6-31『幕間:地上にて/地上に手』
現在、オーステリアに留まっている人間の数は、実のところそう多くない。
もちろん復興に携わったり、元のように日常を送っている者、ほかに行く場所のない学生や冒険者の割合も少なくはないのだが、それでも一般市民は一時的に街を出て、避難生活に入っている。
王国第一王子ファランティオ=ジーク=アルクレガリスの名の下、実際の指揮においては第三王女エウララリア=ダエグ=アルクレガリス主導によって現在、オーステリア周辺は非公式的な戒厳令下にあった。
「……後のことは本当にお任せして?」
避難対象者を運ぶ高速の魔晶馬車は手配が終わり、続々と町を離れている。
そんな中、最後になった馬車の前で――王国第三王女は申し訳なさそうな視線をしながら目の前の男に問う。
「率直に申し上げまして」
その男――ユゲル=ティラコニアは、端的に返答をする。
率直に言って、一国の王女に対する分の礼は足りていないように思えたが。
「王女殿下がここにおられることのほうが、問題と言えば問題ですが」
「それを言われると弱いですが」
と王女は特に、弱っているふうもなく応じる。
本来、指揮にあたる彼女がこうしてオーステリアまで出向いてくる必要性は、ないと言えばないのだが。
「兄上の名を借りてしまいましたし、不備があっても不味いですから」
「問題はないでしょう。もう迷宮区の魔物が地上に湧いてくることもないでしょうし、実際のところ避難の必要があるわけではないと思われます。まあ、便宜上の措置ですな」
「神獣まで召喚されたとあってはもう、いかなオーステリア迷宮区と言えど魔力リソースが足りないでしょう」
「それもありますが。……教団側も、一般市民に被害を出すつもりは、これ以上はないようです」
「……、ここまでのことをしておいて」
「必要だったから、というのが最たる理由でしょう。無論、王女殿下がご納得なされる必要は御座いますまいが」
「はあ……。兄上がいらっしゃれば、もう少しどうにかなったと思うのですが」
「戦線は問題ないのでしょう? というより、もうその必要がないと言うべきなのでしょうが、いえ」
「…………」
「《一番目》の表現を借りるのであれば、その必然がない、と言うべきなのでしょうか。……ふん、いい考えではないな」
第一王子は現在、隣国との小競り合いのため王都を離れている。
その陰に、おそらく七曜教団の手があっただろうことを、少なくともユゲルは知っていた。
「……皆様の奮戦で、敵幹部ももう、残るは二名のみと聞いていますが」
「さて。その二名が最も問題と言えば問題なんですがね。なるほど悪くない話ではありますが――」
「《魔導師》、そして《魔法使い》……両名とも、魔人へと至った怪物」
七名の――厳密には六名の魔人も数を減らしている。
金星、火星、木星、土星、そして水星。惑星の名を冠した五名の幹部は、この世界から退場した。
残るは月輪と日輪を号に持つ二名のみである。
「全てを、皆様に託すほかないことを、本当なら私は詫びなければならないのでしょうね」
――どうあれ、状況は最終局面に至っているのだ。
この世界は決定的な分岐点に到達している。
この先《七星旅団》が勝利するか、《七曜教団》が勝利するかで、この世界の行く末は大きく異なった道を辿るだろう。
ただ――、
「それはこちらも大差ありません。結局のところ、焦点はアスタが勝つか《一番目》が勝つか。その二分です。蚊帳の外にいることに、誰も彼も大した違いはない。ロートルはそろそろお役御免です――悪くない」
「アスタ様は――」
――勝てるのでしょうか、と。
あるいは、王女はそう訊ねるつもりだったのかもしれない。
けれど結局、その先が言葉に変えられることはなく。
直後、
「――時間です、殿下」
「ああ、シルヴィア、ありがとう。――では、私はここで。ユゲル様」
