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時を超えし者  作者: 高遠 真也
第一章(仮)
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第一話 船出

 2017年の八月某日、自分…大空誠一は暑さを紛らわせるためにコンビニに寄ってアイスを買い帰ろうとしていた。コンビニを出て交差点を渡ろうとすると俺は死んでいた。


 だが、この不思議な感覚は死んでいるのか?いや、死んだことがない人からすればこういう感覚なのか。少し考えてみる。歩道は青信号、暴走車もいなかった。とすると青天の霹靂なのかもしれない。稲妻が落ちて死ぬとは確率的にはどの程度なのだろう。


 これまでの人生を振り返ると小学校ではいじめられて、中学ではいじめっ子を見返そうと必死に本を読み、勉学にも励んで県内で有数の賢さを誇る男子校に入った。そして、自分を少しでも大人っぽく見せるように口調も変えてきた。なんともありきたりな人生だったのだろうと思う。


 そんな俺が高校二年という青春真っ只中でこの世を去るというのは言葉にできない悔しさがあった。人一倍勉強したというのに、神の悪戯というのはこれほど残酷とは思いもしなかった。自分をいじめていた奴がのうのうと生きて、いじめられていた自分が早死にするのは理不尽だ。


 そう思い返してみるうちに辺りが明るくなってきた。ああ、賽の河原を渡るのか。六文銭なんかないし追い返されるだろう。と思っていたがさらに明るくなり目を開けることもままならないので、止むを得ず手で目を覆い隠す。


 それから数秒経ち眩しくなくなったことが確認できたので、目を覆っていた手を下ろすとなんということか、超高層ビルが辺りにそびえ立っていたのである。思わず声を上げてしまいそうになるが間一髪のところで言葉を飲み込んだ。なんとそれだけではなく人が空を飛んでいるのである。大型の機械が人を吊り上げているのではなく、人が自由に飛んでいる。


 人類の歴史において人が空を飛ぶことを夢見る人は多い。故に神話の中にもイカロス絡みで出てくる。神話の中だけでなく現実に今起こっているのである。人は古来より籠の中の鳥であった。だが、知恵という知恵を出し合い、今や宇宙にまで人を送ることができたのだ。だが、人が空を飛ぶというのは最先端の技術といえど不可能であった。


 ここから推測するに今、自分の状況は三つに分けられる。一つは死んでいることだ。これなら納得できるものがある。二つは異世界に転生したことだ。転生…死んでいるだろうがその辺りは気にしない。三つは、生きていて夢を見ているということだ。夢オチもなかなか良いだろうと考えた。人の栄華はご飯が炊き上がるより短いと昔の偉い人が言っていたからだ。


 しかし、それにしても情報が不足している。暫く歩いてみようと思い、歩こうとすると後ろからいかにも頭の悪そうな不良三人が絡んできた。


「おいおい、兄ちゃん金よこせや?」

「金寄越さないとどうなるか分かっているよな?」

「久々の獲物だぜぇ」


 マズイと思い逃げようとするも胸ぐらを掴まれてしまった。


「離してください…今なら警察呼びませんから…」

「あ?テメェ、ぶちのめされたいの?」

「話せば分かる…」

「問答無用!」


 不良の右ストレートが飛び出してきた。もう、ダメだ…いや、死んでいるならもういいや。自暴自棄になった瞬間あり得ないことが起こった。自分の周囲から電気が走ったのである。


「こいつ、ナニモンなんだ!俺の右ストレートが全然効かなかっただと!!」

「こいつ、体から電気が走ってやがる!」

「ヒッ!に、逃げるぞ!」


 この不思議な現象のせいか自分はこの修羅場から救われたのである。なんだろうと考えていると、警察官らしき人が現れた。


「ちょっと!君大丈夫か?」

「え?えぇ…まぁ…」


 そんな会話をしながら警察らしき人の服装を見ると胸のあたりに「治安維持隊」という文字が書かれてあった。日本にはこのような機関はない。しかし、日本語を使っている。これにより自分は日本ではない日本にいると推測される。そんなことを考えていると治安維持隊の人からこう言われた。


「ちょっと話聞きたいから署の方に来てくれる?」


 学生証位しか持ってないがここで逃げるのは下策だ。状況的には任意同行に「はい」というしかないのだろうか。


「え、えぇ…構いません。」

「ご協力感謝します。」


 そしてパトカーらしき車に乗る。緊張感が襲って来た。このままだと俺は間違いなく身分証を出せと言われる。だからと言って、逃げるのは最悪の結果を招く。額から汗が溢れる。それを見たのか隣に座っている治安維持隊の人から


「君隠し事とかしている?」


 と言われコンマ数秒で応答した。


「しているといえば、していますし、していないといえば、していないです。」


 曖昧な答えだからなのか車内ではそれ以上言われることはなかった。リラックスして窓の外を見ていると車が空を飛んでいたのだ。


「車が空を飛んでいる!」


 声を上げてしまい、口を押さえた時には遅かった。治安維持隊の人の視線が痛かった。ついに白状しないといけないのか、もう…終わりだ。昨夜食べたカレーは美味しかったなぁ。どんな拷問を受けるのだろう。


「隠し事しているなら今、言ったほうがいいと思うよ。」


 そう諭されこう答えるしかなかった。


「すみません…あります。」


 太腿に乗せた手にはメガネから滴り落ちる涙で生温かった。

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