クリスマスSS1話 メリークリスマス!!
メリークリスマス!!
もうちょっとで、クリスマスだ。今日は11月20日。もうちょっとで年末年始。
今年も私は雪葉と一緒にクリスマスパーティーをすることになった。
パーティーと言っても、どちらかの家に行って、料理を食べるだけだけど。でも、それが面白いのだ。料理もおいしいし、その後みんなでボードゲームとかをして遊び、そのままお泊りすることもある。
「でも、今まで通りだとあんまりおもしろくないしなぁ…」
今までは、お互いに親からもらったお金でプレゼントを買って、交換するというのがお決りだった。
でも、もう高校生。自分で稼いだお金でプレゼントとかを買ってあげるのも面白い。幸い、駅前にはショッピングモールがある。そこにはフードコートもあるから、バイトはいくらでもできるだろう。
「そうだ、バイトしてお金貯めて、そのお金でプレゼント買ってみようかな…」
いつも、料理は親とか、雪葉が作ってくれている。だったら、その食材を私が調達しても面白いんじゃないか、そう思った。
「葵、どうしたの……?帰るよ?」
「え……あ、うん。帰ろっか」
席の前に突如として雪葉が現れて、一緒に帰ろうと誘ってくる。私はボーっとしていてまだ帰る準備をしていない。
私は慌てて教科書類をかばんに入れて、体操着も押し込んでいく。
「どうしたの、ぼーっとしちゃって。悩み事あるなら相談に乗るよ?」
「え……ううん、なんでもないよ。じゃあ、帰ろっか」
流石に、このまま「バイトして、クリスマスプレゼント買うんだ」なんて言えるわけがないから、「何でもない」で逃げる。
それを見た雪葉は首をかしげて「そうなんだ」と言って、そのまま教室の出口に歩いていく。
素早く帰る準備をした私は、席を立って雪葉を追いかけた。
「今日はどうしよっか?」
「う~ん…北の草原の敵と戦ってみる?連携攻撃もある程度完成させたいしね」
いつも通り、EWOの話をしながら、私たちは学校の校門を出て、駅に向かっていった。
〇 〇 〇
時は12月、クリスマスまでもうちょっと。私は駅前にある大型ショッピングモールで、サンタさんに扮して、プラカードを持って練り歩いていた。
プラカードには、今勤めている店を宣伝する文字が所狭しと書かれている。
子供たちは「サンタさんだー」と言ってついてきたり手を振ってきたりしている。それに応じて私は手を振ったりする。
休憩は1時間働いたら10分。バイトをする日は雪葉が部活の日と土曜日の週4日。平日は帰る時間が21時くらいになっちゃうけど、たいして苦にはならなかった。
店の方はやさしいし、この前なんて「遅くなったし、これ夜ご飯に」って、おにぎりをくれたりした。
親はアルバイトをすると言ったら理由も聞かずに「別にいいんでないの?ただし、遅くならないように、勉強と両立できるなら」と言ってくれた。なので、自分で調べて店を探して、働いている。
「だいぶお金もたまったなぁ…」
試験期間中は休ませてもらったが、それでも既に2万円くらいを稼ぐことができた。小規模なクリスマスパーティーを開くには十分すぎる。
「それに、雪葉にもバレてないしね~。順調順調!」
そんなことを思ったのが悪かったのだろうか。
休憩時間に入ろうと店に戻ろうとしていた時、向こうの通路から制服姿の雪葉が現れた。
「え……」
雪葉はこちらに気づかないようだったので、私は普通に業務を続ける。
雪葉は、雑貨屋の前で止まると、そこに並べてある商品を手にとって眺めていた。
「あれは…」
今、ここからじゃ見れないから、あとで見にいこうと思い、私はバレないかどきどきしながらそばを通り過ぎる。
幸い、雪葉はこちらに気づくそぶりもなく、手に取っていた商品を置いて店の中に入っていった。
バイトが終わり、例の店の、雪葉が立っていた場所に行くと、そこには水色の置き型時計が鎮座していた。雪葉が選びそうな、かわいいやつ。自分でも欲しいと思うくらいだ。
そして、値段を見ると。
「4500円ッ!?これは手が出ないよ…」
時計で5000円弱のものなんて、高校生の財布からそうそう出せる金額じゃない。それは雪葉も同じこと。そして、私も……。
と言いたいところだが、資金は十分ある。5000円は少し高いと思うが、出せる金額だ。
「よし…プレゼントはこれにしよ…」
私はその時計を片手に店のカウンターに向かっていった。
〇 〇 〇
そして、12月24日、クリスマスイブ。私は雪葉と一緒に帰ることにした。
「今年は、どっちの家でやる?」
「私の家でもいいんだよ?ちゃんと昨日から掃除したし、きれいにかたずけておいた」
「私のところもそうだよ~。ペットがいつもぬくぬくしているところとか、抜け毛が大変でさぁ……」
