勇者と六人目の魔王の話だけど
これは勇者と魔王のものがたり。
あるところにとても強い勇者がおりました。
勇者は怒っていました。なぜかというと、進化の魔王がその圧倒的な力で、世界を滅茶苦茶にしてしまったためです。
進化の魔王は生命を高次元に引き上げる力を持ち、あらゆる存在を進化させていました。しかしそれを許す勇者ではありませんでした。
「魔王!」
「ほっほっほ、勇者よ。ワシになにか用かの」
勇者に進化の力は通じませんでしたが、進化の魔王はとくに気にもとめていません。
「魔王、俺はお前を許さない。人類を脅かす存在を際限なく作り出すお前を!」
勇者はここに居ない仲間たちを思って、悔しさに涙を流しました。しかし、冒険で鍛えられた勇者にスキはなく、剣の切っ先に乱れはありませんでした。
「おかしなことをいう。ワシが恩恵を授ける先には、お主のいうところの人類も含まれておるのだが。高みに至ることのなにが許されぬというのか」
「ふざけるな! お前のせいで、人類に新たな対立が生まれた! 人類以外の脅威も次第に増えていく! こんな狂った世界、俺は許さないぞ魔王!」
進化の魔王は眉間に揉むように手をあて、深い溜息をついた。
「得たものを如何に使うかはその者次第の問題よ。たとえ対立がうまれたとて、痛みの中から得られるものもあろう。成長には痛みが伴うものだ。他の生物の進化も同じこと。ワシに落ち度があるとすれば加減ができぬことだが……誓って悪意はない。事後のことはそちらでなんとかして欲しいわい」
「黙れ! ただ無作為に与えられた進化に何の意味がある! 進むというのは今ある課題を自分達で見つめ直し、進み、勝ち取るものだ! 誰かに与えられるものではない!」
「然り。自らの手でより良い未来を作り出すことが進化の根源であればこそ、我がもたらす進化を汝らが使いこなしてみせよ。それとも勇者? よもや貴様のいうところの課題とやらが、貴様の尺度で気持ちの良いものでなければならぬのか?」
「黙れ魔王! どんな理由があっても、人類を害するお前たちは悪だ!」
「やれやれ、会話が成り立たぬ。このようなものが勇者とはな。いや、こういう者だからこそか」
「今すぐに力を解除しろ! 解除する気がないのならば、斬る!」
「断る。時間がないのだ。貴様なぞにかまっている暇などない」
「俺には守りたい世界がある!」
「ならば目をつぶれ。やがて世界をひとつ先に進めてみせる故に」
進化の魔王が力を開放します。
堕落の魔王の力が際限なく高まりました。なんと、進化の魔王の真の力により、魔王が高次元の「神」とも呼ばれる高みに至りだしたのです。
「世界を救う方法は、それほど多くはないのだ」
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なんやかんやあって更なる"力"に目覚めた勇者は、進化の魔王を滅ぼしました。どれだけ進化の魔王が高次元に登っても、勇者の成長は更にその上をいったのです。
世界の平和は、守られました。
つづく。