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前編

べったべたのラブコメを書いてみました。

 うちのクラスの谷戸君は予習魔である。

 谷戸君は頭が良い。クラス一、いや、学年一だろう。学校一と言ってもいいかもしれない。

 うちの中学は市立だから、勉強なんてまっぴらという不良からガリ勉真面目な優等生までピンキリだ。けど、谷戸君はちょっと別格だ。たぶん全国模試とか受けたら成績優秀者として名前が載っちゃうんじゃないかと思う。そういうレベルの頭の良さだ。

 そしてそんな谷戸君は、三度の飯よりまず予習。予習命な予習魔だったのだ。

 私がそれを知ったのはつい最近のこと。ひと月前くらいの話だ。……谷戸君とは一年生のときから三年連続で同じクラスなんだけどね。

 ま、絡み無かったし仕方ないか。谷戸君は教室の隅っこで静かにしてるメガネ君で、私は教室の真ん中で駄弁だべってるギャル。まず関わらない。

 では逆に、今更になって何故そんなことを知ったのか。

 ……答えは単純。最近仲良くなったからだ。

 きっかけは、私達が三年に進級してからのことである。

 ……成績が落ちたのだ。……私の。

 4月の終わりに季節はずれのインフルエンザを発症し、一週間の欠席を余儀なくされた私。ゴールデンウィークも重なって、二週間以上に渡って学校を休む羽目になった。

 するとどうなるか。……まあ明白だけど、授業についていけなくなったのだ。

 私は普段学校を休まないから、休んだ時の対処なんて考えたことがなかった。特に何も考えずに学校へ行き、授業を受けはじめたところで――「あ、まずい。授業進んでてわかんね」となったわけである。誰かに聞こうにも私の仲間うちで一番頭良いの私だし、ノート借りようにもまともなノートとってるの私くらいだし、そもそも物の貸し借りとかトラブルのもとだし。……あとあんまり真面目ぶりたくないし。

 そんな風にして対処をなおざりにした結果、あれよあれよという間に授業から置いていかれ。……5月末の中間テストにて、無事爆発いたしました。あー、南無南無。

 しかし嘆いている暇はない。今年はなんといっても受験イヤー。

 どうにか遅れを取り戻さねば、と自習を始めてみた……は良いものの、自宅は誘惑が多すぎる。

 じゃあ何処でしようか――?

 そう考えたときに、偶然思い出した学校の自習室の存在。

 ――覗いてみて、良さげなら使ってみようかな――

 ……なんて気持ちで足を運んでみると、そこでは谷戸君が一人孤独に勉強していたのだ。

 正直最初は、二人とか気まずいし、やめとこうかなー、とか思ったけど。

 ……よく考えれば、いや考えなくても、学年トップから勉強を教わるチャンスじゃないコレ? などと思った訳で。

「谷戸君! お願い、勉強教えて!」

「え。いいけど」

 唐突なお願いに二つ返事で快諾いただきました。これが出来る男の余裕か……。

 そうした成り行きで、ここひと月あまり、私は谷戸君につきっきりで勉強を教えてもらっていたのだ。ありがたやー……。


 そんな中で発覚したのが、くだんの「谷戸君が予習魔である」という話である。

 それは、谷戸君に教わりはじめてから一週間ほどたったころのこと。


「そういえば谷戸君っていつも何勉強してるの?」

「何って……教科は特に絞ってないよ。大体来週か再来週の予習だね」

「サライシュウノヨシュウ……?」

 どこか別の国の言葉を聞いたような気がした。なんだよ再来週の予習って。

「そう。次の日の予習だと二日連続で同じ内容を勉強することになるでしょ? それだとどうしても授業の方がおろそかになっちゃうから。一、二週間空けるとほどよく忘れてて集中できるんだよ」

