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時を超えし者  作者: 高遠 真也
第一章(仮)
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第二十話 喪失

誠一に忍び寄る黒い影とは一体何でしょうか?

今回は話の都合上少し長くなっております

ご了承ください

 自分が起きたのはまだ明け方でもない朝の四時であった。まだ一時間しか寝てないと思うとまだ寝ていたいが、それにしては疲労感が取れているので体を起こす。が、体が起き上がらない。体をもう一度起こそうとしても結果は変わらなかった。しかも手が頭の上にあるのである。その拘束された手をなんとかしようとするが、拘束されているので自由がきかない。止むを得ず足を動かそうとするが、これまた手錠により拘束されている。いつから人質となったかは覚えていない。そもそも、人質ということ自体間違っている可能性だって否定できない。手と足の手錠はそれぞれベッドの柱に鎖で繋がれている。いわゆる監禁状態だ。冷たい金属はじぶんの心までを凍らすように重く、そして薔薇の棘のように深く刺さった。


 周りの状況を確認するとカーテンはしまっていてそれは揺れていない。そこから推測すると、外からの侵入はない。次に服装は寝る前と全く同じ。遂に、自分が誘拐される日が来ようとは思いもよらなかった。辞世の句ぐらい読ましてもらえるだろうか。そんな脱力感しかない状態であった。この電気の点いていない部屋で助けを待つしかないというのか。マサヒロはどこにいるのかもわからない。そんな現状に嘆くしかなかった。カチッ。そういう音が響いたと同時に脱衣所の方から人が歩いてきた。暗くて誰なのか判別できない。カーテンをすり抜けて差し込む光に照らされてやっと誰か理解できてしまった。星原さんだ。しかしその表情からは普段から見られる生暖かいものは皆無であった。もう逃げる場所などない。もたもたしている間にも星原さんはこちらに近づいてくる。自分は必死に顔を歪めながらでも冷たい枷から脱出しようとする。


「誠一くん、我慢しなくていいんだよ。」


 あ…これは遂に終焉を迎えてしまうのだろう。


「それよりこの手錠を外してください。」


 言葉の抵抗を初めて見たが星原さんは不敵な笑みを浮かべた。


「キミが助けに来た時のお姉さんってどんな感じか覚えている?」


 そのあまりにも拍子抜けした質問に驚く。


「え…どんな感じか…」

「今の誠一くんのように拘束されていた。それをキミはどんな風に見ていたと思う?」


 自分の発言を遮断され、徐々に主導権を奪われつつあった。


「そう、キミは恥ずかしがっていた。お姉さんのあんな姿見たらそうなるよね。」


 そう言いながら自分の右手を手に取り、星原さんは彼女自身の淡白い左頬に当てた。自分はこの光景を見たことがある所が実際に経験している。


「さて、あの時の続きを始めましょ♪」


 絶句した。まだあの時のことを憶えているとは頭の片隅にすらなかったのだから。あの時はなんとか杉並さんと黒田さんに発見されたので逃げられたが、この状況ではそれは不可能に近い。朝の四時で個室にいる。そして、手足の自由を奪われているのだから。懸命に抗うもそれは赤子の手を捻るように制圧されてしまった。


「いい加減負けを認めたら?」


 星原さんは横になっている自分を馬のように跨いだ。そのせいで星原さんの髪が自分のメガネにかかった。それでも負けを認めるわけにはいかない。認めたら悪いことが起こってしまう、そんな予感がした。


「やっと誠一くんと一つになれる…」


 そう呟き、どこからか見えなかったが裁ちばさみで自分のシャツを裂いてくる。そして自分のシャツを開けてじっと見つめてくる。不敵な笑みを浮かべながら胸にある突起状の物を爪先でコリコリ弄る。声を抑えたいがそんな感情は星原さんの技術によって踏襲される。快楽という底なし沼に吸い付かれてしまったのだ。それに陥ってからは展開が早くなったが最後の気力を振り絞って抗う。たとえ醜くてもそれでいいのだ。それでもなお手を止めない星原さんはズボンを下げようとする。


「それだけはやめてください…」

「やめてほしい時はどんな風に言えば良いんだっけ?」


 ここまでくると精神的に来るものがある。返答に迷っていると星原さんの両手はさらにズボンに近づいて来る。


「星原さん…ズボンを下げるのを…やめてください…お願いします…」


 泣き声にも近いその悲痛な叫びに星原さんは承諾したのかやめた。プライドを脱ぎ捨てるとはこんな感じなんだろう。そんなことを考えていると星原さんは急に服を脱いできた。間髪入れずに目を閉じる。そんなことをされたら理性はもう持たないと分かっていた。しかし、目を開けるとそこには驚きの光景が広がっていた。星原さんの姿が見えないのである。それどころか破けたシャツは見当たらないし、破れていない全く同じものを着ているのである。さらに自分の自由を奪っていた手錠もないのである。この状況に目を丸くするしかないのである。


