大晦日SS 葵編
「ここもよし……」
今年もあと1日。私は部屋の大掃除に明け暮れていた。いつもはそこまで荒れていないのだが、クローゼットの中とかをもう一度きれいにしておこうと思ったのだ。
今年も服が結構増えた。雪葉とショッピングに出かけたときに、いろいろ買ったときのだ。
「あの時は楽しかったなぁ」
私は今年を振り返りながらそのまま大掃除をすることにした。
今年あったことと言えば……まずはなんといっても受験。
〇 〇 〇
1月、私と雪葉は学校に残りひたすら小論文の練習をしていた。推薦を取れるだけの成績は取ってるし、面接の練習も日進月歩している。あとはこの小論文をなんとかすればいいだけなのだ。
うちの学校の担任はそれこそ体育会系。回数を重ねればできるという自称1600年江戸時代生まれの女性教師だ。バレーボール界では結構なの知れた人で、1650年くらいからバレーボール日本代表がどうやらということを何回も言っているおかしな人。ちなみに、江戸時代にはまだバレーボールは確立されてない。
私は1つの小論文を書き終えて、先生に提出しに行く。私の他に私立推薦組はクラスに6名。
私と雪葉は同じ学校だが、他は違う学校に行くらしい。
「お願いします」
「それじゃ、そこで立って待ってて」
担任は原稿用紙を受け取ると、目を通していく。今まで一発でOKを取ったことはない。雪葉は文系科目の苦手が祟ってか、10回やってもOKがでないことはよくある。
私は不吉だと思いながら推薦に落ちたときのために一般試験の勉強もしている。科目は主要3科目なので助かっている。数学を捨てれば他は勝負できるのだ。
「ここ。ケアレスミスだけど誤字。あとここの文法おかしいのとここはもうちょっと簡潔にした方がいい」
「は、はい!」
「中町さんは少し慌て過ぎだからもうちょっと落ち着いて。いつも通りリラックスすればこの前みたいに高得点出せるから」
「あれは……たまたま2つともコート内に入っただけで……」
この前みたいに……とはバレーボールの試験のことだ。サーブの試験で、2発入れば80点、1発で50点、どっちも入らなかったら0点。フォームの良さとコースであとの20点分は決まる。そして、それで私はフォームで少し減点されたが92点をたたき出したのだ。クラス内トップ、学年2位。
あの時はスポーツ万能の雪葉に勝てたからかなり気持ちよかった。
「とりあえず、気張りすぎない!」
「はい!」
その言葉を胸にしまい、私は再び席に着く。直しのところを自分で自分をリラックスさせながら書いていく。そんな時、隣から雪葉が小声で「なんて言われたの?」と聞いてくる。
「気張りすぎないように、だって」
「いかにもあの先生が言いそうなことを……でも、緊張しっぱなしじゃあ実力差にはあらがえないしねぇ。私もそうしてみよっかな」
「うん、そうしてみて」
私は頷くと、周りが見えるくらいに集中して、直しを進めていき……6時前になったところで先生が解散を告げる。帰りにコロッケパンを全員に配ってくれたのは内緒。
〇 〇 〇
そして、それから1週間後。とうとう受験の日がやってきた。なるべく早めに行こうと決めた私たちは7時に駅の改札で待ち合わせをすることに。
その日、不覚にも5時頃に起床した私は、両親が寝ていることを確認するとリビングのむったんの所に行く。
部屋のケージでは、すでにむったんは起床しており動いているのかガサガサという音が聞こえる。
「むったん、散歩行こっか」
「あん!」
私はむったんが勢いよく返事をしたのを確認するとケージの開く。むったんはいつものように空いたスペースから自分で飛んで出てくる。それから首輪にリードを取り付け、散歩するときの道具一式を持ちコートなどを着て防寒対策をしてから外に出る。
「そうだ、あそこに行こう」
私は思い付きで開発が進んでいる西地区へ行く。途中で線路の高架下をくぐり、西地区を横断すると、冬の海が見えてきた。
流石に冬の海の近くは寒い。港には今日も多くの船が停泊していた。遊覧船もいれば、大砲を搭載した艦までより取り見取りだ。
そんな船たちを横目に私は公園のベンチに座って、目の前に広がる湾を眺める。そして、いつもながら思ってしまった。
どうして海はこうも広いのだろう。なんでこの湾にはあんな大きな船が入港できているのだろうか。
「あん?」
私の横に座ったむったんは私の様子を確認したいのかわからないけど、膝の上に乗っかってきた。そんなむったんを撫で……もといモフモフしながら私は今日絶対に合格しようと心に決めた。
そして、集合時間。雪葉はガチガチに緊張しながらやってきた。
「ねえ葵!試合と受験って何が違うの!教えて!」
「え……え~と……」
それを私に聞かれてもなぁ。私は運動部じゃないから試合とか出たことないし。でも……。
「受験って、つまりは試合と同じなんじゃない?競技種目が運動じゃなくて勉強になったってだけで」
「え……あ、なるほど」
私の答えに雪葉は「そういう考えはなかった……」と言ってキョトンとしている。あれ?反応ない?試しに手を振ってみたものの、雪葉の反応はない。
これって、逆に緊張させちゃったってこと?
「ごめん雪葉―!」
今にも倒れそうな雪葉を支えながら私はそう叫んだのだった。
ちなみに、その後2人とも無事に合格できました。
雪葉verもご覧ください!
良いお年を!