〇 〇
「う…ここは…?」
目を開けると、そこはまさに“無”というのにふさわしいところだった。中央委は机といすのみがあり、それ以外は乳白色の空間だ。
この中に1人だけだと、ちょっと不安になってくる。
「早く設定終わらせよう…」
そう思いながら私は椅子に座る。すると、机に画面が現れた。
「name?名前入力かな。プレイヤーネームは決めてるよ、引き続きアオでやる!」
私の名前は“葵”だし、みんなからもアオちゃんって呼ばれてるから、これで大丈夫!
入力が完了すると、次は初期の武器設定とジョブ設定になった。画面の中には片手剣、大剣から魔法の杖まである。
「う~ん…あんまり被弾する職はなぁ…。でも、やっぱ癖が少ない剣士がいいし…」
その場で私は考え込む。確か雪葉は弓職でやっているはず。EWOの弓職は盾職に次ぐ不人気職業で、扱うのが難しいけど範囲攻撃で言えばトップ。
魔法使いもいいけど、絶対に中途半端になるし、雪葉と同じ後衛はパーティー組もうと思ってるからなし。
重いものを持つのはできないから重戦士も向いてない、走るのはあまり得意じゃないし、体もそこまで柔らかくないから軽戦士も向いてない。
「…ってなれば、やっぱ剣士だよねぇ~。これしかない…か」
私は絶対に変なビルドをしないと決めて、オーソドックスな普通の剣を選ぶ。もちろん、職は剣士にした。
「え…と、次はステータスポイントを割り振るのか…」
スキルポイントは全部で150。このゲームは他と違って少し初期で振れる量が多い。
その分、やらかしたらまずいということだけど…。
ちなみに、初期ステータスで、HPは30、MPは15ある。
ステータスは、HP、MP、STR、VIT、AGI、DEX、INT。これも変わっていないようだ。ちなみに、スキルポイントをHPに1振ると5、MPに1振ると3上昇する。
「確か、雪葉が100だけ使って、あとの50は具体的な方針が決まってから振った方がいいって言ってたから。今はまず100だけ振ることにしよっと」
ステータスポイントの100を振り終えると、周りが光に満ちていく。初期地点に転移するようだ。
「早く雪葉に会えるといいなぁ…」
私はそう思いながら、転送の光に包まれていった。
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