「へえ……」

「それに一度忘れてから思い出す方が記憶の定着にも良いっていう話だしね」

「うへえ……」


 ……流石に学年トップは言うこともやることも違いますわ。

 さらに谷戸君曰く、「予習した上で授業を受けると先生の思想まで見えて面白い」だとか。そんなの見えるのあなただけですよ谷戸君……。


 まあ、そんな谷戸君の変態……もとい天才っぷりはおいておくとして。

 谷戸君の個別指導によりV字回復を見せた私の学力。テスト前にも親身になって教えてくれたおかげで、期末テストでは自己最高の戦績を収めるまでに。親にも「あんた本当に勉強してたのね……! 良かったわぁ……」なんてしみじみ言われた。いや私の信用。

 まあそれはともかく、窮地を救ってもらった谷戸君には本当に感謝するばかりだ。自分の勉強の時間を削ってまで私に教えてくれたわけだから、本当にありがたい。……それでも当然のように学年一位なのは、流石は谷戸君と言うべきだろうけど。

「――というわけで、谷戸君に何かお礼をしたいなーと思いまして」

 今日もやっぱり二人だけの自習室。勉強の手を止め、ここのところ考えていたことを切り出す。

 そうすると谷戸君も、律儀に手を止めてくれる。勉強用だという眼鏡を外し、こちらを向いて話しはじめる。

「……いや、別に大丈夫だよ。見返りがほしくてやったことじゃないし」

 はわー、立派だなー……。聖人かよ……って、

「いやいや! それじゃ私の気が済まないから!」

「そうは言われてもなあ……」

「何でも言ってみてよ! ――あ、パフェ! パフェおごろうか?」

「それ西原にしはらさんが食べたいだけじゃ……?」

「あ、バレた?」

 お礼にかこつけたパフェチャンスはモロバレだった。

 ああ、ちなみに西原は私の苗字だ。

「というか、女の子におごらせるっていうのも申し訳ないから」

「……確かに男女で女子がおごってたらちょっとアレかあ。」

「“アレ”?」

「えーと……そう、ヒモっぽい。」

「ヒモは嫌だなあ。」

 たはは、と苦笑する谷戸君。ふむふむ、おごりはなしかー……。

「それじゃあ、うーん、何だろ。谷戸君にあげられるもの……谷戸君が欲しそうなもの……うーん」

「……別に、無理に捻り出さなくても良いんだよ?」

「いや! ここでうやむやにしたら私の沽券にかかわる」

「沽券ってまた大仰な……」

 貸し借りはなるべくしないのが私のモットー。形のない借りでもきっちり返さないと。

「うーん、何かないかな……」

 金品はどうにも無理そうだし、谷戸君の欲しいもの? なにそれ? って感じだし。

 そもそも私は勉強を教わったのだから、谷戸君にも何かを教えるのが対等な貸し借りなのかなあとか思ったり。でも谷戸君に教えられることってなによ。

 うーん。……あっ。

「――じゃあさ、恋愛相談とか、どう?」

「…………恋愛相談?」

 谷戸君が真顔で首を傾げた。「突然なに言い出したのこの子」とでも言いたげな顔である。

 ……や、本当その通りです、はい。……いやー、調子乗ったなあ、私。くそ恥ずいんですけど……。

 ――ええいままよ! 女は根性! 毒を食らわば皿までっ!

「そう! 谷戸君には勉強を教わったでしょ? そのお返しに、私が谷戸君の恋愛相談に乗ってあげようかなって!」

「なるほど……?」

 …………いやいや私一体何様よ。自分で言っといてなんだけどさ。谷戸君も呆けた顔してるし。

「……あー、ごめんやっぱ今の無しで――」

「――それってどんな相談でも良いの?」

「えっ?」

 まさかの食いついたーっ!

「ああ、うんっ! 大丈夫だよ!」

 思わずうんうんと大きく頷く。谷戸君が恋愛ネタに食いつくとは……。……いや言い出したの私だけどね?

 ……あー、でもあんまり重いの来られたら困るな。でも大丈夫って言っちゃったしなー……。今更撤回ってのも悪いし……。

「なら、えーっと……その……西原さん」

「な、なに?」

 目線を左右に落とし――それから顔を上げ、真っ直ぐに私を見つめる谷戸君。

 ……なんか躊躇いつつも決意しちゃった感でてるんですけど……。確かにどんな相談でも良いって言ったけどさー……。

 ……えっ何どんな重いのぶっこんで来るの?