迎えに来た、今は事実上の従者として働いているシルヴィア=リッターの言葉によって、場は終わりを迎えた。
「あまり殿下に妙なことを吹き込まな――吹き込むな、ユゲル=ティラコニア」
「いい考えだ。大事にしておくといい、シルヴィア=リッター」
「お前はいつもそれか!」
暖簾に腕押し、柳に風。
もしシルヴィアが日本の故事成句を知っていれば、あるいはそんなふうに表現しただろうか。
「毎度毎度、都合がいいからと私に仕事を押しつけて……!」
「ああ。お前は実に都合がいい。誇っていいぞ」
「それで褒めているつもりなのが腹立たしいと言うんだ!」
肩で息するほどのシルヴィアに対し、常の調子を揺らがせないユゲル。
意味がないことは悟っている。シルヴィアは呆れを零し、それから。
「……本当なら、私も――」
「それ以上は言わないほうがいい」
続けようとした言葉をユゲルが遮る。
何を言おうとしたのか。
それは、確かにわかりきったことで――そして意味のないことだ。
「……そうだな。すまない」
「ふん。悪い――とはあえて言うまいが。あの王女でも見習っておけ」
その言葉に、立ち去りかけていた少女が「呼びましたか!?」と声を上げ。
「呼んでない帰れ」
「ああんっ!!」
「……おい、王女殿下に向かって不敬だろう……」
一応突っ込むシルヴィアだったが。
「不敬……ハァ、イイ……ッ」
当の王女は悦んでいた。
「…………」
「……お前の主のアレは、どうにかならんのか」
「うるさいな……。お前が言うな……」
「ふん」
と鼻を鳴らすユゲル。
別に、不機嫌というわけではない様子だった。
「まあ俺とて大した違いはない。残る仕事も、あとひとつだ」
「…………」
立場はそう変わらない、とユゲルは言うが、シルヴィアにはそうは思えなかった。
視点が違う。魔術師としての実力云々ではなく、単純にユゲル=ティラコニアという個体が賢すぎるのだ。彼の見ている景色を本当の意味で共有できる者など、あるいは《七星旅団》の中にさえ存在しないのかもしれない。
――いや。
「やることは……あとひとつ、なのか? お前が?」
「ああ。同じ絵を見ている女を、待たせてしまっているだけの話だが」
あるいは。
たったひとりだけ、彼と同じものを見ている者がいるのかもしれない。
さきほどとは趣の異なる、一抹の寂しさをシルヴィアは覚えた。
けれど、それも言うだけ詮なきことだろう。
「というわけだ。生憎と『妹のことは任せておけ』と請け負えはしないからな」
「……フェオのことなら心配はしていないさ。あの子はもう、私が見てやらなければならない子どもではない」
「重畳だ。悪くない」
「しかし意外だな。お前がそんなことを言うとは――……ユゲル?」
彼は、どこか遠くを見ていた。
シルヴィアは、言葉を発することをやめた。
何を言うことはない。
たぶん、自分はその権利を持っていないのだとシルヴィアは思った。
だから一礼し、王女の下へ去ろうとする――その背に。
「――助かったよ。礼を言っておく」
「お前、は……こういうときにばかり、馬鹿め……」
男という奴は、誰も彼も皆、こうなのだろうか。
胸を押さえたくなる気持ちを堪え、シルヴィアは内心で思い出す。
――思えば、お前も似たようなところはあったよな。
そうは思わないか、なあ、ガスト――。
※
地上に、ふたりの少女が倒れていた。
息は荒い。立ち上がるのも億劫だったし、どうせ誰も見ていないからと。
倒れているのは、気を抜いているからでもあるのだろう。
「ぜ……、はぁ……っとにもう……! 疲れさせてくれやがりますね……っ!!」
「こっちの……セリフ、なんだけど……っ!! あんたが、粘りすぎなんだっての……!」
「シャルさんが……諦めないから、でしょうが……!」
「……ピトス、こそ……諦め悪すぎ、でしょ……」
「は――、わかってませんね。それが、いい女の条件ってモンですよ……」
