勇者と一人目の魔王の話だけど
これは勇者と魔王のものがたり。
あるところにとても強い勇者がおりました。
勇者は怒っていました。なぜかというと、数多の魔物を引き連れた恐怖の魔王が現れて、世界を滅茶苦茶にしてしまったためです。
恐怖の魔王は魔物を率いて、世界を圧政で支配しようとしました。しかしそれを許す勇者ではありませんでした。
「魔王!」
「とうとうここまできたか、勇者」
勇者は険しい冒険と、たくさんの犠牲の末に、恐怖の魔王のもとへ辿り着きました。
「魔王、俺はお前を許さない。ここに来るまでに、たくさんの国が、みんなが、お前のせいで死んだ」
勇者はここに居ない仲間たちを思って、悔しさに涙を流しました。しかし、冒険で鍛えられた勇者にスキはなく、剣の切っ先に乱れはありませんでした。
「何を身勝手な。我からすれば貴様らこそが暴虐非道。一体、どれだけの魔物を手に掛けた?」
魔王はまったくの心外だというように、嘆息をします。
「当然だ。お前たちを野放しにすれば、だれも安心して過ごせはしない」
「勇者よ。貴様が弱き人どもが担ぎ上げた一縷の望みであるように……あらゆる希望は、絶望との相克にある。貴様にとっての我、我にとっての貴様がまさにそうであろうよ」
「黙れ! 恐怖による支配、力による偽りの安寧になど、意味はない!」
「たわけめ。貴様のいう理屈が、貴様の剣が、我等になにをした? 魔族が挫かれ、人族だけが救済されるのならば、我等への救いはどこにある? ふざけたことを抜かすな」
恐怖の魔王が力を開放します。
恐怖の魔王の周囲に、倒したはずの魔物が無数に現れます。なんと恐怖の魔王が待つ真の力は、魔物を操るだけではなく、魂を呼び戻し無限に魔物を生み出すことができたのです。
「我に付き従いし、数多の盟友たちよ、もう一度、力を貸してくれ」
長き冒険の末に討ち果たした四将を含む、おそらくは5万の軍勢全てが蘇り、恐怖の魔王とともに勇者へ相対しました。
「このように歪みが汚濁のように渦巻く世界、最早ワシには耐えられん……怨嗟を断ち切る。邪魔はさせんぞ」
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なんやかんやあって更なる"力"に目覚めた勇者は、恐怖の魔王とその軍勢を滅ぼしました。
世界の平和は、守られました。
つづく。