二
これはただの紙切れのようであっても、載ったインクの染みの羅列が重要だ。
一族が探し求めていた云わば秘宝を示した地図。
本物はただひとつで、羅列の何れかに隠されている。
それは珠玉の源泉。
擦れた直線は、ただひとつを残してすべてを消した。
残った最後の名前。
やっとここまで来た。
久しぶりに踏んだというのに、故郷の地は何の感慨をも生まなかった。
恐らく、彼女を手に入れた時に格別の物となることだろう。
ビル上を吹く夜の風が心地良い。
隣には苦渋を快楽へと変える悪魔。
たとえ毒であったとしても、人にとって甘美であることには違いない。
賭けを反故にする気なのか、先に見つけたぼくを差し置いて自分の物にしたいと言い出した。
それほどまでに彼女は素晴らしい。
感覚を研ぎ澄ませれば自ずとわかる優雅な芳香は、深まりゆく夜の空気の清々しさのような清澄感に、気品がありながら妖艶ともいえる魅惑的な芳しさ。
その矛盾が生む調和が、ぼくらを一瞬で虜にしてしまった。
どんなに上に厚く重ねても、肌の下を流れゆくその香りを隠すことなどできない。
なのに、それを乱す背後の邪魔な存在。
闇から這い出たばかりの鼠の、目立ちすぎる空色の視線が煩い。
追い払おうと動けば姿を隠した。
そのままおとなしく地を這っていてくれれば良いのだが……。