そんなことを言いながら、階段を下りて校門に向かう。校門に向かう時に通る広場で、なぜか技術研部長たちがなにかやってるのを目撃したが、見なかったことにした。
「う~ん…久しぶりにむったんとも遊びたいし…!」
むったんとは、私の家のトイプードルのこと。結構…いや、全トイプードルの中でも一番かわいいマイオンリーエンジェル。
「そういえば、最近雪葉の家にも行ってないなぁ…」
雪葉の家はうちよりも広くて、庭もある。私の家は庭がないから、むったんとは家の中で遊ぶか、近くの公園に行かないといけない。
「そうだ、じゃあ、うちでやらない?葵が散歩がてらむったんを連れてくれば…!」
「なるほど! さすが雪葉!」
雪葉が示した名案に、私は大きくうなずく。それに、雪葉の家にいくときに、ひっそりと予約しておいたケーキも取ってくればいいし。
勘のいい雪葉に今までバレなかったのは奇跡だ。この奇跡を利用して、雪葉をとことん驚かせて、楽しませよう。私はそう心の中で叫んだ。
〇 〇 〇
午後6時前。私は遊んでと足元にすがってきたむったんと公園で少しだけフリスビーをして、そのまま駅前のショッピングモールの中にあるケーキ屋さんに行き、ケーキを受け取ってから、総菜をちょっとだけ買い、買っておいたプレゼントをちゃんと持っていることを確認してから、雪葉の家に向かった。
私の家から徒歩7分、駅から徒歩で8分ほどの場所にある雪葉の家は、グレーの落ち着いた色合いの家だ。吹き抜けがあって、日差しがリビングに入り込んでくるように設計された家は、素直に羨ましい。
雪葉曰く、夜は外から丸見えになっちゃうし、夏は暑くなるからうんざりとのこと。
門の前にある呼び鈴を鳴らすと、家の中から「はーい」という声が聞こえてきた。30秒もしないうちに、玄関から一人の少年が顔を出した。
「あ、葵姉ちゃんだ!」
「お、隆明だ!久しぶり~」
隆明とは、雪葉の弟の小学校4年生。サッカーをしている元気印で、雪葉と同じでゲームが得意。ちなみに、この年で既に数検3級の保有者。
「雪ねぇが今ご飯作ってるよ。入って入って」
「うん、お邪魔しまーす」
私はむったんとともに家に入る、もちろん、むったんは4本ある足を全部拭いてから。
その作業中に、隆明は元気にリビングに駆けていく。本当に元気だなぁ…。きょうだいがいない私にしてみれば、羨ましい限りだ。
作業を終えた私は、お土産を抱えて勝手知ったる雪葉の家を進んでリビングにお邪魔する。ダイニングキッチンでは、エプロンをした雪葉が何かを炒めている最中だった。
「雪葉~、お邪魔しま~す……」
「あ、葵来たんだ。あれ……?荷物いっぱい。どうしたの?」
「これ、総菜とケーキだよ。お土産」
「ケーキ!?」
雪葉が思わず顔を上げて「マジですか」という顔をしてきた。なので、「マジです」という顔で返してみる。
すると、慌てて雪葉が出てきてケーキが入った袋と、ちょっとした総菜をの入ったスーパーの袋を受け取った。
「どうしたのこんなに……」
「えへへ。お母さんが予約していたケーキ受け取って、持たされたお金で少し買ってきただけだよ~」
嘘だけどね。私がバイトしたお金で買ってきました、はい。そんなことは声に出しては言わないけど。
「ありがとぉ~。葵のお母さんに感謝しないと」
そういった雪葉は急いでケーキを冷蔵庫にしまっていく。リビングのテレビの前では隆明がテレビゲームをやっており、その横にむったんがすとんと座っている。むったん、今日は大人しいな…。
「あ、上はそこいハンガーあるからかけておいて。すぐにご飯できるから、隆明とゲームでもしながら待っててよ」
「ううん、手伝うよ?いつも雪葉にばっかり押し付けちゃってるし」
またもや雪葉が私に「マジですか」という目線を向けてくる。なので私もまっすぐに「マジです、本気です」という目線を送る。
「……隆明は騒がしいからなぁ……相手をしててくれた方が助かったんだけど、せっかく葵が珍しく手伝うって言ってるんだから、お願いしない手はないね」
「いつも通りのチームワークで美味しく楽しく作っちゃおうか!」
声を弾ませながら手を洗い、指示を聞いて、サラダの盛り付けをしていく。あれ?そういえばだけど…。
「おじさんとおばさんはどうしたの?クリスマスの時はいつもいるよね?」
「ああ、うん。それなんだけど……。これ見てみな」
そこには……。
『雪葉ちゃんと隆明君へ。
学校お疲れ様!突然ですが、お父さんとお母さんは出かけてきます。とあるホテルの最上階にあるフランス料理店に行ってます!そこでフルコースを……フフフ!うらやましいでしょ!大人の特権です!
