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セブンスターズの印刻使い  作者: 白河黒船/涼暮皐
第三章 魔競祭事件
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3-04『共犯者』

「――こんにちは、マスター。ブレンドをひとつお願い」


 逆に腹立たしいくらい優雅に、颯爽と注文して、レヴィがカウンター席に座る。

 俺に対して以外は意外に人当たりのいい珈琲屋は、「畏まりました」と軽く頷いて準備を始める。

 隣に腰を下ろしたレヴィは、まずは店員の少女に声をかけた。


「こんにちは、モカちゃん。久し振りね」

「おー。レヴィねぇ。久し振りー」


 少女は独特の口調で返事をする。

 この店のお手伝いで、同時に常連客のひとりでもある少女――モカ=ブリマールという子だ。珈琲屋の知人の孫である、とかなんとか聞いている。

 小さな女の子が慣れた様子で接客しているところも、この店にとって目玉のひとつなのかもしれない。もちろん商業区としても賑わっているオーステリアのことだ、幼い子が家業の手伝いをしている程度のことは珍しくない。とはいうが飲食店の、それも可愛らしい制服を着用する女の子まではそう多くない。

 この店で働いているのは、店主マスターである珈琲屋と、気紛れで手伝いに来るこの子。それともうひとり新しいバイトを最近雇った、みたいなことを聞いた気がするが、まだ会ったことはなかった。


