ヤシロ
自分との出会いが私を少しずつ変えていったのかもしれない。微笑む唇は怪しく輝いていて、神秘的に感じる。潮来と同じような力が私にあると断言する自分を見つめながら、聞かぬより聞く方が自分の為だと思う事にした。どんな厄介事でもそう考えれば楽しい事に代わると思うから尚更だ。
『貴方の望みの為に本来の力をモノにするんだ』
広げられた両手は世界を現すように、まるで侵略しろと言っているみたいで、鳥肌が立つ。逆を取れば新しいモノを見せてくれるのかもしれない。
「それで仕事の話を聞いてもいいかい?」
話を逸らすように方向性をかえると、満足気に見える自分の瞳がキラキラと輝いていた。まるで待ってましたと言わんばかりに。
『僕達の鏡は過去と未来のはざまを漂っている。全てを本来の形にするために死者にコンタクトを取る、これが仕事の内容だよ』
過去と未来を本来の形に変える?何を言っているのか理解しがたい。困惑していると、私の様子を楽しそうに見つめ、続けた。
『自分達の生きているここは過去の住人からしたら作られた未来だ。それを自分達で書き換えるんだよ』
「書き換える……」
『そう。そしたら自分、貴方の欲しいもの、戻したいものも取り返す事が出来るさ。まぁ後は貴方次第になるけどね』
失ったものは大きい。認めたくない現実から背いて、生きてきた私からしたら得に耳が痛い話になる。要は描けに近いのかもしれない。成功パターンとしてはいいかもしれないけど、失敗すればどうなるのだろうか。本来なら聞くべきだろう、しかし私には聞く権利がない。そこまで自分に自信がないからというのも一つの理由としてあげられるが、聖花の事を考えると、どうしても自分を追い詰めてしまうんだ。
『どう?面白そうでしょ?』
軽く言葉を発する自分も自分の姿なんて相当信じられないけど、少しの希望とそして退屈な日常から逃げる為に、乗るのも悪くないと結論づけた。
「そうだね、悪くない」
『なら決まり。自分がサポートするから安心して。それと同じ名前だと呼び方、大変だと思うからボクの名前はヤシロでいいよ』
本当に適当な奴だ。自分の本当の名を捨ててまで協力するとか普通はしないだろう。
「どうしてヤシロなんだ?」
『ああ。お社からとっただけさ、簡単で覚えやすいでしょ?』
「……そんな簡単に」
『別に気にする事じゃないさ。ボク達がしようとする事に比べたら……ね』
すっと右手を差し出され、ニッコリと微笑むヤシロがいる。
『改めてよろしくね、ガイア。もう一人の僕』
「……よろしく」