「……ピトスって、振られてもねちっこく引きずりそうだよね、恋愛で……」
「おァ――ん? 自我も芽生えかけのおにんぎょさんが、このわたしに恋を語りますかオラァン?」
「はッ」
「……泣かしたい……」
地べたに倒れ伏すふたり。
それを見ながら、どうしたもんかなあ――とフェオ=リッターは思っていた。
ふと、くいくいっ、と服の裾を引っ張られる。
隣に立つ少女――アイリス=プレイアスがフェオを見上げて。
「……ん」
と、倒れるバカふたりを指差した。
「いやあ……あっははは」
フェオは思う。
――私に訊かれても知らんて。
「そう、だねえ。どうしようねえ、あのアホふたり……」
「……フェオはへーき?」
「というか、あのふたりが平気じゃないというか」
聞かれない声量でぼやく。
この場で行われたピトス・フェオ対シャル・アイリスの戦いは、途中から完全にその趣を変えていた。
具体的には悪口の応酬でヒートアップしすぎたピトスとシャルの個人戦になっていた。
お兄さんはわたしが貰いますvsお兄ちゃんが欲しければ私を倒してからにしろ
――とでもいうか。
いや、戦う相手が違うでしょ、と普通に思ったフェオは、もうアイリスと観戦していたのだった。
バカじゃないのかなあ、このふたり。
アイリスに、あんまり悪影響を与えるようなもの見せないでほしいよ。
ちょっと姉ぶるフェオは、そんなふうに思ったものだ。
「はあ……」
と息をつき、フェオはふたりに近づいて。
ついて来るアイリスを気にしつつ、そろそろ宥めにかかる。
「引き分けでいいでしょ、もう」
「いや――」
「まだ――」
「時間の無駄だっての! どんだけやってたと思ってるワケ? むしろなんのためにやってるの」
フェオの正論に、正気に戻ったふたりは普通に返す言葉がない。
お互いに顔を見合わせて、気まずそうに頬を赤らめていた。
やがて、どちらからともなく立ち上がり――。
「お――おほん。そうですね、ではこの辺りで手打ちといたしましょうか。ええ」
「そうね。うん……少なくとも目的は達成したわけだし!」
――なかったことにし始めた。
「ささ、シャルさん、こちらへどうぞ。治癒して差し上げますので。ええ!」
「う、うん。別に気にしなくても、大したことはないけど、お願いしちゃおっかな!」
――コイツら。
フェオはこめかみを押さえた。
「……んー、まあ、それはともかく……」
しかし実際、これからどうしたものか。
シャルは――アイリスも――確かに目的を達成している。今から追いかけたところで、もうアスタに追いつくことはできないだろう。その意味で、ピトスとフェオは事実上、この戦いが始まった時点で敗北条件を満たしてはいた。
引き分けとは言ったものの、実際的な勝利者はシャルロット・アイリス組である。
シャルは戦いを引き延ばすだけでよかったし、ピトスもそれはわかっていた。取っ組み合いみたいな喧嘩を始めたのは、それが大きな理由だろう。てか、さすがにそう思いたいところ。
ならば地上に残った者としてやるべきことが、あるだろうか。
フェオは考える。
この街の――いや、世界の行く末はほぼアスタと、そしてレヴィに託されている。
もともと幼くして冒険者で、ピトスたちのように高等教育を受けているわけではないから、実のところフェオにも、その辺りの詳しい理屈はわかっていない。聞かされたところで、理解できたのは結果だけだ。
考え込むフェオの裾を、ふと再びアイリスが引っ張った。
「あ、どうかした?」
訊ねるフェオ。
それを見上げるアイリスは、ふと通りの奥を指差して。
「ん」
「……?」
向けた視線の先に、――ひとりの女性が立っていた。
「いやあ」
と。赤を輝かせるように、彼女は言う。
「いいものを見せてもらっちゃったな、もぉ。お姉ちゃん、感動なんですけど! ううっ、あの小っちゃかったアスタが、いつの間にかこんなにたくさんの人を無茶苦茶に巻き込めるまでになったなんて……っ!」