 異世界には、あんまり《制服》という文化が広がっていない気がする。

 学院にもそんな制度はない(校章の入った外套ローブくらいだ)し、揃いで制服を着る商店なんかも特に見当たらない。そもそもチェーン展開するような店がない。

 せいぜい王国騎士か、さもなければこのオセルくらいのものだろう。

 ちなみに、この店の制服は、地球でよく見る喫茶店と大差ない白黒のそれだ。

 こういう服を、なんて言うのかよくわからないけれど。

 ギャルソン? ボーイ? ……それ男だけだよな。

 まあ、どうでもいいだろう。


「ゆっくりしてくださー」


 間延びした声を残してから、モカちゃんは帰る客の精算へと回っていった。

 表情の変わらない顔と、いつもとろんと眠たげな金色のまあるい瞳。気ままな性格を反映したみたいな茶色の癖っ毛も相まって、なんだか猫のようなイメージがある子だった。

 アイリスも同年代の友人がいたほうがいいだろうし、しばらく通い詰めてみようか。

 そんなことを、脳裏でつらつらと考えていた。

 レヴィはようやく俺に向き直って、わずかな笑みを浮かべたまま呟く。


「それにしても。ちょっと見ない間に、ヒトの親になってたとは畏れ入るわ」

「いや、なってねえよ」義兄にはなったけど。

 レヴィは愉快そうに笑っていた。

「なんていうか、相変わらず数奇な人生送ってるわよね」

「好きで送ってるつもりないんだけどな……」

「――初めまして、私はレヴィ。名前を聞かせてもらってもいい?」

 レヴィは軽く無視して、俺越しにアイリスへと声をかけた。

 この子もこれで案外、物怖じしない性格であるため、初めて会うレヴィにも表情をほとんど変えなかった。

「はじめまして。アイリスです」

「アイリスちゃんか。うん、可愛らしい名前ね」

「……ん。ありがと」

「よろしく」

 俺越しに片手を差し出すレヴィ。

 アイリスも応え、また俺越しに握り返していた。

 俺はコーヒーを啜る。


「腕の調子はどう?」

 アイリスとの顔見せを終えると、レヴィが俺に向き直って言った。

 俺の左腕が、未だに固定されているのを見てのことだろう。

「魔術ですぐ治療してもらったからな。重傷といえば重傷だが、治りは遅くなさそうだ」

 俺は答えた。ピトスには本当に助けれらている。

 数の少ない治癒魔術師へかかるには本来、そこそこのお金が必要なのだ。無料で治療してもらえることが、どれだけの幸運なのかは言うまでもない。


「何があったかしらないけれど。アンタがそこまでの怪我を負わされるなんて珍しいわね。いったいどんな化物とり合ってきたの?」

「……割と頻繁に怪我してる気がするけどな。特に最近は」

 まさかピトスに折られました、などと告げる気にもならず、誤魔化すように俺は言う。

 レヴィはその言葉になぜか吹き出して、皮肉っぽい視線を向けてきた。

「アンタの場合、たいていの怪我は自爆でしょう?」

「…………」この腕も自爆です、と答えたらどうなることだろう。

 絶対に笑われるとわかりきっていたので、試す気にもならなかった。

 レヴィもまた、答えないとわかっていたからだろう、それ以上の追及はしてこない。

 ただ質問を変えてくる。

「それで、どれくらいで治りそうなのよ?」

「腕の固定自体は、あと数日もあれば取れそうだな。ピトスが毎日治癒してくれてるから、十日もあれば完治できると思う」

「なるほど、あの子も甲斐甲斐しいわ。意外と果報者ね、アンタも」

「まあ確かに。今度、何かお礼しないと」

「……え。それだけ?」


 レヴィが。なぜか、驚いた風に目を見開いた。

 何か間違っただろうか、と俺は首を傾げて問い返す。


「それだけって……だって言ってもお金なんか受け取らないだろうし。だから金銭以外で返そうと思ってたんだけど……」

「そういうことじゃなくて。いや、そういうことなんだろうけど、でもそうじゃなくて」

「はあ?」

 彼女にしては珍しく、奥歯に物が挟まったような言い方をするレヴィ。

 要領を得ない態度に眉根を寄せると、やがて彼女は呆れたように溜息を零した。

 これ見よがしに、優雅さの欠片もない、盛大で大仰な溜息を。

「……呆れた。本気で言ってるのよね、それ?」

「ていうか、お前が何を言いたいんだよ」

「刺されて死ね」

「はあ!?」

「……ああ、いや別になんでもないわ」

 確実に何かある態度だった。

 何もないのに死ねとか言わんだろう。ましてレヴィが。

 こいつは直接的な罵倒より、遠回しでねちっこい皮肉のほうが好きなはずだ。

 そういう問題ではないが。

「別に私が言うことじゃないし。わからないなら、いいわ」

 言葉の割に、視線がゴミを見るような冷徹さを湛えていた。

 なぜ会って早々、こんな目で見られなければならないというのやら。

 理解できなかった。


「……なんだよ。まさか俺を罵倒するために来たわけじゃないんだろ?」

「当たり前でしょ。そこまで暇じゃないわよ」

「だったら用件を言えよ。俺を捜してたようなこと言ってたろ」

「そうね。外から口挟むのも野暮だし、本題に移らせてもらうわ」

 そこで珈琲屋がブレンドの入ったカップを持ってくる。

 レヴィは笑みで礼を告げると、それをひと口味わい、それから切り出す。


「――単刀直入に言うけれど。アスタ、アンタ次の魔競祭に出場しなさいよ」


 そのとき、俺の表情が盛大に歪んだことは、たぶん説明するまでもないと思う。



     ※



 ――オーステリア学院魔競祭まきょうさい

 それは学院において、ひいてはこの街において最も大きなお祭り(イベント)の名だ。

 魔を競う祭、という名前でおおよその内容は想像できることと思う。

 文字通り、学院の未来ある魔術師たちが覇を競う、冒険者の街らしい野蛮ながら活気のある闘いの祭典。

 学院の敷地が外部に公開される数少ない企画でもあり、ほとんど街を挙げての規模で行われる、オーステリアでは年に一度のどんちゃん騒ぎである。


 出場者は学院の生徒。あるいは、場合によっては外部魔術師の乱入もアリ。

 大きく予選と本戦に分けられており、予選は希望者によるグループ毎の総当り戦だ。

 それに勝ち残って本戦にまで出場すると、今度は決勝トーナメント戦。こちらが目玉だ。

 先月、俺たちが学生パーティで迷宮に潜ったのも、元を糺せばこの魔競祭のシード権を得るためだったのだから。

 ちなみに、当たり前だけど俺は貰っていない。貰ったところで出なかったことは別にしても。


 優勝者には賞金と景品が出るが、魔術師にとって最も大きな賞品は、何より魔競祭を勝ち抜いたという栄光と名誉だろう。

 外部に公開されている以上、当然ながら青田買いの貴族や王属魔術師なども貴賓として訪れることがある。その場で実力を示すことができれば、明るい未来が開けるということだ。


