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 守護霊の仕事って何?

 次の日。美和子の目覚めと共に俺も目覚めた。

 今日から守護霊として働く。

 ……そう言えば守護霊の仕事って何だ?

 美和子が着替えている後ろで俺はうんうん考えた。と。トイレに向かう美和子。

 俺は歩かずとも美和子が移動すれば勝手に俺の身体も着いて行く。

 ちょっと待て。

 ダメだろ。

 いくら夫婦と言えど、それはプライバシーの侵害ではないのか。

 妻が用を足している所なんか見たら、百年の恋も醒めるってもんだ。

 扉の前で、どうにか入らずに済まないかと踏ん張っていると、俺だけその場に留まる事が出来た。

「マジで助かった……」

 ほっとした。

 扉の前でぼんやりしていると、美和子が出てきて洗面所に向かった。俺も引きずられるように着いて行く。洗濯機を作動させ、身支度を整える美和子をぼんやりと見つめた。

 痩せたな。

 痩せたと言うより、やつれたの方が合っているかも知れない。

「苦労掛けて済まないな」

 俺の口から自然に言葉が出ていた。

 それに気付く事無く美和子はキッチンに向かう。


 キッチンに入ると、おふくろがすでに流しの前に立っていた。

「おはようございます。義母さん」

 美和子が挨拶をすると、振り向いたおふくろがそれに応え挨拶を返す。

「あら? 美和子さん、今朝はすっきりした表情ね。明るい感じもするし。良い夢でも見たの?」

 おふくろは、些細な美和子の変化に気付いたようだ。それだけ気に止めてくれているのだろう。妻を大事にしてくれているようで、俺は心から感謝した。

 おふくろの言葉に美和子は首を傾げる。

「そうですか? 夢は見た気がするんですけど、憶えていません。そう言われてみれば、久しぶりに気分が軽い気がします」

 と美和子は微笑えんだ。

 そうか、美和子は夢の事は憶えてないのか。夢の中で俺に会えたから美和子は明るくなったのかと思ったのに、俺はちょっとがっかりした。

 でも俺が夢に現われた事は少なからず影響しているはずだ。

 うん、きっとそうだ。

 頑張ろう。

 二人は手分けして家事をこなしていく。それぞれやる事が決まっているらしく、スムーズに作業は進む。

 俺が死んでからこっち、何度も繰り返す内に落ち着いた役割分担なのだろう。

 美和子は、おふくろのベッドで寝ている息子を起こしに向かった。


 声を掛け名を呼びながら、小さな身体を揺り動かす。

 おぉ。これが我が子か、小さいなぁ。

 むくりと起き上がり目をこすりこすり、美和子を見つめ舌っ足らずにおはよーと言う。

 なんて可愛いんだ、まるで天使だな。目元なんて俺にそっくりじゃないか。

 柔らかそうなほっぺただなぁ、ぷっくりしてる。さわりたいなー、あぁーっ抱きしめたい! 

 心の底から感情が溢れてくる。これが愛しいって感情か。


 この腕に……抱きしめたいなぁ……


「ママきょう、げんき?」

 敬太は満面の笑みで美和子に抱きつき頬ずりをする。

「ママが元気だって敬太にも分かるのね」

 おふくろも笑顔だ。

「ママがげんきだと、ばあばもげんきだね」

 と、たどたどしく言う敬太。

「くうううぅぅっ、可愛いぃぃぃ」

 敬太の余りの可愛さに俺は身悶えた。


『よう、暇か?』

 突然、閻魔大王の声がした。

「あっ、閻魔さんおはようございます。何か用ですか?」

『閻魔さん言うな。仕事前に、お前の様子見だ』

 閻魔大王はぶっきら棒に言い放つ。

「あぁ、そう言えば守護霊の仕事って何ですか?」

 俺がそう訊くと、閻魔大王はうーむと考えた後「特にない」と答えた。

「何もしないんですか」

『そうだな、見守るだけだ』

「見守るだけですか」

『そうだ』

「……忙しいんでしょ? お付きの人に怒られますよ?」

 あっ、お付きの鬼だった。と思った所で鬼の声がしてくる。

『あっ、閻魔様。こんな所で交信して! お仕事の時間ですよ。早くしてください!』

 やっぱり怒られた。

『……またな』と交信は途絶えた。

 俺の何が気に入ったのか全く分からない。謎だ。

 それより、見守る事しか出来ないなんて、家族が危険な目に遭っても見ているだけしか出来ないのかよ。

 俺は何の為にここに居るんだ。


 俺が閻魔大王と交信している間に、すっかり身支度を整えた息子を車に乗せて保育園に行くようだ。

 ってか、自動車免許取ったんだ。

 俺が居ない間に色々と変化してるな……

 チャイルドシートに乗せられて、足をぶらぶらさせて上機嫌な敬太の笑顔に見とれている間に、保育園に着いた。

「おはようございます」

 保育園の門をくぐり、保育士と挨拶を交わす。

 へぇ、男の保育士か。最近は珍しくないのかな。

 ……イケメンだな。爽やかな笑顔も格好良いな、ちくしょう。

 おいおい、敬太にだけじゃなくて美和子にまで笑顔振りまくんじゃないよ。他の保護者よりも会話が多いんじゃないか?

「もう良いだろ、行くぞ」聞こえもしないのに、俺は思わず声を掛けていた。

 あぁ俺、死んでるんだった。


 ……美和子が再婚するかもって、微塵も思わなかったな……

 確かに、霊体の時赤ん坊を抱いた美和子を見た時には、再婚したのかと思ったよ? でも、今は思っていなかったと言うか、考え付かなかったと言うか……


 美和子は車に乗り込み、次の目的地に向けて車を走らせる。しばらく走り続け、車はビルの地下駐車場に吸い込まれて行く。その一角に車を停め、美和子はエレベーターで五階に上がり、オフィスのドアを開けた。




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