#000 プロローグ
授業が、今も続いている。
金曜日の7限目、しかも古典。これほど鬱陶しい授業はないだろう。ノートを取りながら、黒板を見るたびに時計も一緒に見る。あと5分。あと5分で授業は終わる。
そうすれば、私は自由。待ちに待った一週間の終わり。
「じゃあ、最後に文法チェックやるぞ~、時間は3分」
あ~、まただよ。文法チェックとは、今日の授業で出てきた文法のところからランダムで5つを出題する小テスト。5回合わせて合計が18点以下は残って暗唱させられる嫌なテスト。でも、授業を寝ない私にとっては簡単。どうせ5割は敬語なのだから。
「はい、やめー、鉛筆おけー」
3列目からでもLEDを頭で反射するにっくき古典教師が見える。このクラスもそうだが、学年ではこの古典教師の評価は二分している。いい先生か、生徒の敵か。私はどちらかというと生徒の敵派閥。テストも難しいし、問題数が多いから時間配分間違えるとダメだし。
「じゃあ、来週は教科書の132ページからなー」
うぅ、今度は漢文だ。めんどくさい…。
〇 〇 〇
号令がかかって授業が終わる。私…中町葵はバックに教科書を入れていく。明日は学校は…あるんだった。この学校土曜日も午前だけあるんだよね~。
帰り支度をしていると、一人のクラスメイトが私の机の前に来た。
「ねー、葵! これ! これ見て! 」
「どうしたの、雪葉」
目の前に来たのは幼馴染の福井雪葉。みんなからはゆっきーとかゆきちゃんと呼ばれている。私よりも髪が長くて、私よりも身長大きくて、私よりもかわいい。だから私のあこがれ!
昔はよく「ゆっきーみたいになる」って言っていた。
そのゆっきーがこんなにはしゃいでいるのだ。ただ事ではない。
ゆっきーが持っているのは、支給されているパソコン。そして、そこには私たちがやっている大人気RPGMMOゲーム、『Extra World Online』…通称EWOのホームページ…のニュース画面があった。
そこの一番上には、「Extra Eorld Online のVR化の開発に関してのご報告」という欄が存在していた。
「そういえば、半年前のメンテナンスで開発をするって言ってたっけ」
「そう! それで、とうとう目途がついたんだってよ!」
「え!? ほんと!? 」
私が受け取って下にスクロールさせると、そこにはこう書いてあった。
『Extra World Online のVR化開発を進めていましたが、開発の目途がたったのでご報告させていただきます。
・VRMMOゲーム Extra World Online 専用ソフト&専用コントローラ を今年の10月に発売いたします!』
という記述が。
「10月…10月かぁ。文化祭もあるし、中間考査もあるんじゃないの?」
「う…」
「それに、雪葉は秋大会もあるじゃん」
「うう…」
「この前、古典ピンチだったでしょ?」
「ううぅぅ~…葵、助けて!!」
うん、できれば私も助けたいんだ。でもね…。
「私も、数学がやばいんだ…。三角関数が英語に見えてきて…」
「暗い顔しないで!わかった、教える!教えるからぁ!」
バリバリ文系の私に数学を理解しろというのは、たとえ天地がひっくり返ってもなすことができない行為。対して、雪葉は国語全般が大嫌い。得意苦手が正反対だから、テスト前は教え合いをやっているのだ。
「じゃあ、中間と文化祭終わったら、一緒にやろうよ、EWO!」
「うん、私はいっけど…雑魚だよ?」
雪葉に誘われてEWOをやっているが、操作が下手なのかスキルの取り方が下手なのか、全く強くなれない。無課金トップランカーのゆっきーと戦えば1分も持たずに負ける自信がある。
「だから言ってるじゃん。剣士なのになんで遠距離スキルをとるのかって」
「だって、ダメージ受けたくないじゃん…遠くからなら攻撃しても【カウンター】とかで体力削られないし~」
「あーうん、だからHPとVIT上げないとって言ったのに…AGIとMPとDEX特化の剣士なんていないよ…」
そこを突かれると痛い。魔法剣士だから魔法使える…だったら魔法の威力も…と思ってINTにも振ったけど、逆にダメだった。
中途半端なHPにVIT,STRじゃ、雑魚剣士としかいいようがない。
「でも、そんな葵にいいニュースがあるのだ!」
え、なになに?そういわれると気になっちゃうよ。
「なんと、このVR版は、全てのデータがリセットされるんだって!」
「え!? ほんと!?あ、でも…」
リセットは素直に嬉しいけど、それだとこれから10月までEWOに課金する人がいなくなって運営が困るんじゃ…。
「それは大丈夫!今度EWOで大規模イベントがあって、賞品のメダルが手に入れば、VR版でレアな装備が手に入るガチャができるんだって。しかもそのメダルの数は全部で100枚。プレイヤーの人口は3万以上いるし。課金勢はそれ狙ってじゃんじゃん課金して、VR版を始めるのに投資するもの。ちなみにメダルはシリアルコードになってて、VR版始まって入力すればもらえるんだって」
「ふーん…だったら大丈夫なのかな…?」
雪葉の話を聞く限りでは、そんな事態にはならなそうだ。EWOの廃課金勢は1000人を超えているらしい。
…私は、ゲームに課金するくらいならかわいいぬいぐるみとか、アクセサリーとか買いたい。
「はーい、みんな席つけー、終礼するぞ~」
さっきの古典教師が戻ってきた。終礼が早く終わるからいいけど、やっぱこの人が副担任とは、私は不運だ…。
雪葉が「あとでね」と言い残して席に戻っていく。
…帰ったら勉強しよう。
しっかりEWOできるように!
連載はこrで2つ目。慣れないところはありますが、よろしくお願いいたします!