 当たり前のように、レヴィの目標は優勝の栄誉のみだろう。

 この女はそういう女だ。

 一方、翻って俺はまったくと言っていいほど興味がない。というか出たくない。

 なんでそんな目立つ真似をしなければならないというのだろうか。


 というか、なんでレヴィが俺に出場しろと言うのだろうか。



     ※



 そんなようなことを訊ねると、レヴィはあっさり、なんの気負いもなくこう言ってのけた。


「もちろん、私が確実に優勝するためよ。ほかに理由なんてないわ」


 俺もさすがに言葉を失う。彼女の主義は知っているが、それでも驚かされていた。

 普通に考えれば、参加者が増えるほうが勝率は下がると思うけれど。


 ふと横を見やると、接客を終えたモカちゃんが、なんとアイリスと話し込んでいた。

 どうも目をつけられたらしい。

 タイプは違えど、基本的に無表情な少女同士が独特の間合いで話しているのは、それなりに目の保養にはなる。アイリスにとっても、ここでつまらない話に付き合わせられ続けるよりは、同年代のともだちと遊んでいるほうがいいと思う。

 俺はモカちゃんにアイリスを任せ、「ふたりで遊んできな」と告げた。

 それをどう感じたかまではわからないけれど、アイリスはこくりと頷くと、なんだか嬉しそうなモカちゃんに引き連れられて店の奥へと消えていった。

 ……ていうか、サボりじゃないのかな、これ。

 まあ珈琲屋が何も言わない以上、俺が言うことでもないだろうが。


「意外に、ちゃんと《おにいちゃん》やってるのね」

 レヴィが少し驚いたように言う。

 失礼な、と思いながら俺は告げた。

「放っとけ。話戻すぞ、いったいどういう話だ」


 まさかとは思うが、八百長をしろ、と言っているのではなかろうな、この女は。

 疑った瞬間、心を読んだかのようにレヴィが首を振る。


「別に八百長しろ、なんて言ってないわよ? あくまで規則ルール通り戦ってくれればそれでいいもの。アンタと当たったとしても、普通に戦えば私が勝つでしょ」

「…………」その点については否定しない。

 普通に戦えばわからないが、少なくともこのトーナメントのルールで戦った場合、俺はレヴィに対しておそらく勝てないと思う。

 見世物としての縛りが、俺の――というか印刻ルーン魔術師の勝率を著しく下げるのだ。


「つーか、ならむしろ俺が出ても意味ないと思うんだけど」

「多少ハンデがあるくらいで、大人しく負けるタマじゃないでしょうが」

「……褒めてないよな、それ」

「あら、失礼ね。実力をちゃんと認めてるってことよ」


 物は言いよう……というか、もう少し言いようがあるだろう、というか。

 いずれにせよ、俺にメリットがまったくない。受ける理由がないはずだった。

 ――本来ならば、という但しつきで。


「契約。忘れてないわよね?」

「……ああ」

 レヴィの言葉に俺は頷く。

 そう、俺はレヴィに対して、ある契約を結んでいるのだ。

 彼女の成績を後押しするという、そういう決まり。

 俺とレヴィは友人ではなく、恋人でもなく――あくまで共犯者なのだから。

「でもそれは、あくまで俺の日常を壊さない範囲で、という話だろ」

「別に、魔競祭に出るくらいで壊れないでしょ」

「目立ちたくない、って意味だ。お前もわかってんだろ? 勝つのも負けるのも嫌なんだよ」

 ――忘れてもらっては困るのだが、俺は学院における成績は下位である。

 あくまで呪いを解くためだけに、俺はオーステリア学院に所属しているのだから。

 ほかの事情にかかずらっている暇などない。

 出る杭が打たれるのは、どこの世界でも変わらなかった。最低限、気を払っておく必要はある。


 だが、それはレヴィもわかっていることのはずだった。

 ――彼女は決して潔癖じゃない。

