空を舞う私達
私はいつもヤシロの傍にいる。心の世界の中で複数の人格が色々な部屋で私の様子を見ている。彼等は性別もバラバラだ。一つずつガラス破片のような欠片を胸に抱いて、その時を待っている。亡くした者を、モノを取り戻す為に力を蓄えながら──
私はヤシロと散歩をしながら会話をする。形を生成出来ているのは『ヤシロ』だけだ。自分が光であれば、彼は闇に沈んでいた存在かもしれない。
横目でヤシロの顔色を伺う私は彼の部下のようだ。年齢は私の方が上なのに、潜っている修羅場の数が違うのだろう。それは妄想に近いかもしれないが、私の失った二年間の記憶に彼が関わっているのだろうと、直観で感じていた。
『どうしたの? ガイア。僕の顔に何かついてる?』
見られている事に気付かれていた。そんな長い時間見つめていたのだろうか。無意識凝視していたと思うと、急に恥ずかしくなってしまう。
「何でもない」
自分がヤシロに見とれていた事実を隠しながら、私達は速度を緩める。
『──ここだよ』
そうヤシロが言うと、足を止め、指刺された方向へと目線を切り替えていく。
風の中に現れた『お社』そんな言葉がピッタリの空間だった──
階段を登ろうとすると『そんな事しなくていい』とヤシロは私を手を掴み、空中へと舞い上がる。いくら現実の世界ではないと言っても、こんな感覚は初めてだ。先ほどまでいた入口へと見下ろすと、かなりの速度で上へと向かっている事に気付いた。
『怖がらなくていいよ、楽しまなきゃ損だよ、ガイア』
「……無理」
まだ返答をしただけマシだろう。ヤシロの手を放してしまうと落下してしまうのではないかと震えてしまう。幾らメンタルが強い人間でもこんな経験をしてしまうと硬直するのが普通ではないのか? 私は──ゴクリ、と唾を飲みこむと不安そうに下を見てしまう。
『下ばかり見ていると、恐怖をより感じてしまうよ? ここは上を見るべきだ。僕達は上へと向かっているのだからね』
くすくすと子供を茶化すように口走るヤシロの態度に少しムッとしてしまう自分。大人になれていたと勘違いしていたようだ。幾ら年月をかけて生きていたとしても変わらない感情はあるのだから、それもまた新しい楽しみへの一歩となっていく。
ヤシロと私が見ている世界は違う。色も形も、そして目に見えない世界も、淀みも、そこに隠れている『純粋さ』そのものも。
『手を離さないでね、君の生きている世界とは違うと言っても、落ちたらショック死するかも』
「怖い事を言わないでくれないか……」
『くすくす。ガイアは怖がり屋さんなんだね』






