錯乱する記憶
私と彼との間に流れるのは琥珀色。花が散りながら、風が吹き荒れる。私と彼は互いに微笑みながら、枯れていく美しい花の最後を見届ける。
『なぁガイア』
「何だい?」
『付き合わせて悪かったな……』
「何を今更」
そうやって若い頃の私と彼がいた。すっと風が私の記憶を吹き飛ばし、新しい記憶へと書き換えていく。どうやっても変更出来る事のない出来事で、私と彼、二人の計画。
「『繰り返すしか方法はないんだ』」
懐かしい匂いと声が聞こえた気がした。まるで先ほどまで夢の中に取り残されていたような錯覚がある。何が現実で夢なのか、その狭間が鏡のように反射して、私は苛立ちをぶつけるように、心の鏡へと拳を振るう。
パリーンと割れた鏡は8つの破片になり、そこに映し出されている自分の姿は八人いる。しかも全て年齢も年も容姿も雰囲気も違う。
――これは誰だ?
虹色に輝く一つの欠片を手にし、希望という名の光に充ててみると、それは混ざって私の一部へと変異していく。その光景を見つめる目線に気付くのは、その現象が起こっている最中だった。
『色々な霊魂を宿しているんだね。やっぱり、そうか。ははっ』
「何を笑っている」
右手に持つ破片を強く握りしめると、赤い血がポタリと垂れた。私の苦しみのように、深く深く。刻まれていくのが分かる。
『複数の自分が見えるんだろ?』
「……」
『それは他人じゃなくて、貴方自身だよ』
心の鏡は現実世界に存在するものではなく、夢とあの世の間で揺れるものだと聞いた。理解しようとは言わないし、押し付ける事もしたくないから、色々経験をすればいいと彼は楽しく囁く。くすくすと耳元で聞こえる音は、少し腹立たしいが、決して嫌なものではない。どちらかというと、懐かしいような、心地いいような……。
【あの花を覚えているかい?ガイア。】
何も知らない、私に誰かの声が届いて、心が霞んでいく。思い出さなくてはいけないと無意識に思うけど、頭の中では警報音が鳴り響いている。まるで思い出してはいけないと誰かが私を操っているみたいに。
『どうした?顔色が悪いね』
言葉では心配しているが、心では違うみたいだ。私が錯乱しそうになるのが、そんな楽しい事なのか?口に出したいが、自分の意思で上手く話す事が出来ないのだ。
「……」
『そう、それでいいんだよガイア』
――僕との思い出は全て忘れて、過去においておいで。新しい世界を、貴方の願いを叶えてあげるよ。