 気高く美しい彼女は、しかし戦闘においては手段を選ばず相手を打倒する。

 決して誇り高き騎士ではなく。

 彼女は、あくまでも魔術師なのだから。


「報酬は払うわ。私が優勝したら、その賞金はアンタに全額渡す」

「……逆に不気味だな。何をしろと?」

「何も。ただ出場して、勝ち抜いてくれればそれでいい。私は私で、実力で勝つつもりだから。でも保険をかけておくに越したことはないでしょ? 私の勝率を高める要素として、アンタは適任なのよ」

 ――使える手段ならば、どんな手段だって選ぶのがレヴィの強さであり、怖さだ。

 規則ルールは決して破らない。

 だがその範囲内であれば、レヴィはなんだってしてしまう。

「今年は特に強敵が多いからね。私も、もちろん自信はあるけれど、絶対に勝てるとまでは言いきれない。その点、アンタは最適なのよ。相応に実力があって、ほかの強敵を倒してくれるという期待が持てるけれど、私が戦えば絶対に勝てる。――紛れを潰せる」

 印刻ルーン魔術師は絶対数が少ない。それは魔術戦において、いわゆる初見殺しに特化しているという意味である。

 だからこそ裏を返せば、手の内を知る相手レヴィには通用しないとも言える。


 ――正直、レヴィの提案した報酬はかなり魅力的だった。

 俺は切実に金が欲しい。

 そして持ちかけられた依頼自体も別段、非常識というほどではない。

 むしろ魔術師的には素直に褒められる程度の、このくらいならば当然の戦略だ。

 何も策を練らず、ただ実力だけで勝ち抜こうとするほうが、魔術師としては間違いだろう。

 というか、この辺りの仕込みや情報戦自体、初めから不文律として組み込まれているようなものだった。


 強くある必要はない。

 弱くても、勝てるのならばそれでいい。

 魔術師とはそういう人種だから。


「……わかった。ただ報酬は要交渉だな」

 俺は言った。ここからは駆け引きだ。

 確かに金は欲しいが、俺が金を必要としている事実をレヴィは知らない。

 ならば、上げられるだけ報酬をつり上げるのが魔術師だ。それはレヴィも了解していることだろう。

 まあ要はハッタリだが。実際、彼女はあっさりと頷いて言った。

「もちろん。アンタが金だけで動くとは思ってないわ。何をお望み?」

 本当は充分に動くけれど、おくびにも出さず俺は告げる。

「書庫が見たい。――禁書庫の閲覧許可をくれ」

「……そう来たか。足元見るわね」

「お前ならできるだろう。学院長に許可貰ってくれ」

 学院書庫の、奥に位置する禁書庫。

 貴重かつ高価で、そして危険な魔導書が数多く眠っているその場所は、学院長個人の蔵書が集められた書庫でもあるという。

 本来なら、よほどの理由がない限り公開されない場所だった。

 魔導書は普通の書物じゃない。扱いを間違えれば、最悪の場合、命を落としかねないほど危険な書籍だって含まれているのだ。

 だがレヴィなら――学院長の孫ならば、あるいは許可を貰って来られるだろう。


「お婆さま、私にも滅多にあの書庫空けてくれないんだけど」

「無理ならそれでいいが?」

「……オーケー。わかったわ、交渉してみる。でも予選落ちは許さないからね?」

 交渉成立だ。珍しく勝ったと言っていい。

 ちょっと気分をよくした俺は、せいぜい自信を込めて告げる。

「その辺りは信じてもらうしかないな。まあなんとかするさ。予選くらいなら」

「できれば本戦でも、シードをひとりは落としてもらいたいけど」

「……確約は出来ないな。決闘方式だと、印刻ルーン魔術師は戦力の大半を削がれる」


 と、いうのもだ。

 魔競祭はその規則上、持ち込める武器がひとりひとつだけと限られている。

 高価な魔具を金で集めて、物量で勝ちを拾われるのを防ぐため、というのが大きな理由だ。観客は魔術師の決闘を見に来ているのであって、魔術道具の展覧会が見たいわけじゃない。


