#012 眼鏡と運営
『【メガレクター】!』
躊躇せずに発動させた渾身のカウンター装置は、見事に亀の砲撃を正面から受け止めて弾き返す。鈍重な亀はその攻撃を避けられるわけもなし。逆に飲み込まれて四散してしまう。
『やったねアオ!』
『やっと終わったぁ……』
アーチャーの少女は【メガレクター】を使った少女に抱き着き、その【メガレクター】を使った少女は抱き着かれたまま目を閉じる。
そして、彼女らはある程度の喜びに浸ったところで、ボスドロップを回収して外に出ていった。
それの一部始終をとある人物どもが見ていた。
――そう、運営である。
「なんだあれ!なんだあれ!カウンタースキルとかあったかおい!」
「いや、そもそも眼鏡にスキルあるなんて聞いてねーよ!」
「眼鏡のアクセサリー考えたのだれ?え、三島さん!?ちょ、おーい三島さーん!これどーいうことかなぁ!?」
運営チームの一部スタッフは大急ぎで眼鏡のアクセサリーを考えたという三島という人物を呼び寄せる。悔しいのか腹が立ってるのかわからないスタッフたちは三島という人物に詰め寄ると、そのまままくしたてる。
「なんで眼鏡がスキルもってんの!」
「ってかあんな眼鏡市販してるわけ?!」
「……まあ諸君、落ち着きたまえ」
マシンガントークの乱打を浴びた三島という人物は、自身のかけている眼鏡を一度キラリと光らせると、話し始めた。
「眼鏡は、素晴らしい!」
「「「知るか!!!」」」
「なぜだ、なぜわからない!眼鏡のよさがなぜわからんのだ!君たちもこの素晴らしさを知れば望むだろう、眼鏡になりたいと、眼鏡のようにありたいと!」
「「「知るか!!!」」」
「眼鏡はいい!眼鏡こそこの世の神!そしてあの眼鏡っ娘はまさに神!」
「「「質問の内容を話せ!!!」」」
周りなどお構いなしに自論を唱える三島に、スタッフは総出で質問の内容を答え……いや、吐かせる。
「あの眼鏡は……眼鏡シリーズ!第1層のとあるダンジョンにある隠しボスのメガネザルが超低確率でドロップする、もはや唯一無二の装備!眼鏡ケースを主軸に眼鏡という眼鏡、ゴーグルにも隠してあるスキルを全て使えるようになるのだ!」
「おい!それってゲームバランス大丈夫なわけ!?」
「もちろんだ!眼鏡シリーズの眼鏡ケースには、眼鏡をある程度集めると装備者のステータスをダウンさせるギミックを装備してある!メガネザルはランダムで眼鏡をドロップする仕様だから、最初期に丸眼鏡を手に入れない限りは大丈夫!」
その言葉に、スタッフは全員固まってしまう。今、亀を撃破した少女がつけていたのは……丸眼鏡なのだ。
「なんと!あれはビーム系と光属性魔法をほぼ無条件で跳ね返し、火属性魔法と闇属性魔法は少しコストは高いが跳ね返せる逸品だぞ!」
「それって……!」
「一層のボスキラーということじゃないかッ!」
というのもこの運営、とりあえず威力高そうなのはビーム攻撃だよねというノリで、ほとんどのボスにビーム攻撃を入れていたのである。むろん、さっきの亀も例に漏れずその流れでビームを搭載したものだ。
「それにしても、我々が遊び半分で作ったあの“真の迷宮”をクリアするとは……やりおる」
「出口と入り口にはプレイヤーがわからないような幻影魔法装置をやっておいたんだが」
「それはたぶん、丸眼鏡の【メガネサーチ】によって打ち破られたのだ!」
というのも、丸眼鏡に搭載されている【メガネサーチ】には、一定確率で幻影魔法をの効果を打ち消すというものがあるのだ。それは「どうせそこまで幻影魔法なんか使うやついないだろうから」という三島の思惑があってのことだった。
「何やってんのぉ!!」
「隠し財宝とかどうするんだ!プレイヤーが取れるギミックにするのに幻影魔法のシステムが一番最適なんですけど!」
「ちなみに、打ち消す確率は何パーセントなんだ眼鏡!」
「5%……あと眼鏡じゃない三島だ」
5%という数字は、かなり微妙なところである。しかし、このゲームはまだインフレなどしていない。それを考えると高い数字であった、
「次のメンテナンスいつ!?」
「あと5日後、イベント開始前」
「その間にあの眼鏡少女への対策を考えないといかん」
「おい眼鏡、余計なこと考えるなよ」
「眼鏡じゃない、三島だ。もちろん、新作眼鏡を作るなんてしないさ」
嘘である。この三島、実はそのメンテナンスに合わせてさらに10種類ほど眼鏡の数を増やそうとしていたのである。そして、それをさらに意地悪なところに隠そうとしていたのである。
「とりあえず何事もなければいいんだが……」
〇 〇 〇
「ほぉ……みたこともないほどに高品質な水晶玉じゃないか……」
亀のステージを攻略した私たちは、ドロップした水晶玉をもってグッチーさんの所に来た。
「これならいいものが作れそうだ……」
「あと、これのレンズも作ってほしいんですけど……」
そういって、私が取り出したのは、宝箱の中に入っていたメガネフレーム。フレームの色は透明だ。
「わかった。それも作っておこう。次のイベントまでに間に合わせよう」
「え?イベント?」
「知らないのか?さっき発表されたよ」
それを聞いて、私たちは慌ててステータスボードにあるお知らせの欄を開く。そこの目立つところにはイベント開催の文字が光っていた。
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