2.消費か、無駄か、投資か。
プラモを無限に保存できる箱があったら、みんな幸せになるはず
ポチポチポチ
商品がカートの中に投げ込まれていく。そこはネットの海。無限の広さを持つ倉庫を抱えるネットショッピングサイトAma○onであった。
「うーん。これいるかなぁ」
「このキット予約できるじゃん」
「次はこれ使って迷彩塗りたいなぁ」
入れては削除。入れては削除。繰り返すこと5度。新キット、戦車の資料集、塗料、ツール。欲しいものをあげたらキリがない。すぐに5万円ぐらいに達して、削除。欲しいものばかりたまっていくので、最近は欲しいものリストを作ることもなくなった。
「Vtuberなろうかなぁ…」
曰く、スパチャで百万円ぐらいチャチャっと稼ぐVtuberもいるらしい。なんで世界は広いんだ。
ところで、先ほどから入れて消してを繰り返しているカートの中に、削除されないものが一つ。それは、そう。共佳に壊された5000円のニッパーである。
「本当ごめんなさい…」
共佳、スマホ越しの謝罪。土曜日の午前2時40分のことであった。弘法筆を選ばず、ということわざがあるが、は弘法大師ではないので道具を選ぶべきである、と私は考えている。B子に楽しくプラモを作って欲しいという気持ちを込めてニッパーを貸した。ついでに(高い道具持ってる私すごいでしょ)なんて、腹黒い気持ちないわけでもなかったケド。そのニッパーは、一般的なニッパーよりもパーツを切り出した時の、ゲート跡の処理の手間が省けるような切り方が出来る。その分、刃が欠けやすいので、どんなパーツを切ってはいけないか、どう力を込めたら欠けるか、という注意事項をラインと口頭で伝えたのであったが、私の努力は水泡に帰した…。
今は日曜日の午後7時過ぎ。土曜日の共佳とのプラモ作り会は、7時ぐらいであっちが根をあげた。私は10時ぐらいまで粘って、気付いたらベッドの中で17時まで寝ていた。日曜日は共佳はバイトだったので、私はプラモ作りを再開…しなかった。正確には、椅子には座ったもののTw○tterとYou○ubeの往復で時間を潰したのであった。そんなこんなで、休日は終わり、明日からまた学校。カラスの鳴き声が窓ガラスを通して聞こえる。ついでに帰宅する自転車やバイクの音も。建物裏の駐輪場へと走って行く。私の部屋は寮の1階にあるので、そういった生活音がよく聞こえるのだった。
結局、カートに入れた物はニッパーだけになった。バイトをしていない私にとって、5000円の支出だけでもかなりの痛手なのだ。
「あーあ。」
買っちった。そこそこ高い買い物をした後に後悔するのが、私の癖だ。で、コレは必要な買い物だったんだと納得させるのも。
ふと、椅子に座りながら顔を上げると白い天井。周りを見渡せば白い壁と、右にベランダに続く縦長の窓兼扉。左奥に扉。後ろにはベット。ここが、知らない天井…だったのは1年ちょっと前のことだ。この部屋に住み始めから1年と3か月ほどが経過している。
瀬戸内海周辺の某県にある、海門大学。県内に2カ所のキャンパスを持つ大学だ。2カ所のキャンパスは、簡単に言えば文系キャンパスと理系キャンパスとで分かれている。私が入学した工学部は、理系キャンパスである海門キャンパス内にあり、瀬戸内海に面した海門市内に住所がある。海門キャンパス内には、工学部含め2つの学部が入っていたけれど、どういうわけか工学部だけ中心街から離れた、そこそこ離れた小高い山の上にあった。工学部には第3キャンパス、陸の孤島、なんて呼び方があったりなかったり。
工学部内の学生寮は男子寮用と女子寮用の2つの建物があった。昔は、男子寮が2つ、女子寮が1つあったらしいが、入学者数の減少とか、男子数の減少とかで現在に至ったという話。寮の間取りはワンルーム。ユニットバス。IHキッチン。天井近くの本棚。何とシンプルなこと。シンプルイズベストだね。この狭い部屋に、机とベッドを置いたら、さあ、完成。なんて狭いこと。かろうじて、ベッドの下に、ニ○リで買ったプラスチックの洋服入れとか用のスペースはあったけれど、他の物は引っ越しで使ったダンボールを使って収納していた。こんなのが女子の部屋でいいのだろうか…いや、いい…のかな。
グゥ〜と、お腹が鳴った音が気がした。スッと立ち上がり、冷蔵庫を開け、卵を取り出し、片手鍋に入れ、11分間煮る。その間に、キッチン脇のダンボール内から袋ラーメンを取り出す。プラスチックのコップに麦茶を入れ、デザート用のスプーンを乗せて机に持っていく。コンビニで買った焼きプリンもついでに持っていく。卵が茹で上がる残り時間の間、SNSと動画サイトを往復する。椅子に座ったり、ベッドに横になったり。で、スマホのタイマーがけたたましくなったら、片手鍋をどかし、両手鍋でラーメンを作り始める。再びスマホと戯れながら時間を潰し、麺がほぐれたら、付属のスープの素を入れ、茹で卵と薄切りベーコンを入れる。
完成。名付けて、大学生のずぼらラーメン。料理というにはあまりにもお粗末である。皿も両手鍋そのままだし。まあ、お金がないのだからしょうがない。節約出来るところで節約しなくては…なんて、ズズーと麺を啜っていると、ドンドンドンとそこそこ強く扉を叩く音が。
誰やねん、とエセ関西人風に呟きながら扉を開けると、
「ヤホー」
と、高瀬都央美がコンビニの袋片手に、部屋に入り込んできた。
最近は、海外メーカーの魅力的なキットが多くて困ります