 これが痛かった。

 魔術の発動が遅いルーン使いは、基本的にあらかじめ魔具を用意しておくことで対応する。

 だが、そのひとつひとつが一個の魔具として扱われる決まりでは、俺なんてもはや戦力の大半を初めから封じられたに等しいと言えよう。仕込みが主な魔術で、その仕込みが駄目と言われては終わりだ。

 特に酷いのが防御面だ。咄嗟の防御を、俺はほとんど自作の魔具に頼っている。撃たれた魔術を、撃たれてからルーン書いて防げるわけがないのだから。

 そして魔術的防御の使えない魔術師など、その辺りの一般人と変わりない。生身の防御力はあくまで人間レベルなのだから。

 拳銃を持っている人間に、素手で相対するようなものなのだとたとえればわかるだろうか。

 下手を打てば、その辺りの見習い魔術師にさえ負けかねないほど弱くなる。

 なんらかの対策を講じなければならないだろう。


「……まあ、本戦までには何か考えておくさ」

「私も、別にアンタが予選で負けるとは考えてないけどね」

「確約は出来んが……まあ、もし予選で負けたら話はなかったことで構わない。もちろん本戦で手を抜くこともしない。それは約束しておく」

「そこは信じてるわ。……できればウェリウスやシャル辺りの強い相手と当たってもらいたいところだけど。それか学生会役員の先輩とか」

「……その辺りと戦ったら、なんなら普通に負けそうだけどな」

「負けてもいいわよ。トーナメントは連戦だから、手の内暴いて疲れさせるだけでも意味はあるもの」

「怖い女だよ、お前は」


 普通、この手の作戦は無意識的に避けてしまうのが人情だ。

 たとえルール上の問題が何もなくとも、倫理や常識がその手の判断を躊躇わせる。

 だがレヴィはあくまで理性的に、クレバーな思考で自身の勝利を確実化させる。学院の誰だってきっと、ガードナー女史が裏でこんな画策をしているなどとは、夢にも思わないことだろう。

 その猫被りが、あるいはレヴィにとって、いちばんの武器なのかもしれない。


「シードなら一戦目は無理だとしても。できれば二戦目で、お前と当たりたいところだな」

 それがいちばん楽だから。俺が安心して負けられるのは、レヴィと当たるそのときだ。

 ……頼むから決勝まではもつれ込まないでくれ……。

 そう願いながら、俺はレヴィに向けて訊ねる。この作戦の穴に関して。

「トーナメントの組み合わせまでは、お前も弄れないんだろう?」

「それは無理。というか、そこまではしない。私はあくまで規則通りに戦うから」

「……そんな不確実なことに、報酬を懸けても構わないのか?」

「ああ、そこは平気。私が何もしなくても、どうせ遠い位置に割り振られるに決まってるから」

「……?」


 禁書庫の閲覧許可や、賞金の全額を投げ出す割に、確実性の低い策だと思っていたのだが。

 どうやら、レヴィには初めからなんらかの確信があったらしい。

 まあ、だからこそ彼女は、俺に話を持ちかけたのだろうとは思っていたけれど。

 そういう意味においてだけは、俺も彼女を信頼している。


「なんでそう思うんだ?」

 訊ねると、レヴィは薄く微笑んでこう答えた。

「だって、組み合わせを考えるのはお婆さまだもの」

「…………」


「――盛り上がる組み合わせになるよう、意図的に操作するに決まってるわ」


 まったく。孫も孫なら、祖母も祖母だ。

 まあ逆を言えば、だからこそそう楽には勝てないとレヴィも踏んだのだろうけれど。

 あの学院長ならば、たぶんレヴィが禁書庫を貸すよう頼む時点で、俺たちの共謀には気がつくだろう。

 その場合、確かに組み合わせを離されるだろうことは想像できてしまう。


 俺は呆れ果てながら、ぬるいコーヒーを飲み干した。

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