第二十一話 研究
長らくお待たせいたしました。
読者の皆様にお詫び申し上げます。
自分は椅子から転げ落ちた影響で失神したらしい。その間に病室に天枷さんが運んでくれた。それからというもの研究室では大騒ぎだったらしい。それも自分と最初に会ったときには解析は済んだと言っていたのだから。その実験対象から力が感じ取ることができないというのは研究者としては泣きたくなるだろう。研究者の本分は新しい技術で世の中を幸福にするということだから、その悲しみは計り知れないことは察することはできる。
「大空くん、紅茶飲む?」
天枷さんに勧められて生暖かい紅茶の入ったティーカップをガラス製の机から取って飲んだ。その液体は自分の喉をスルスルと通っていった。その感覚は禁断の飲み水を摂取したようなものがあった。それを机において呟く。
「これから自分は一体どうなるのか…」
実際力をなくした異世界人に価値はない。これから価値を見出したいがそんな時間はないだろう。実験台になるのが関の山だ。いっそ逃げ出したい。そんな感情が募るばかりであった。逃げるあてはヴァンクールの周防ぐらいしかない。
「大空くん?」
「え?あ、はい。」
そんなことを見かねたのか天枷さんは頭を抱えてうなだれている自分を覗き込んだのだ。正直驚いた。普段は適切な距離を向こうから置いているからだ。そんなことを考えることを知らずにじっとこちらを見ている。
「その、何か顔についていますか?」
そのように天枷さんに言うとまじまじとしたひょうじょうを見せてこう言った。
「額に大きく文字が書いてあるよ。」
その一言に驚き額を触る。当然文字が書かれているので分からない。なので鏡が必要となる。そのために鏡を探していると笑いを堪え切れなくなったのか横隔膜を痙攣させるような動作を見せながら手を口に当てた。その一連の行動に頭上に?を浮かべた。何か面白おかしい事でもあったのだろうか。尋ねてみるとこう言った。
「文字なんてどこにも書いていないのに真面目に探している様子を見たら可笑しくて。」
普段真面目な天枷さんが抱腹絶倒する姿を見たので呆れてものが言えなかった。そんなことから目を逸らし窓の外を覗いてみる。ここは地上からいったいどれほど離れているのだろうかというくらい下にいる人が小さく見えたのだ。今いるところは神々の住んでいるところなのではないかと思う。それを思わせるほどの高さがこの研究所にはある。自分が果たしてここにいていいのだろうか。生きていることさえ拒絶したくなるのはなぜか。この衝動は一過性のものなのだろうか?そんなことを考えていると未来を見据えようとする目から大粒の涙が一滴床に落ちた。
そして、暫く涙が落ちたところで後ろの扉が開いた。振り向くとそこには佐原さんの姿があった。そして近づいたと思ったら既に自分の左腕を持って連れられた。その行き着いた先には先ほどの研究室だった。何やら佐原さんの表情から察するにもう一度検査したいということであった。検査自体は体力を消耗する訳ではないがどことなく面倒なのである。だが拒絶をしてしまえばそれ以上に厄介なことが起こりそうなので嫌々承諾をした。それを受けてベッドに横たわろうと思ったら佐原さんに制止された。
「横になる前にちょっとこの画像を見てくれ。」
そう言われ腕時計型多機能仮装液晶のPC版?に映し出されている画像を見た。素人にはさっぱり分からない画像だ。
「この画像についてだがこの折れ線グラフの座標平面上の説明をする。X軸は経過時間、Y軸は力の大きさである。」
ありがたいことにそのような基礎的なことから教えてくれた。
「X軸の値が小さい時はY軸の値が大きい、つまり私が接触した時にはまだ力はあったんだよ。それから暫くはその値を維持している。だがその値はある時を境にして急激に下がっている。遂には実測値は0となった。」
その折れ線グラフを見て一つ疑念に思ったことがある。一回周防と仕合した時にあの力が発動した。しかし、グラフを見ても急激に上がった所は見受けられない。その値が急激に上がっていないとなるともう一つの仮説が成立する。それは、値は常時高いがある条件下でしか力を発揮しないということである。それは次の佐原さんの一言で白黒着いた。
「おそらく、常に高い値は出る。そして特殊な状況でのみしか力を出さないということだ。」
推測は当たっていた。では、何故その値が急激に下がったのか。考えられるのはこの世界には魔力という概念があり、その魔力が尽きたということにより値が下がったということである。しかし、日課としている調べ事の時にはそんな魔力関係の情報はなかったはず。メガネに映るグラフを見ながら頷いた。もう一度じっとグラフを見ていると衝撃の事実があったのである。急激に下がった時間帯が丁度夢の中で星原さんに襲われた時なのである。古代ローマでは30まで貞操を保てば英雄とか言われていた。そして日本では30過ぎたら魔法使いになれるという都市伝説があるがそれが関係しているのか?様々な考えが激流のように頭を巡り巡る。
「では、その力を引き出すためにちょっと色々と測りますか。」
突然佐原さんにそう言われて頭を抱え込んだ。また測るのか。いつまで測れば気がすむのか。そう思いながら悩み続けていた。




