1.如何にして、ゲート跡と押し出しピン跡の処理を早くするべきか
ゲートをギリギリで切りすぎると、パーツ本体の端が持っていかれることあるよね?
パーツの裏のピン跡なら許せるけど、見えるところにあるピン跡は許し難い。
横置きにしておいたスマホの画面が暗転し、着信画面が点灯する。
私はア○ゾンプライムで垂れ流していたアニメの音が途切れたことに、15秒気づかなかった。正確に言うと、気づいたのは途切れた3秒後だったが、ちょうど40個目のティーガー戦車の可動履帯の押し出しピン穴の処理が終わったのがその更に12秒後だったからである。
[Tomoyo]
着信画面には、見慣れた名前。ふと、嫌な予感。時刻は2時33分。14時ではなく午前の2時である。既に作業を開始してから、2時間20分が経過していた。
機械力学、流体力学、熱力学の課題をPDFで提出した8分後に、今日の0時までのウェブ問題課題があったことに気付いて、27秒で4人の知り合いにラインして、答えを23時53分に教えてくれた春山さんマジ感謝。好感度1プラス。で、今週提出の課題が終わったことを全部確認して、プラモ作りを始めた現在土曜日の深夜であった。
右手にタ○ヤのニッパーと、左手にティーガーの履帯パーツとを持ちながら、恐る恐る、空いた小指で画面の応答ボタンと、続けてスピーカーボタンを押す。
「シャンシャンシャカリカ〜☆」
アイドルの歌声が聞こえてくる。
「共佳〜?」
「シャンシャン☆シャリキリ〜♪」
アイドルは歌い続けている。はなんだかんだでハイレゾ対応のお高いスピーカーを持っているので、スマホ越しでも歌声がはっきり聞こえる。
「共佳〜?」
「ごめん…フエちゃん…」
歌声にかき消されかけた声で、共佳は謝ってきた。
「…」
私は、敢えて何も言わなかった。聞こえてるし、作業を再開しつつも聞いてるから無視じゃないよ無視じゃ。ただ、このアニメみたいな時間と空間の間が私にとってはイジワルな下心をくすぐるのであった。
「フエちゃん、起きてる…?」
共佳が不安そうな声で尋ねてくる。聞こえてるに決まってるじゃん。だって休日だよ?土曜日だよ?土曜日なんて、だいたいは昼過ぎに起きて、食堂でご飯食べて、部屋戻ってベッドの上でYou○ube見ながらいつの間にか寝てるのが最高の快楽になりがちな日だよ?そんなのが嫌だから、こうして課題を(自分の中では)ドイツ製機関銃の射撃速度並みの速さで終わらせて、こうして最高の土曜日の使い方で始めることができた貴重な日なんだよ?寝るわけないない。
内心(なんでドイツ製機関銃なんかで喩えているんだ)とツッコミ入れつつ、
「どうかいたしましたか?」
最高に(あっちには見えていないけど)笑顔で、丁寧に返答する。
「ッ…」
共佳は察する。私が勘付いていることに。
「早く教えて頂きませんと。わたくしアニメに戻りたいのですが」
間。私と共佳が、正に水戸○門と悪代官のポジションのような、そんな微妙な間が私をくすぐってくすぐって仕方がない。
「ニッパーを…」
ほら。
「ニッパーの刃を…」
ほらほら。
「ニッパーの刃が折れちゃいました…」
「ほらー!」
部屋の主電灯を消し、テーブルライトだけが灯ったワンルーム学生寮の部屋の中で、想像通りの答えが、想像通り返ってきたので思わず叫んだ。叫んだ1秒後に(壁ドン床ドン来ないで)と内心思っていたが、幸い何もなかった。
こうして、私の5000円のニッパーは天寿を全うしたのであった…。実に67日の命であった。
読んで下さり、ありがとうございます。
続きは、接着剤の香りを堪能してから投稿します。