うずら
瞳を閉じながら考える事は自らの人生の事だろうか。何も出来ない弱い存在の私は逃げてばかりで、誰も助けれないのが事実なのだ。人を助けたいと願う前に、自分の事を出来ていないと何も状況を変化出来ないのが現実と言うもの。その現実と逃避の間で彷徨いながら、創造されていくのが人間というものだろう。
「私は現実など見たくない。こうやって眠る方が楽だから」
現実から目を背けるように、私の言葉に耳を傾けないのは楓。私の娘にあたる存在なのだ。娘と言っても本当の娘ではないのだが、全ての結論を踏まえて娘という表現が一番打倒だろう。
『眠ればいいのだよ…楓』
直視出来ない現実など、楓には必要ないだろう。今の楓にはね。私の言葉で安心しつつある娘の姿を見つめながら、頭を撫でる。私の可愛い娘、私の可愛い…愛する嫁の生まれ変わり。
何度同じ事を繰り返すのかと聞かれると何も応えれない自分がいる。だが、自分の願いを曲げてまで、事実を受け止めようとは思わない、思いたくもない。
逃げ続けれるのなら逃げ続ければいいのだ。私は心の中で呟きながら、無理矢理納得させようとする。心と身体は反比例。止められない気持ちと身体の欲は本当の自分さえも壊してしまうのだ。だが、その崩壊する感覚こそが美でもあり快楽の形でもある。
「お父様…眠らないの?」
怯えたように呟く楓の声は誘惑の色。鮮やかに私の心を塗りつぶしながら、狂わしていく。そして綺麗な色だったはずのものが残虐になり、ドス黒くなっていくのだ。私も楓も、その事実と現実に気づく事などないのだから。私達は狂った、縛られた苦しみの鎖を纏いながら、地獄の果てへと歩んでゆくのだ…。