表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時を超えし者  作者: 高遠 真也
第一章(仮)
9/28

第八話 取調

大空誠一の前に現れた女性。

その瞳からは何が見えるのだろうか

 応接室までの道のりは短い。だが今日に限って言えばとてつもなく長かった。彼女には黒田さんがついているので急に自分にひっつきに来るということはないのでその点から見れば安心できる。が、反面寂しい感情も僅かながら感じている。あれほどの風貌の持ち主が何故自分に?ハニートラップなら諦めもつく。しかし、そんな感じには見えない…何故だ?思考回路が堂々巡りに陥る。


 やっと辿り着いた応接室。この扉の向こうから出て来るときは何を抱くのだろう…扉に触れてこれから始まる議論に臨んだ。長机が扉の方を除いて三方に配置されており、杉並さんに左側の長机に座る様に促された。彼女は黒田さんに右側の長机に座る様に誘導された。


「では、今回の件について説明せてもらいたいが、まず星原瑞樹さんの言い分を聞かせてもらいましょう。」


 そう口火を切ったのは杉並さんだった。彼女は星原瑞樹と言うらしい。


「私は、単にこの人にお礼を言いたかっただけなんです。」

「なるほど。しかし、お礼ならあの現場であったはずでは?」

「お礼は言いましたが、聞いてもらえなかったんでちゃんとした場で言いたかったんです…」

「あれがちゃんとした場とでも?」


 星原さんの意見は理解できる。しかし、それ以上に杉並さんの意見が筋を通しているのである。


「あの場で言わないともう会えないと思ったので。」


 旅は道連れ世は情け、一期一会…そう思いながらも必死に笑みを漏らすまいとして仏頂面を維持する。


「会えなくても良いと思うんですがそれは。」

「なんで会えないことが良いんですか!」


 確かに会えないことは辛いであろう。会うくらいなら自分も良い、だが自分の裏の顔が剥がされるのが怖くて今この状況になっている。


「別に会うことくらいいいじゃないですか。それとも会ったらマズイことでもあるんですか?」


 今凍った。この場が氷河期に回帰した感じがした。それほどまでにこの言葉は冷たく三人の心に深く刺さったのである。もし、俺の正体がバレたとしたら、他の人に何されるのか分からない。なんとか隠し通さねばこの世界に生きる道はない。こう切り込んだ。


「そこまで仰るのなら条件次第では会うくらいならいつでも良いですよ。」


 杉並さんと黒田さんは開いた口が塞がらないようだ。もし、正体がバレたとしたら自分たちのクビが飛ぶだけでは済まないはずだから。


「ほ〜ら〜。やっぱり君はお姉さんのことが好きなんだ〜。」


 これは殴っても許されるのかな?そろそろそうでもしないと自分の貞操が危ない。杉並さんに目配せする。それを察したのかなんとか星原さんを落ち着かせる。それにより落ち着いた様子でこう言った。


「えっと…では、面会ができるなら私はそれで良いです。」


 星原さんが自分のことを知ろうとしているのなら自分も星原さんのことを知らねばならぬ。虎穴に入らずんば虎子を得ずの精神で臨む。その為には多少は恩を売っておくほうが良いだろう。


「では、分かりました。どのくらいのペースで?」

「勿論毎日じゃないですか〜。」


 杉並さんは汗を額から垂れ流しているし、黒田さんはお腹に穴が空いたような顔で使い物にならないし、なあなあで終わらせるしかないのだろうか。それしかない。


「では毎日ということで構いませんか?杉並さん、黒田さん。」


 特に邪魔の入ることはない会議となった。確かに邪魔は入らなかったが帰る間際に、ホワイトボード用の黒板消しが僅かながら光ったのが分かった。なるほど、やはり監視はしっかりされているようだ。それに杉並さんと黒田さんの様子は実際はそこまで悪くないとみられる。治安維持隊もなかなか面倒な手を使うものだ。敵を欺くにはまず味方から。確かにそうだが、自分に相談して欲しかった気持ちも微かにある。


 部屋に入りベッドで寝ようとすると後ろから知っている声がした。肩が上下に動きながらも振り向いた。そこには天枷さんがいた。


「ちょっと!あんな勝手なことされたら困るんですが!」


 胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄ってくる。


「すみません、でもあの人悪い感じではないし大丈夫だと思いますよ。」

「そういう問題じゃなくて、勝手に行動するのが悪いんですよ!」

「だから謝ったじゃないですか…」

「次からは先送りにして私に相談してください。」


 こんな風にこっぴどく叱られた後に、萎縮してベッドで意識を飛ばしている。意識を飛ばすのは語弊があるので上の空になると言おう。そんなことをしていたので窓は斜陽を通し、自分の両頬を紅く染める時間となっていた。


「この世界の夕日はなんとも綺麗なもんだな。これが異世界という所なのか。技術が発達しているというこの国に自然と調和できる力があるとは。義理と人情が多くの人にあれば良いな。」


 気がつくと斜陽の光を受けていた頬に涙が滴るのがわかった。なんでこんなことで泣いているんだろう。この世界はなんとも不思議だ。異世界だからという言葉で片づけることもできるだろう。実際そうした。だが、言ったすぐそばからこう思うのは不徳だろう。支離滅裂とした自分はどこへ行くのか。

勝手に星原さんと毎日会う約束をした誠一。

普通なら存在自体を消去されてもおかしくないのにネ。

なにが彼をそこまでさせるのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