 余命何日の幼なじみ? 十何歳の母? 三百六十何日?

「――僕に……」

 僕に!?

「――デートの……」

 デートのっ!?!?

「――誘い方を、教えてくれない……かな」

 誘い方をぉっ!?!?!?

 ……え。

「デートの誘い方……?」

「……うん。」

「それだけ?」

「……駄目、かな?」

 ………………

 …………

 ……

「――大丈夫に決まってるじゃーんっ!」

「あ、うん。ありがとう……」

 何だよ! おどかしやがってシャイボーイ! それだけ聞くのにあんなに躊躇ってたとか可愛すぎかよ!

 ……ふう。なんか安心したわー。


「で、デートの誘い方ってことだけど……相手どなた?」

「えっ」

「冗談冗談。別に言わなくていいよ」

 いきなりぶっこんだら口滑らせないかなー、とか思ったけど。流石に無理だったか。……だって谷戸君がデートに誘いたい相手とか気になるじゃん?

「まあ、言わなくていいんだけど……誘う相手によってとるべき誘い方は違ってくるからねー。……どんな子なの? どういう関係? 言える範囲で教えてくれない?」

 これは相談に必要な情報だ。決して詮索してるわけじゃないよ!

 そう自分に言い聞かせながら、興味津々で訊ねる。……いやー、だってこれ興味持たない方が無理だって。

「何か恥ずかしいな……」

「大丈夫! ここで聞いたことは誰にも話さないから!」

「それは別に心配してないよ。西原さんだし」

「お、おー……。」

 私に対する謎の信頼よ……母さんは見習って、どうぞ。

 まあ悪い気はしないけど……なんか騙してる気分にはなるなあ。いや、騙してないけども。

「そうだね、どんな子、か……」

 谷戸君は眉間に指を当てて困った様子である。ちらとこちらを窺って、うーんと考えこんでいる。……どこまでだったらバレないか考えてるのかね。私ってば名探偵だからねー。

「あ、本当に言いづらかったら良いからね?」

「……いや、アドバイス貰うんだからそのくらいは答えるよ。」

 言うと、谷戸君は視線を脇へ逸らし、後ろ頭を掻く。

 そして微かに頬を染めながら呟いた。

「えーと……真面目な子、かな」

「ほう」

 谷戸君の想い人は真面目ちゃんかあ。優等生な谷戸君らしいと言えばらしいな。

 ……ひねりが無くてつまんないなんて思ってませんとも、ええ。

「それでそれで?」

「……人望が厚い人、だと思う」

「人望。」

 ほへー。人望ねー。

 ……真面目で人望の厚い子、かあ。

 ――あー。それってもしかしてあの子(・・・)か。

 私の頭の中に一人の女子の顔が浮かぶ。

 ――うちの中学には一人、とんでもない美少女がいる。

 私たちと同じ三年生で、生徒会の会長を務める、泉さんである。

 清廉でクールな雰囲気の黒髪美少女な彼女。学業の成績は、谷戸君には及ばないものの、彼に次ぐ学年二位を堅守している。れっきとした優等生だ。生徒からも先生からも頼られて、会長として生徒会を束ねる求心力もある。