今日は葵ちゃんの家か、ここでクリスマスパーティーをすると思って、総菜とか、食材を冷蔵庫に入れておきました!仲良く食べてね~。
じゃ、楽しんで!私たちはプロの味を堪能しくるから!』
と書かれてあった。
「うわぁ……」
「あんのクソ親父!!帰ってきたらとっちめてやる!!」
女子の口からでないであろう言葉を出すくらい憤慨する雪葉。そんなに羨ましかったのだろうか。隆明もうんうんと頷いている。
「さてと…このスープさえできれば、あとは完成だね。少しずつ持ってっちゃお」
「そうだね。隆明~、もうちょっとでご飯できるからキリのいいところでやめておきなさいよ~!」
「わかってるよ、時間的にそうだと思ってさっきセーブしといた」
「じゃあ、運ぶの手伝って」
「わかったよぉ……相変わらず人使いが荒い…」
「なんか言った?」
「いえ、なんだもないですよお嬢様~」
雪葉に睨まれた隆明はすぐに危機回避を発動する。喧嘩の避け方がうまくなったね……。スポーツ万能の雪葉には隆明といえどさすがに勝てないしね。
それから3分もしないうちにすべての料理が食卓に並んだ。メニューは、骨付き肉にサラダ、コーンスープ、唐揚げ等々、THE・クリスマスの料理ばっかりだ。私の買ってきた総菜もちゃんとある。
「美味しそうだね!」
「ほんと、雪ねぇは家事スキルだけは高いよ」
「だけって何よ、だけって」
半目でツッコむ雪葉とそれに言い返す隆明を見てると本当に面白い。少し歳は離れているとはいえ、流石は仲のいい姉弟と言ったところか。
「じゃあ、いただきま~す!」
「どうぞ、召し上がれー。今日は結構自信作だよ~!」
雪葉がそういうのなら、美味しいに違いない。そう思いながら目の前にあった唐揚げを一口食べてみる。
「……なにこれ、美味しい!」
「でしょ?外はサクッと、中はジューシーにを追求したんだ~」
「さっすが雪葉!」
それ以外も本当に美味しかった。コーンポタージュは濃すぎず、薄すぎずのいい塩梅で、骨付き肉もちゃんと中まで火が通っており、サラダもいつもより美味しく感じる。買ってきた総菜がかすむような美味しさだった。
それから、私が持ってきたケーキを食べる。上にのっけるチョコレートは隆明にあげて、私たちは紅茶を飲みながらケーキを少しずつ食べていく。
「これ、EWOで初めて入った喫茶店思い出すね~」
「そうだね~。今日、このあとログインしよっか。クリスマスイベントのあれが見れるかもしれないしね」
「そうだね~」
そして、待ちに待ったプレゼント交換の時間。お互いプレゼントの入った包装済みのはこを取り出す。
「でっかい……なにが入ってるのかな?」
「フフフ…開けてからのお楽しみ~」
雪葉は差し出しながらいたずらをするときの笑みをこぼす。私も、例の時計が入った箱を渡す。
「それじゃあ、いつも通りせーので開けてみよっか」
「うん、そうしよ!」
「それじゃあ」
「「せーの!」」
掛け声と同時に、私たちはプレゼントボックスを開封する。大きな袋から出てきたのは、なんとでっかい枕だった。
「これ……」
「ああ、うん。最近、葵が眠そうでちゃんと寝れてるか心配だったから、安眠できる抱き枕だよ~。葵の好きな深緑色の。そっちこそ……これって」
「うん、雪葉がこの前ショッピングモールで手に取ってた目覚まし時計。可愛いし、ちょっと高かったから手が出なかったみたいだし……」
その「手に取ってた」というのを聞いてか、雪葉が目を丸くする。それは「どうしてそれを」という顔だった。
「実は私、あそこのショッピングモールのお店で働いてたんだよ……サンタさんになってね。そしたら、たまたま雪葉がそこにいたから……。あ、ちなみにこのケーキもそのお金で買ってきたんだ~。いつも世話になってばっかしだから、何かお礼がしたくて……」
それを聞いた雪葉は、「え……あの葵が……?」と言ってくる。私だってねぇ、成長するんです!
「そこまでしてくれなくていいのに……。なんて、人のこと言えないんだけどね。私も、最近少しだけバイトして、それでその抱き枕買ったんだ」
思わぬ偶然に、私たちは目を合わせる。
……そして笑った。おかしかった。幼馴染だけど、ここまで考えも行動パターンも似ているなんて、予想もしなかった。
その夜、家の中には私たちの笑い声が響いていたという。
ちなみに、隆明にもプレゼントを買ってきたが、どうも雪葉があげたのとどちらも同じもので、隆明は困惑したという。