亡霊
私と楓は姿、形を変えながら、同じ事を繰り返す。まるで運命に逆らっているように。私は思うのだよ。運命とは流れる事の上に成り立つものではなく、自分で変えるのが本当の運命だと。例え神や仏が私達の存在を否定しようと、考えや思考を変えるつもりはない。
眠り続ける楓を見つめていると、ふと微笑みが毀れてしまう。自分の優しい部分に触れて、初めて『まだ人間なのだな』と気付く事が出来るのが、今の私。欠落品と言っていいだろう。
『お父様、眠らないの?』
眠る前の楓の言葉が何度も繰り返し、私の精神の軸の部分を狂わす波紋を呼び覚まそうとする。なぁ、もうやめてくれないか。もう一人の私よ。同じ事を繰り返して、何度愛する人を潰さないといけないのだ?自分で臨んだ事じゃないのに、何故、こんな衝動に駆られてしまうのか、自分でも分からないんだ。
「これは呪いか?」
人間を変異させる為に研究の為に、少し変わった立場で物事を観察し、その状況に合わせて行動をしていただけなのに、私も許されないという事なのだろうか……。
『そうですよ、これは呪いですわ』
亡霊は永遠に私の全てを縛る鎖になり、心を壊そうと企む。ここで彼女と話をするのは『楓』が眠りについてからのみ。それ以外は存在も感じれないし、会話もする事が出来ない。
「また、お前か。聖花」
『あら、まだその名前で呼んでくださいますの?』
クスクスと意地悪く微笑む彼女を見ていると、嫌な事を思い出す。自分のしてしまった昔の事を。頭痛と吐き気に襲われながらでも、男のプライドで、どうにか踏ん張りながら、演じるしかないのだ。彼女に弱みを見せる事自体が罪に近いのだから。
そんな私の心を読み取るように、風と一体化しながら、私の体と心を包み込もうとしている。なぁ聖花よ、そんな事をしても、私の心を取り戻す事なんて無理だぞ?
『忘れないでください。私は貴方様の記憶であり、楓の本当の姿なのですよ?』
「よさないか」
『いいえ。私の心を、魂を楓の体の一部として使い、嫁としての聖花を取り戻したいのなら、ここは引く訳にはいかないのです』
「やめろと言っている」
『くすくす。何度でも繰り返します。私は楓で楓は私。私を殺したのに、どうして複製品を作ろうとするのですか?』
残酷な言葉は彼女の口から簡単に零れ落ちる。まるで憎悪のように。そして私も聖花の亡霊を消したくて消したくて、溜らないのだ。