勇者と四人目の魔王の話だけど
これは勇者と魔王のものがたり。
あるところにとても強い勇者がおりました。
勇者は怒っていました。なぜかというと、歪曲の魔王がその圧倒的な力で、世界を滅茶苦茶にしてしまったためです。
歪曲の魔王は人々の意識を操り、洗脳をすることで世界を手にしようとしました。しかしそれを許す勇者ではありませんでした。
「魔王!」
「いやマジか。来んのか勇者。ったくよう、なんで効かねぇかな意味わかんね……」
勇者に洗脳の力は通じず、あっさりと歪曲の魔王のもとへ辿り着きました。
「魔王、俺はお前を許さない。人の心を無理やり操って、世界を支配しようとするお前は!」
勇者はここに居ない仲間たちを思って、悔しさに涙を流しました。しかし、冒険で鍛えられた勇者にスキはなく、剣の切っ先に乱れはありませんでした。
「いやよう。あんまこういうの、得意じゃねえから上手くいえないんだけどよう……だって俺にはこれしかなかったし。自分ができることを、精一杯やろうって思ったわけよ」
「ふざけるな! お前の身勝手な都合で、どれだけの人の思いが、願いが、尊厳が失われたと思っているんだ! ただ平和に生きていたいという、当たり前の願いすらも踏み躙るなんて、俺は許さないぞ魔王!」
歪曲の魔王は面倒くさそうに頭をかきました。
「いうてよう、世界中はいまどうだ? 俺はたしかにヤツ等を操った。だが、いまヤツ等はひとりひとりが役割を持って生きて、何不自由なく毎日を過ごして……そんで決められたどおりに生涯を終えるだろうよ。ほうら、これが平和でなくてなんだってんだ」
「違う! 人は、悩み、苦しみ、次こそはと努力して自身の未来を自らで掴み取るんだ! 誰かにさせられるがまま、意思もなく毎日を送ることに意味なんてない!」
「はぁ? くっだらねぇ。そりゃあお前みたいな『持ってる』やつの台詞だ。できるやつが高みから偉そうに言ってんじゃねえ」
「黙れ魔王! どんな理由があっても、他者を害するお前たちは悪だ!」
「悪ぅ? この場合、どこの誰がどうやって決めたもんだそりゃあ……お前か?」
「今すぐに皆の洗脳を解け! 解く気がないのならば、斬る!」
「あぁ、ああ。くそが。お前ほど歪めてやりてぇヤツも居ねえ……まあやれるもんならやってみろ。この阿呆が」
「俺には守りたい世界がある!」
「ああそう、守りたい世界、ねえ」
歪曲の魔王が力を開放します。
歪曲の魔王の力が際限なく高まりました。なんと、歪曲の魔王の力が迸り、世界中の全ての意思ある存在が勇者の前に立ち塞がったのです。
「どうだ? その世界を相手にする気分ってのは。まあ『これ』は俺とお前の問題だろうけどよう……なんだ、んなもんに言い訳を求めてたら、いつかそれがお前を殺すぜ、勇者」
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なんやかんやあって更なる"力"に目覚めた勇者は、歪曲の魔王を滅ぼしました。魔王と全人類を相手にしても、本気を出した勇者には敵わなかったのです。
ちなみに全人類はその後、勇者が『滅亡』と『永遠』の力を上手に使ってちゃんと救いました。
世界の平和は、守られました。
つづく。