 真面目で人望が厚い……ドンピシャだよなー……。

 ……何だよ、ミーハーかよ谷戸君……まあ美少女だし仕方ないけどさー。

「はあ……」

「えーと、どうしたの……?」

 あ、思わず溜め息吐いてた。いけないいけない。これは谷戸君へのお礼なんだからね。

「ごめん、何でもないから気にしないで! ……で、谷戸君はその子とどのくらい仲良いの?」

 気を取り直して訊ねると、谷戸君は首をひねった。

「うーん……どのくらい、か」

「ほら、『友達以上恋人未満』とか『知り合い以上友達未満』とか、もしくは『他人以上知り合い未満』とか『他人未満』とか」

「……『他人未満』って何?」

「……他人というのもおこがましい関係、みたいな?」

「えぇ……」

 ……確かに、自分で言っててわけわかんないな、これ。

「まあそれは置いといて。どう? どの辺り?」

「そうだなあ……」

 谷戸君はこちらをぼんやりと見ながらしばし考えこみ、それから口を開いた。

「……改めて確認なんてしたことないから、自己判断になるけど……友達と言えるくらいには仲が良いと思うよ」

「ほほー。なるほどねー……」

 谷戸君らしい真面目な回答だ。

 まあ確かに、女子ならともかく男子で「俺たち友達だよなー!」なんて言ってる人は中々見ないような。剛田さんちのお兄さんくらいかもしれない。しかもあれはカツアゲの為の文句だしなー……。

 それにしても真面目な谷戸君が、前置きがあったとはいえ「友達」と言うくらいだ。そのくらいには仲が良いって事だよね。うーん、それは知らなかったな……。

 てか私、泉さんとは同じクラスになったことないんだよなー……ということは谷戸君とも同じクラスになったことないはずで。

 ……もしかして谷戸君って意外とやり手だったり? だって他クラの異性と仲良くなるとか結構ハードル高くない? えっ、谷戸君って陰キャじゃなかったの!? ……それは普通に失礼だな。

 まあほとんど話したことなかった私に勉強教えてくれちゃうくらいだからなー……実は隠れたコミュりょくおばけなのかもしれない。……ありうる。

 まあ、とりあえず仲は良い、と。

「ここまでの話をまとめるとー……谷戸君がデートに誘いたい相手は……真面目で人望があってモテモテな可愛い女友達、ってことでおっけー?」

「……何かちょっと余計なのが混ざってる気がするけど。」

「違った?」

 ちょっと悪戯っぽく訊ねると、谷戸君はきまり悪そうに少し苦笑い。

 けれど、一度ゆっくりとまばたくと、こちらを見て。……穏やかに微笑み、一言。

「ううん、間違ってないよ。」

 そう言ってはにかんだ。

「……そっか。」

 ――不覚にもきゅんときてしまった。

 ……うわー。ないわー。誰もが認める美少女の可愛さを間接的に肯定してはにかむ顔にきゅんとするとかないわー。字面にするとよりないわー。

 なんてーの? 惚気のろけられた気分? あ、それだ! 惚気顔にときめいちゃった感じだ、これ。

 …………不毛だわー。

 まあいいけどね! これは谷戸君へのお礼な訳ですし! 恋愛相談なんて概して惚気を聞かされるものと相場が決まってますし!

「よしっ! じゃあそんな彼女をデートに誘う方法! これを一緒に考えて行こうか!」

「……急に元気良いね?」

「ここからが本題だからねっ!」

 ……テンション上げないとなんか虚しくなりそうだからねっ!


「とは言っても、この場合の誘い方って、2パターンしかないんだけど」

「またすぐに落ち着いたね……2パターン?」

 私のテンションの切り替わりぶりに振り回され気味の谷戸君。苦笑しつつも、話の内容にはきっちりついてくるあたり流石である。

「そう。下心を全く見せずに誘うか、あるいはどストレートに誘うか。この2パターンだね」

「そうなの?」

「うん。真面目な子って、『間違ったことをしたくない』っていう警戒心が強い子が多いの。だから、態度をはっきりさせることが大事なわけ。友達としてのお誘いなのか、それともれっきとしたデートなのか、ね。」

