勇者と二人目の魔王の話だけど
これは勇者と魔王のものがたり。
あるところにとても強い勇者がおりました。
勇者は怒っていました。なぜかというと、滅亡の魔王がその圧倒的な力で殺戮を起こし、世界を滅茶苦茶にしてしまったためです。
滅亡の魔王の魂を奪い取る力は凄まじく、生きとし生けるものは滅びを迎えようとしていました。しかしそれを許す勇者ではありませんでした。
「魔王!」
「私の前、立つ。なのに、生きてる。そう、あなたが、勇者……」
勇者は険しい冒険と、たくさんの犠牲の末に、滅亡の魔王のもとへ辿り着きました。
「魔王、俺はお前を許さない。ここに来るまでに、たくさんの国が、みんなが、お前のせいで死んだ」
勇者はここに居ない仲間たちを思って、悔しさに涙を流しました。しかし、冒険で鍛えられた勇者にスキはなく、剣の切っ先に乱れはありませんでした。
「そう、私が、殺した。そして、これからも殺す。全ての命を、私が殺すの……一人の例外なく、ひとつも見逃さずに、きっと終わらせる」
「ふざけるな! お前の身勝手な都合で、どれだけの嘆きが、悲しみが生まれたと思っているんだ! ただ平和に生きていたいという、当たり前の願いすらも踏み躙るなんて、俺は許さないぞ魔王!」
滅亡の魔王はうつむき、唇をかみ、しかし面をあげて勇者を見つめます。
「聞いてる。知ってる。私は全部、聞こえるから。私は全部、わかるから。人だけでなく、動物だって、植物だって。耳を塞いだって、どれだけ寄り添っても、どこまで逃げたとしても……私は、」
「黙れ魔王! どんな理由があっても、他者を害するお前たちは悪だ!」
「……そう、わかっていた。勇者の魂は、きっと私たちを許さないこと、私には……」
「今すぐに皆に魂を返せ! 返す気がないのならば、斬る!」
「返さない……勇者はいったね、ただ平和に生きていたいだけ、って。それだって、人の身勝手。人だけの都合、でしかない」
「俺には守りたい世界がある!」
「そう。羨ましい、ね」
滅亡の魔王が力を開放します。
滅亡の魔王の力が際限なく高まりました。なんと、滅亡の魔王の真の力は、奪い取った魂が持つ全ての力を、完全に自らのものとすることができたのです。
「私も、守られて、みたかったな」
滅亡の魔王に死は訪れない。魂の受け皿として生を受けた器は、世界に生命がある限り何度でも蘇る。ずっと、ずっと、永遠に。
「死は、救いなの。死ねば、だれも悲しまない、いまも、これからだって。だから邪魔しないで、勇者」
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なんやかんやあって更なる"力"に目覚めた勇者は、滅亡の魔王を滅ぼしました。滅亡の魔王の魂は世界樹という創成期から在る樹木に封印し、魂の受け皿は永遠かつ無害なものとなりました。
世界の平和は、守られました。
つづく。