第五話 収集
自分の置かれている状況がある程度理解できた誠一。さて、物語はどのように動き出すのか。
青白い天井をベッドで仰向けになってみるのは心地いいのだろうか。答えは分からないが、現に今その状況になっている。こんな事になるならいろんなことを知るべきだった。異世界に転生だと?今でも信じられん。王道なシナリオならもっと魔法とか使えて、チート能力があって、ハーレムとかそういうのではないのか!魔法は今の所それらしい光景は見たことはない。チート能力とは違うが電気を操ることはかなりのアドバンテージといえよう。だが、それも制御が必要。ハーレムには興味ないからそれはいい。
壁に掛けられている時計をみるともう12時だ。天枷さんや佐原さんの話を聞いていたので、マサヒロが持ってきてくれた朝ごはんは結局食べることができなかった。この朝ごはんを昼飯として食べよう。ご飯の内容は、味噌汁、煮干し、納豆、ご飯という大変質素なものであった。むしろ、健康を維持できるので有難い。
食事を済ませると少し外の様子が気になった。周りの動向が気になったのである。警察署から眺める街はどのようなものであるか。そして、その街はこの世界には縁もない自分を受け入れてくれるのであろうか。そんなことを考えながら黄昏ていると、ドアの前で艶のある声がした。天枷さんの声だ。入る旨を聞いたので、中に入れた。
「では、大空誠一さん、あなたに対する処遇は治安維持隊預かりとなりました。色々と不便をかけることになりますが、その所はご了承ください。」
治安維持隊預かり、それは、また島崎警視と顔を合わせる必要があるということである。辛いが、自分の言動には責任を持てと親父が言っていた。これから関係を修復すれば良いのだ。確定ではないとはいえ、これで治安維持隊とパイプを持つことにもなる。
「上の空のところですみませんが、こちらの機械を受け取ってください。」
そう言われ、天枷さんが持ってきたアタッシュケースを開けながらそう言った。その中には8センチ程度の大きさしかない板状の物と腕時計があった。どちらも重厚感のある漆黒を纏っていた。
「これはなんですか?」
「こちらの板状の物は遠隔カメラ装置です。簡単に説明しますと、耳に装着するものです。そして、このカメラを通して、こちらであなたの動向を確認させてもらいます。」
自分は保護されているのか監視されているのかよく分からん。
「えっと、眼鏡かけていても大丈夫ですか?」
「勿論大丈夫です。試しに着けてみましょうか?」
「はい、お願いします。」
天枷さんの手は女性らしい手で白く、そして指は細く。触れてしまえば折れてしまいそうなそんな脆い印象を受けた。そして透き通る肌に思わず見とれてしまいそうになった。そして、その神秘的とも言える指が自分の右前頭部の髪にあたり、少々こそばゆかった。
「違和感はない?」
「全くと言っていいほどありません。かなり軽量化に予算をかけたのではないかというのが感想です。」
話を聞いてみると予算の半分も軽量化にかけたそうだ。そういうことはよく分からないが、半分もというのは驚くのが普通であろう。そして、次に天枷さんは腕時計を装着してくれた。こちらも軽量化に重きをおいたのであろうことがすぐに分かった。なんとなくだが。
「そちらの腕時計の名称は腕時計型多機能仮想液晶と言いまして…使ってみたほうが早いですね。」
そう言うとその腕時計の液晶部分に触れた。すると、なんと言うことなのかその液晶画面から映像が浮かび上がった。3Dとでもいえば良いのだろうか。そこからは色々な画面が浮かび上がってくる。同時に多面確認できる優れものだ。天枷さんが指を指しながら言った。
「まずこの画面ありますよね?それをタッチしてください。」
促されるままにタッチした。が反応しなかった。なぜ反応しなかったかというと
「あ、それ画面じゃなくて液晶ですよ…」
液晶部分に触れていたからである。これは難しいな。気を取り直して画面部分に触れてみる。すると何やら自分の情報が出てくる。
「今行なっているのは、オーナー確認ね。」
「オーナー確認とはなんでしょうか?」
「その腕時計の持ち主の確認よ。色々と便利だから。」
「は、はぁ…」
かなり面倒だと思われたが僅か数十秒で済んだ。
「すみません、外出っていつから可能ですか?」
さっきの腕時計でも情報収集はできる。だが、人の心情というものは実際にあってみなければ分からないが。しかし、外出が可能になったところで行くアテもない。
「外出できるようのは明日からとなっております。そして、外出時にはボディーガードを2名同行させますがよろしいでしょうか?」
それを聞いて、首を縦に振った。それを見た天枷さんは退出した。さて、どうしようものか。まずはこの国の法律について知る必要がある。歴史やら地理はいま必要だとは思えない。しかし、法律を知らないとこの国では生きていけない。日本とは違う点が必ずあるはずだ。この違う点を見落としてはムショ暮らしが始まるのは手に取るようにわかる。それと、必要最低限の教養だな。今日中にそれを調べなければならないのだ。面倒であるが、それをやらねば生きていけない。そう思っている。そんなことを考えているうちにドアが開いた。
「ソラサン、何カオ困リデハナイデスカ?」
なんとタイミングが良いんだ。常にマサヒロは監視してくれているのだろうか。
「ちょうど困っていたんだ。この国の主要な法律、この国の教養を検索することはできたりするか?」
「モチノロンデス。」
麻雀もこの世界にあるのか、やっているとボケにくいらしいからな。そういや病気とかもどうなんだろうか。まあ、後で調べたら良いか。
そうして、自分とマサヒロの情報収集が始まったのである。
さて、こんなスローペースがいつまで続くんですかねぇ。
読者の方には申し訳ないですが、後もう少しだけこのペースが続く予定です。