――なんて理由で感動してやがる。
直球でフェオは思ったが、ちょっと指摘はできなかった。
それ、褒めるところじゃないと思うんですけど。
唖然とするフェオ。ピトスとシャルも、女性の存在に気づいて顔を上げる。
そんな三人とは違って、アイリスひとりだけが彼女に近づいて、そのすぐ前に立ち止まった。
女性は破顔し、なんだか蕩けた表情で屈み込むと、アイリスを勢いよく抱き締める。
「わふっ」
「あーんもう、いつ見ても超かわいいんですけどー! 世界ー! 私の妹がめっちゃかわいいぞーっ!!」
「……マイア?」
「うんうん、マイアお姉ちゃんだぞっ。はろはろ、みんなー! 大切な妹と、そして未来の妹に会いにやって来ました!」
――マイア=プレイアス。
七人のうちでも最も有名な、あの《七星旅団》のリーダーがそこにいた。
そこにいて、そして妄言を吐いていた。
見たくなかった気がする。
「え。えっと、あの……」
気がするだけにして声をかけたフェオに、マイアは笑みを浮かべ。
「はろはろ、フェオちゃん。さっきぶりー」
「えと? あの……そうですけど。何かご用事ですか?」
「ん。――まあそうなるかな」
ほんのわずかだけ。
マイアの声のトーンが変わったことに、たぶん全員が気がついていた。
その落差は、なるほどアスタの姉だと思わせる切り替えだ。
傍目にはわかりにくいけれど、その辺りは弟のほうで慣れていると言ってもいい。
「ちょっと頼みたいことがあるんだよね」
マイアは言う。四人を見つめ、どこか寂しげにも見える笑みを浮かべて。
「――これはもう、貴女たちにしか頼めないコトだと思うから」
「頼み、って――」
訊ねたフェオに対し、マイアは短く。
「うん。アスタを、手伝ってあげてほしいんだよね」
それはきっと、四人にとっては頼まれるまでもない依頼であるはずで。
それをわざわざ、あえてマイアが頼みにきたことの意味を、けれど誰も知らなかった。
「それが私たちの打てる、きっと――最後の一手になるから」
※
王女たちを見送ったあとも、ユゲルはその場に立っていた。
オーステリア郊外。
城壁の外には平野が広がっており、今、その場に邪魔となるものは存在しない。
円形都市を見つめる男に、街の方角から近寄ってくる人影がふたつあった。
「……来たのか。別に来なくてもよかったんだぞ」
「そういうわけにもいかないじゃないですか」
ユゲルが声をかけると、ふたつの人影のうち、女性のほうが疲れたような表情で答えた。
その返答に、ユゲルは何も言わず、ただ「ふん」と鼻を鳴らす。女性は苦笑し、
「悪い考えだ……とは、言わないでくれるんですね」
「…………」
「ああ、いえ。すみません。今の、聞かなかったことにしてください」
そう言って女性――セルエ=マテノは、うーんと伸びをするように腕を上に上げた。
ユゲルは、張られるセルエの胸部を凝視する。
「……あのぉ?」
「気にするな」
「するわ!」
さっと胸を隠すセルエ。
それを意に介さず、ユゲルは同じ言葉を再び続けた。
「いいや。それでもお前は気にするな」
「…………」
「術式の定着は問題ない。お前には最後の仕事があるからな、――切り札の調子は問題なさそうだな?」
「……本当、滅茶苦茶ばっかり言ってくれるんですから。いつものこと、ですけど……でしたけど」
小さくぼやくセルエに対し、そこで初めてユゲルは笑みを見せ。
「先達の仕事は、後進に面倒を投げることだ」
「絶対違うんですけど。教師の前でそういうこと言わないでください」
ツッコむセルエ。
ユゲルは軽く肩を竦め、そしてそこで、すぐ傍に立つもう一方の男が声を開いた。
「揺れるなよ」
「……先輩」
「この先何が起こってもだ。それはもうとうに覚悟を済ませているはずの事象だ」
相変わらずの早口ではあったが、それは彼――シグウェル=エレクにしては珍しい気遣いの言葉だ。