「今のはなんだったんだ…」


 すでにあさの八時であることが時計から見て取れる。ドアが開いて入って来たのはマサヒロだった。


「朝ゴハン、ドウシマスカ?」

「あ、任せるよ。」

「承知シマシタ。」


 正直考えるのがかったるいからお任せにしたがマサヒロはそんな自分の本心も知らずに軽やかに移動している。少々後ろめたさが募る。


「失礼します。」


 その声と同時に天枷さんが純黒とも言える髪を揺らしながら入ってきた。他愛もないやりとりをその場で交わす。そんなことをしていると何か気がついたようだ。


「大空さんって今気分とか悪い?」

「いえ、そうでもないです。」


 顔色が悪いように見られたのだろうか。あれは現実に近い夢なのだから。あれが夢であると信じている。そんなことを頭の中で考えていると扉が開いた。今度は白髪の人だった。


「また会ったな、青年よ。」

「えっと…」

「特技研の佐原だ。大空くんの能力には素晴らしいものがあるからな。」


 佐原さんはその瞳を子供のようにキラキラと輝かせていた。


「と言いますと何かあるんでしょうか?」

「君もここに来て一週間だ。そろそろこちらの研究所で解析したいが良いか?」

「待ってください、あの時に全てしたのではないのですか?」

「まあ、定期検診みたいなもんだ。そう身構えんでくれ。」


 定期検診なら断る理由もない。それに快諾した自分はすぐさま車両に載せられ三十分ほど移動した。着いた場所でそびえ立っていたのは神のいる世界まで届きそうな重厚な建物だった。こんなところで定期検診とは大層なものだと感じた。


「大空くん、付いてきなさい。」


 言われるままに自分は白衣をまとった佐原さんについて行った。建物の中に入り、廊下を突き進んだ。そしてエレベーターに乗りこみ下にある物体は点になりつつ見えた。そして止まった階で着いて行くとこれが大掛かりな装置やら置かれていた。


「大空くん、そのベッドに横になってくれないか?」


 自分はその言葉通りに指を刺されたベッドに寝転んだ。まわりは研究員が四十人くらいいると思われる。なんか自分が見世物みたいな感じがした。気の向いた時だけこっちを向いて、飽きたらすぐにそっぽを向く。そんなことがこれから自分の身に起こるのだろうと考えると悲しくなってきた。


 暫くするとCTスキャンみたいな機械が体を通った。そしてその結果をカルテに記載する。次にベッドで心電図検査みたいな機器をつけられる。それも終えると暫く外にいるように言われた。なんか淡々と進んでいて気味が悪かった。部屋の外では天枷さんがまっていてくれた。


「特技研はどうだった?」


 純粋な感じで天枷さんはそう聞いてきた。


「いや〜なんか、すごいですね。言葉では表せないような感じで。」


 回答は語彙力がない人間をそのまま具現化したようなものが発している時に感じられた。


「この世界にもそろそろ慣れてきた?」

「まあ、そうですね。少しづつですが着実に慣れてきた感じです。お心遣い感謝します。」


 その答えに天枷さんは笑みをこぼした。そして、お茶の入ったペットボトルを渡してくれた。


「そういえば星原さんとの関係はどう?」


 一瞬自分の顔が緩んだ気がしたがそんなことは気に留めない。一口飲んだ後に返答した。


「どうと言いますと?」


 疑問に疑問で返すというあまり良くない会話だが仕方ない。それに天枷さんは頬を朱に染めたのか少し照れた。


「その…彼女さんなのかなぁってこと」


 指と指をぶつけ合いながらそう発言するのは破壊力がなかなかある。それに自分はお茶を飲んでいたこともありむせてしまった。天枷さんは背中をさすってくれるがなんか背徳感があるというか、そんな感じでしか受け取れない自分に嫌気がさした。


「友人です、はい。」

「今浮気しているんだよ?」

「はい?」


 その唐突な発言に驚いた。更に聞こうとしたが部屋からの声にかき消された。その声の主はこっちに来た。


「大空くん!ちょっとこっちに来て!天枷さんも!」


 佐原さんは自分の腕を掴んで引っ張って来た。部屋の中に入ると佐原さんに椅子に座るように言われた。


「大空くん、心して聞いてくれ。」


 一呼吸おいた。


「その大空くんは力があるじゃろ?」

「ええ、暴れ馬みたいなものですが。」

「実はな、その力が喪失したのだ。」


 自分はその言葉によりショックを受けて椅子から転げ落ちた。

誠一は異世界に転生した時に何らかの影響で得た力を失うこととなった。チートなしの過去人に未来世界に太刀打ちする術はあるのだろうか。

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