勇者 to 八人目の魔王の話だけど
これは勇者と魔王のものがたり。
あるところにとても強い魔王がおりました。
魔王は怒っていました。なぜかというと、新しい勇者がその圧倒的な力で、自らが支配した世界を滅茶苦茶にしようとするためです。
停滞の魔王は現状を維持し、変化を拒絶する力を持ち、あらゆる変化をもたらすものを拒絶していました。しかしそれを許す勇者ではありませんでした。
「魔王」
「何だお前は! どうしてこんなことをするんだ!」
勇者に停滞の力は通じませんでした。停滞の魔王にとって経験のない事態に、驚き、恐怖し、いつものように声を荒げます。
「私は終わりの勇者。幕引きをしにきたよ、魔王」
「俺が魔王? ふざけるな! 意味のわからないことを! 俺はお前を許さない。世界を守るために戦う俺の邪魔をするお前を!」
魔王はここに居ない仲間たちを思って、悔しさに涙を流しました。鍛えられた魔王にスキはなく、剣の切っ先に乱れはありませんでしたが、そのどれもが勇者には通じません。
「あなたは……あなたは、そうやって全てを否定してきた。仲間を愛する他者の気持ち、迫害を受けて苦しむ心、未来への不安、共感への期待、幸福の探求、進化の道程、未知の可能性。どれもが行き過ぎたものだとしても、全てを構わず切って捨てた。何も顧みることなく」
「ふざけるな! お前も、俺の前に立ちはだかるのか! 人類を守るために、俺はずっとずっと戦ってきた! ずっとだ! なのに、なのに、なにが魔王だ。こんな狂った世界、俺は許さないぞ!」
停滞の魔王は子どものように喚き散らし、剣を勇者に突きつけます。
「ふざけるな! ふざけるな! 俺には、俺には、守りたい世界がある!」
「そう。今までの魔王も、きっとあなたと同じ気持ちだったろうね。だけどもう物語は終わり。幕引きなの」
「だまれ! だまれ! どんな理由があっても、お前が俺にとっての悪だ!」
「あなたに話が通じるとは思ってないわ。でも……」
なんやかんやあって究極ともいうべき"力"を手にしたかつての勇者……停滞の魔王は、更なる"力"に目覚めて終わりの勇者に迫ります。けれども、
「褒められたものではなかったかもしれないけれど、あなたの活躍は、きっと誰かの心に残るわ」
停滞の魔王の力は、終わりの勇者には通じませんでした。
勇者はどんな魔王が相手でも負けません。
とても強いのです。
「私は終わりの勇者」
魔王(勇者)は頑張りました。皆を、世界を、少しでも長く、存続させるために、頑張って、頑張って、この世界を7回(話)も長引かせたのです。けれど、もうここでこの世界(物語)は終わります。
「さようなら、八人目の魔王」
おわり。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。