それに、セルエはわずかに笑みを漏らす。
考えの読みにくさで言えば、七星旅団でもある意味トップクラスの男だったが、意外と気遣いをするタイプであることは知っていた。だから、
「ええ――」
とセルエは頷く、――いや。
頷こうと、確かにした。
だが。
「――どうかな。僕としてはむしろ、ぜひ揺れてもらったほうが都合がいいのだけれど」
直後にセルエは、その覚悟が本当に真実であるかを試されることとなる。
前兆など――なにせ、わずかたりとも感じなかったのだ。
「――なっ!?」
「……!」
セルエどころではない。ユゲルですら完全に不意を打たれ、その双眸を丸くしている。
警戒していなかったわけではない。
むしろ待ち構えてすらいたのだ。
ならばその結果は、単に当たり前の力の差だったということだろう。
「か、――ぶっ」
シグの口から、ごぼり、と赤が零れ出た。
それが大量に流出し、地面へと赤黒い染みを作っていく。
手が。
シグの胸から生えていた――否。
それを突き破るように、まるで体内から生えてきたかのような手が、彼の胸を完全に貫いていたのだ。
その心臓を、手の内へと収めながら。
「――よかった」
と、声が響く。
次の瞬間、気づけばシグの背後に、細身の女性が幽鬼の如く現れていた。
「残る七星旅団でいちばん厄介なのは君だからね」
「――っ、シグせんぱ……っ!!」
「まずは回復役を。次に火力役を。まあ、セオリーというわけだ」
びしゃり、と。
血を振り払う音が響き、貫く腕がシグの胸から抜き取られた。
その心臓ごと奪い取るかのように。
一瞬で。
腕を引き抜かれた反動で、シグの身体が前のめりに倒れ込んでいく。
セルエはそれを咄嗟に受け止めたが、感じる体重の重さに――逆に力のなさを感じ取ってしまう。
「…………っ!!」
隙、と呼ぶのもおかしな話だ。
その理解は、歴戦の魔術師ならば当然に回す思考で。
だから、それを突こうとする魔女が、ただ歴然と隔絶している証左でしかなく。
次の瞬間。
シグと、それを抱えるセルエの身体を、ユゲルが勢いよく突き飛ばし――。
「――らしくもない」
それを為したユゲルの右腕が、二の腕から先で消滅した。
「教授――っ!!」
「――ふん」
ユゲルは顔色ひとつ変えることなく、残った左腕で右腕の傷口近くを掴み、魔力によって止血する。
その頃には、セルエもシグの体を地面へ優しく横たえ、立ち上がって前を向いていた。
「腕が取れてしまった。本意ではなかったけれど、成り行きでは仕方がないね」
魔女が。
ノート=ケニュクスが言う。
周囲が徐々に、闇の深さを増していた。
「ともあれ、最強はこれで脱落だ。また最高も、戦力は殺いである。――まだ抗うかい?」
答える意味はとうになく、
七星旅団は、その最強をわずか一瞬にして失い、また別のひとりは片腕をもがれてなお立っていた。
前を向いていた。
「よろしい」
と、《月輪》は言う。
その実力が、これまでのどの《魔人》と比しても、遥か上回るものであることは明白で。
否――もはや《月輪》の魔力は、魔人と呼んでなお足りない次元に到達してしまっていて。
「果たしたか。――魔人を超え、魔神の域への進化を」
「答える必要があるかな。君はそういう、空虚なやり取りを嫌っていたと記憶するよ」
「なるほど。――悪くない」
「うん。君の、その軽口を聞くのは――そういえばあまり嫌いじゃなかった気がするけれど」
この戦いには、初めから絶望的な結末しか用意されていないのだとしても――。
「悪いが。もう夜は、――明けることがないと知れ」
ひとりの女の宣告に、伝説の旅団は対峙する。
※
レヴィ=ガードナー奪還戦。
盤外。
vs《月輪》ノート=ケニュクス。
死者、現状一名。
七星旅団――《超越》シグウェル=エレク。
※
それは、旧《七星旅団》壊滅の幕開けとなる戦いであった。




