表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話:犬より賢いお嬢様

 僕はアーノルド家に仕える下民。

 使用人の中でも、下っ端中の下っ端である。

 しかし幸運なことに、アリサお嬢様には気に入ってもらえている。

 側付きを任せられているのは、それが理由だ……と信じたい。

「ねぇねぇ、カルト聞いて! 今日ね、学舎まなびやで「犬よりも賢いね」ってお友達に褒められたの! どう、私ってすごいでしょ?」

 美しい金髪ストレートロングヘアと青い双眸。純白で艶やかな肌の美少女、アリサお嬢様。

 あと数日で十二歳を迎えられる、立派な淑女。婚約者も決まっていて、残すは学舎を卒業するのみ。

 しかし僕は心配だ。アリサお嬢様は、如何にせん頭が……いや、いつでも独創的な発想をなさる素晴らしいお方だ。うん、大丈夫。僕のような下民が心配することではない。

「それは素晴らしいですね、お嬢様。流石です。私のような下民には「犬よりも賢い」の意味が理解できているかは定かではありませんが、まさに、その通りだと思います」

「ふっふっふー! やっぱり、カルトはおバカさんね! 仕方ないから私が教えてあげるわ!」

 ベッドから立ち上がったアリサお嬢様。

 部屋の扉を開き、パンパン、と二度手を鳴らす。

「おいでー、アレックス!」

「ワンワン!」

 急いで走ってきた茶色い毛並みの大型犬、アレックス。

 お嬢様の周りをグルグルと回ると、突然止まり、何か腑に落ちない表情を浮かべた。

 小首を傾げたお嬢様は、アレックスを撫でようとしゃがみこむ。

「どーしたの、アレックs……」

「ワンワン!」

 お嬢様の手は、見事に空を切った。

 アレックスが大喜びで僕の足元へと駆け寄ってきてしまったのだ。

 お嬢様の心温まるお気持ちを無下にして、いつも餌をあげている僕の前でしっぽを振る阿呆な犬。

(この犬、なんて空気が読めないんだ)

 僕はアレックスを睨んだ。すると「キャウゥ〜ん」と可愛い鳴き声を上げ、アリサお嬢様の方へと渋々歩いていく。

「流石です、お嬢様! アレックスはお嬢様の美貌に誘われていったようです!」

「え、でも今完全にカルトの方に……」

「いいえ、お嬢様。それは違います。そうですよね、アレックス?」

「ワ、ワオーン!」

(そうだ。それで良いアレックス。この状況を見越して躾けた甲斐があった)

 すると少し元気を取り戻したお嬢様は、

「そ、そうよね! やっぱりアレックスは私のことが大好きなのよね! ねー、アレックス?」

「……ワ、ワン!』

「うふふ。ほら見て、やっぱり犬は賢いのよ! ちゃーんと私の言ってることも理解してるし。いつも遊んであげてる私が大好きだって言ってるし。これでさっきの「犬よりも賢い」の意味が分かったでしょ、カルト?」

「え、ええ! 流石はお嬢様。低脳な私でも理解できる説明をなさるとは。やはりお嬢様は私の三倍、いや、二十倍ほどは優れた頭脳をお持ちです!」

 ご機嫌そうにアレックスを撫で回していたアリサお嬢様。

 しかしなぜだろう。急にその手が止まってしまった。

 目から光を失い、おもむろに口を開き始める。

「……サンバイ。あぁ、サンバイね! うん。私はサンバイの頭脳の持ち主なのよ! それだけたくさんのことが頭に詰まってるんですから!」

 片言でサンバイと言い続けるお嬢様。毎度のことながら、僕はこの瞬間が大嫌いだ。

 一体どういう間違い方をされているのか。本当に皆目見当がつかない。

 でもどうしても、聞きたくなってしまう。

「ちなみに……サンバイ、とはどう言った意味か。実は私、意味を知らずに申し上げてしまったのですが……」

 お嬢様は考える。冷や汗を流して、頭をフル回転させる。

 あぁ、もういやだ。なんで僕は聞かなくても良いことを聞いてしまったのだろうか。 

 でもどうせなら、後戻りできないのなら聞いてみたい。

 そして数秒後、お嬢様は何かを閃かれた。

「お、大きなコップ三杯分のサンバイ、よ。よ、よく覚えておきなさい、カルt……」

「っぷ」

「い、今、笑った? 笑ったわよね、カルト⁉︎」

「い、いえ。そんなことはないですよ……っぷ。さ、流石はお嬢様! いつも素晴らしい博識さを披露してくださり、ありがとうございます!」

 コップ三杯分の頭脳って……。

 一体お嬢様の中でのコップは、どれだけ大きいのだろうか。

 きっと、アレックスの脳みそよりは大きいのだろう。

 そうであると、僕は信じたい。

「ま、まぁ、雇い主として当然のことよ! これからも分からないことはなんでも聞くといいわ! 私が教えてあげる!」


 ホント、僕は楽しいお嬢様の使用人になれて幸せだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