第十三話 駆引
星原さんを捜している時に迷い込んだ誠一。
そこで彼はヴァンクールというグループのトップである周防定道と出会う。
彼との勝負の最中に力を発揮する。
「なるほど、そんな力を持っているのか。」
神妙な顔をして周防はそのように口を開いた。取り巻きの二人も同じく頷いた。
「制御の利かない力なんて暴れ馬と同じです。」
あくまで力ではないということを伝えた。何故そのような能力を持っているという問いには口を紡ぐしかなかった。それ以上その事については追求してこなかったのが幸いだった。
「何故こんなところにいるんだ?」
周防のこの一言にどのように返答するか考えていた。いや、正直に言おうか。それを悩んでいた。
「実は合わなければならない人がいる。」
数秒の間静寂が辺りを支配した。嘘だと思っているのか?素直に答えるべき所ですぐに答えなかったからであろう。じっと周防の口を凝視しながらそんなことを考えていた。
「その合わなければならない人って誰なんだ?」
「ちょっとした訳あり女性なんだが。」
女性という単語に反応したのか周防は笑いながら自分の肩を叩いた。
「フラれたのか?悲しいなぁ。」
「フラれた…いや、それは向こうの一方的な好意だ。」
「わざわざ嘘つくこたぁないんだぜ?」
嘘じゃないんだなぁ…そう思っているとさらなる追求を受けた。
「惚れた女はそんなに可愛いのか?」
「確かに美人さんですが…ちょっと性格に難があるっていうか…あと惚れてないです。」
「まあまあそう意地になるなって。」
自分はその一言で冷静になった。そんなに興奮して話していたのだろうか。それとも周防がからかっているだけなのか。
「性格に難があるって口調がキツイとかそんなのか?それとも絡み酒とかなのか?」
「えっと…そういうのではなくて…」
「まぁ言いたくないなら無理に言わなくても良いんだよ。」
明らかに自分より年上の周防はそう呟いた。ベタついてくるんですとか言ったら八つ裂きにされそうだしなぁ。絶対に言えるわけがない。
「ここであったのも何かの縁だし飲めや。」
周防はそう言いながらコンテナの奥に行って、しばらくすると酒を持って出てきた。かなりアルコール度数が高いことがラベルから読み取れる。
「えっと…」
自分は未成年だから飲めない。というか飲んだことが天枷さんにバレたら間違いなく…いや、考えたくもない。
「遠慮することはないぜ。」
そう周防は言い注ごうとしてきた。言うなら今しかない。
「すみません、自分飲めないんです。」
頭を下げて言った。それでも勧められた。
「えっと…その…自分弱いんじゃなくて、17歳なんで飲めないんです。」
周防は目を丸くして驚いた。その顔からはお前の方が俺より高いから年上だと思っていた。と言うのが読み取れた。年上に対してもこんなタメ口なのか。そんなこともあり、勧めてくることはなかった。
「そういやどこに住んでいるんだ?」
自分は返答に困った。もし、彼がリーダーであるヴァンクールが治安維持隊と敵対関係にあるのなら、事実を言うべきではないからだ。そうなら自分が治安維持隊の厄介者であると言うことは愚策である。だからと言って嘘をついたとしてもこの辺りに関しては付け焼き刃なのですぐにバレる。薄氷を履むように逆質問する。
「このヴァンクールとはどういうグループなんだ。」
「リーダーである俺がいうのもなんだが義理と人情をモットーとしたグループだ。」
確かに自分の話を真摯にそして談笑していたことから見てこれは嘘ではないであろう。さらに切り込む必要があると判断した自分はさらに核となる質問をした。
「ヴァンクールは治安維持隊と敵対関係にあるのか?」
途中言葉を強めながら聞いた。周防はそれを聞いてお猪口を地面に置き、暫く目を閉じた。それは短いようで長い時間であった。互いの思惑が交錯している今、答えを待つしかない。
「大空誠一、お前は治安維持隊の者なのか?」
彼は冷静であった。しかし、奥に秘めたる闘志は真紅に染まっていた。このような時は曖昧な質問は下策中の下策。ここが正念場だ。
「そうだ。自分、大空誠一は治安維持隊の関係者だ。」
決して互いに視線をそらさずにしていた。視線を外したら負けになるからだ。そんな気がした。
「素直に言ったことに免じて聞こう。どこの部署だ?」
「正確に言うならば部署に所属しているのではない。自分は被観察対象となっている身だ。」
「どう言う意味だ?」
ここで空気をゆっくり吸い込んだ。正直にいうべきか悩んでいた。もし、ここで自分が転生者ということを明かしたら、人質になる可能性を排除できないからだ。しかし、ここは義理と人情を看板に掲げているグループの事をこれまでの人生経験から信じてみようと思った。
「自分は別世界からの転生者だ。」
「もう一度言ってもらおう。」
「自分は別世界からの転生者だ。」
どこかで見たようなやりとりが行われていた。二回聞いても答えが変わらないので諦めたのか周防は目を閉じた。再び目を開けるまで三十分ほど時を要した。それまで自分は正座でじっと待った。
「その事を知っている人は誰がいる?」
周防は遂に目を開けてそう聞いた。
「治安維持隊の中でもかなり少ない。そしてー」
天を見上げ息をそっと吐いた。
「自分が捜している女性、星原瑞樹だ。」
それを聞いて数秒の後に彼の頭の中で回路が出来上がった。
「一般人で知っているのは星原瑞樹だけ。だから捜している間にここに迷い込んだ。違うか?」
彼の頭はかなりキレがいいのか常に的を射ている。自分が開口しようとした瞬間、静寂の闇を切り裂くようにサイレンが鳴り響いた。
遠くから鳴り響くサイレンは時が進む度に近づいてきた。
二人の運命はどうなるのか。