「なるほど……」

 ……もちろん雑誌の受け売りだけど、それは内緒だ。

「難易度としては前者の方が圧倒的に難しいね。自分の気持ちを隠して何食わぬ顔で誘わなきゃいけないわけだからねー。」

「確かに……」

「その点後者は簡単だけど、これはデートうんぬんと言うよりもはや告白だから……今回の主旨からは外れそうかな」

「そうだね……」

 うーん、と難しい顔で考えこむ谷戸君。まあ選択肢どっちも潰したような感じだもんね。

「ということでー。恋愛初心者でもできる簡単な『友達としての誘い方』をひとつお教えしよう」

「! お願いします」

 ぴんっ、と改めて姿勢を正す谷戸君。良い生徒である。

「ふむ、よかろう……では今日の授業のキーフレーズを発表します」

「授業……キーフレーズ……?」

「はいそこ引っかからない。さて、今日のキーフレーズは……『じゃあ今度一緒に行こうか』、です。リピートあふたーみー。『じゃあ今度一緒に行こうか』」

「『じゃあ今度一緒に行こうか』……?」

「はいおっけー!」

 呆気にとられる谷戸君をそのままに、話をぐいぐいと進めていく。

「このワンフレーズさえ覚えれば、気になるあの子を簡単にデートに誘えます! では早速演習いってみよー」

「え? 待って、演習って?」

「『はあ、もうすぐ夏休みですね……。』」

「えーと……? ああ、うん。そうだね……?」

「『こう暑いと、水辺が恋しくなりますね。流れるプールで涼みたいです』……はいここで今日のキーフレーズ!」

「あっ、ええと。『じゃあ今度一緒に行こうか』……?」

「『ええ、いいですね。行きましょうか。』……カァッットッ! ……ぐれぇぃいとっ!」

「グレート……?」

「そう! これで谷戸君はプールデートの約束をとりつけました!」

「え? でも具体的なことは何も――」

「そう。そこが今回のポイント。具体的な内容を指定しないことで受け入れる心理的ハードルを下げて、とりあえず口約束しておく……これが真面目女子には有効です」

「そうなの?」

「うん。真面目女子は約束を反故にする事を嫌うからね。一度口約束でも結んでおけば、後は谷戸君がセッティングするだけ。それだけで、約束があるから相手は断れないわけ」

「なるほど……」

「どう? 参考になりそう?」

 尋ねると、谷戸君は深く頷いた。

「うん、ありがとう。参考になったよ。……ただ」

「ただ?」

「これって相手がどこか行きたいって言わなきゃ使えないんじゃ……?」

「あー、まあそこは運だよね……。まあ誘導するって手もあるけど」

「誘導?」

「話題をそっちに向けるってこと。新しいお店が出来たとか、旅行の予定とか……そういうのを話題にするわけ。ただ若干わざとらしくなりやすいのが難しいところだね」

「うーん……」

 眉間をおさえて真剣に悩む谷戸君。そこまで本気なんだね、うん……。

「まあ夏休み前だからそういう話題も出ると思うし、意外になんとかなると思うよ?」

「……確かに、ちょっと気が急きすぎかもね」

「そうそう。どっしり構えてた方が谷戸君らしいよ。予習でも何でもしてさ!」

「ふふっ。うん、そうだね」

 谷戸君の大好きな予習を引き合いに出すと、谷戸君は少しも含むところのない、温かな笑みを浮かべる。

 ――こういうところ、谷戸君は大人だよなあと思う。ちょっとからかっても、動じなくて。かと言って無反応でもなくて。春の日の陽気のような、穏やかで暖かな雰囲気。何を言っても許してくれそうな、包容力のある男性? って感じ。

 端的に言って格好良いと思う。

 そんな彼を夢中にさせる泉さん。……ちょっと羨ましいなー、なんて嫉妬したりして。

 ――だから、ちょっと冒険しちゃおうと思ったのだ。

「……そうだ、折角ならさ。今のうちに予習しておこうか」

「予習……?」

「……デートの予習、だよ。」

「え……?」

 話が読めていない谷戸君に、精一杯の蠱惑的な笑みを向けて告げる。

「――私と、予習デート。……してみよ?」

 その言葉に、谷戸君は、珍しく顔を真っ赤にして。

 視線を左右に泳がせながらも、最後には私の目を見て。

 ――こくり、と。

 無言で頷いたのだった。


 ――ちなみにその日の夜、「『予習デート』って何だよ!?」と私が悶えたのは言うまでもないことである。


(後編に続く)

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