6-25『最強』
最初、をどこに置くかを考える。
こうなったはじまり。起きている一連の事件の始点。
遡るなら、それはレヴィとの出会いであり、一年前このオーステリアへ来たことであり、キュオネの死に伴う旅団の解散であり、七星の名を伝説へと至らしめたゲノムス宮の攻略であり、あるいは七星旅団の結成そのものであり、俺がマイアに義理の弟として引き取られたことであり、のちの師匠である《時間》の魔法使いに助けられたことであり――そもそも、この異世界へと転移してきたことなのだろう。
だが、それも俺という一個の人間の、連続した人生の過程であることに違いはなく。
そう考えれば――もちろんこの先の保証なんてどこにもないけれど――あとになって振り返ってみれば、この大きな事件に巻き込まれたことさえ思い出に変わっていくのかもしれない。
それでも、あえて一連の《事件》の始点を決めるのであれば。
印象としては、やはりあのとき――レヴィに誘われ、あの五人でオーステリア迷宮へ潜ると決めたときのことだろう。
実を言えば、ああして学院長室に集められたときの記憶なんて大して残っていない。
俺は『さっさと帰りたい』という程度の印象しか持っていなかったし、あの場にいたピトスたちと、そのあとこんなにも深い関係になるなんてことは予想すらしなかったからだ。
俺自身、今振り返ってみれば、吹っ切れたようでやはり腐っていたわけだし。
レヴィとセルエに、あとでどんな文句を言うかとか、見返りに何を要求してやろうかとか。実はそんなことくらいしか、考えていなかったのだと思う。我ながら、ちょっと態度が悪かったかもだ。
だから。それよりは後日、戦力把握の模擬戦の場に集められたときのことのほうが印象に残っている。
あのときは俺も、それなりにやる気があったことがひとつだろう。
避けられないならせめて真面目に。というか、レヴィが集めた四人にも興味が出てきていたのだと思う。
学生のトップ層――四傑なんて一部では呼ばれている連中の実力は、さていかほどか、と。
資質で見れば間違いなく王国史に名を残すだろうレヴィが、自身と対等の仲間として見るほどの連中が学院にまだ三人もいると聞けば、そりゃ俺だって興味は湧く。
そして実際、誰ひとり例外なく予想以上の連中だった。
だから、あの模擬戦は印象的なのだ。
名乗り文句から、あざとく噛んできたピトス。まさか彼女が、この世界で初めてできた友達――パンと同一人物だなんて思わなかった。今から思えば、あのときピトスはいったいどんなことを考えていたのだろう。
シャルなんか初対面から敵意剥き出しの奴だった。クリスファウストの姓を名乗り、あのアーサーの娘だと言い始めた、白い長髪の美しい少女。話すたびにポンコツを曝け出していく、そんな彼女も、いつの間にやら妹だ。
だけど。
あのとき、誰より印象的だった奴と言えば。
俺に初対面から《運命》を切る選択を選ばせたあの男。
今から振り返ってみれば、いったいどれほど手加減していたのか知れたものではない。
あれはそれほどの戦いだった。
引き分け、と。そういう風に処理されてはいるものの。
よしんばそれを認めるのだとしても。
そうだ。あとになってシャルに言われたことがあるのを俺は思い出す。
『あの模擬戦、今振り返ってみれば異常だったよね。アスタが切り札の《運命》を模擬戦なんかで切ってることが異常だったし、そのアスタを相手に一歩も引いてなかったウェリウスだって異常だった。ふたりを知れば知るほど、どれだけおかしかったのかがわかる。あの戦いのレベルが、今頃になってようやく、私にもわかるようになったんだ――』
※
キュオネinメロと戦った層から一層分、さらに階段を下りる。
と、それが途中から完全に途絶しているのが目に入った。
まるで階段そのものが、階層ごとぶった切られたみたいに。
「……天井、ぶち抜いてあるってことか。こりゃ飛び降りるしかないかね」
迷宮とは不壊であり、その形が外的要因で変わることは決してない。それが本来の理屈であるはずだ。
予想していなかったと言えば嘘だが、そうそう簡単に不可能を覆してもらいたくないものだ。
いや、
「今さら驚くまでもねえけど。……ご丁寧なこって」
ギリギリに立って下を見下ろせば、結構な高さがあるとわかる。数層纏めて天井を刳り貫いてあるようだ。
さらに言えば、広い。
壁もいっしょに取り払ってあるようだ。階段は途中で折り返しているから、物理的に見れば外壁側から内側を見るような形になる。まあ、迷宮の物理的空間なんて考えるだけ無意味だが……それも今さらか。
反対側の壁が見えるかどうかというほどの広域。
大広間を造ったということだ。
なんのためにか、なんて部分はもはや考えるまでもないだろう。
待たせてしまって申し訳ないくらいだ。
生憎、招待状はないけれど。
招かれざる客、とは思わないでくれているらしい。
「よ、っと」
途切れた階段から階層下へ飛び降りる。魔術を使わずとも、身体強化だけで対応できる高度だ。
だだっ広い空間。なるほど、これならどれだけ暴れても周囲を気にせずに済む。
それは俺のほうではなく、ここで待っている側の配慮なのだろうが。今のあいつなら、そのレベルの魔術行使すら可能であるということ。
しばらく、俺は部屋の真ん中へまっすぐ歩いた。
実に静かな場所だ。静謐が、まるで何かの前触れかのように、張り詰めた雰囲気で満ちている。
こつ、というごくわずかな俺の足音だけが、やけに鼓膜を強く震わせた。進む分だけ肌を刺す空気は、紙片をぴりぴりと裂いているよう。大気を構成する、感じられるはずのない粒のひとつひとつまでもが、整然と列を為している気がした。
ただ俺だけが、それに逆らうかのように進んでいるみたいな異物感。
自らに対するそれが、気のせいではないことを直感する。この場所では今、俺だけが完全なる異質なのだと。
すなわち、――それはこの一個世界を完全に支配する者がこの先にいるという証左だった。
この《世界》が異物を厭っている。
床が、空気が、この場所という概念そのものが、今か今かと排除の機会を待っている。
それはたとえるなら、体内に忍び込んだ毒素を始末する抗体の如く。
にもかかわらず、未だなんの影響も及ぼされていないのは、それを止めている者がいるからだ。
慈悲でもなければ慢心でもない。手ずから相手をするというなら、むしろ最上級の敬意を表した歓待の構えに近い。
そう。異物を排除したくて仕方がない《世界》が、それでも行動に移らないのはごく単純な理由。
圧倒的な上位者による統制を受けているからにほかならない。
一歩ずつ、それでも俺は前に進んだ。
すでにその人影は、ここで俺を待ち構える者の姿は、視線の先に見えていた。
それは微動だにすることがない。
力ない様子で直立し、言葉を発するどころか身動ぎすらせず、目を閉じて顔を伏せている。
準備は万端。用意は万全。
あとは到着を待つのみと言わんばかりに。
だから、せめて俺も礼儀に沿うようにそちらへと近づいていった。
別にこちらも無防備ではない。だが警戒したところで、果たしてどれほど意味があるか。
策はある。違和は掴んだ。勝算もなしに戦うなど、魔術師としては落第以前。
けれど、その全てが通用せずともおかしくない――そんな確信にすら似通った信頼を俺は抱いていた。
できることはひとつ。
いつ攻撃されても対処できるよう、自己の精神を最上位の状態で保ち続けることだけ。
やがて彼我の距離は、およそ十メートルほどにまで近づいた。
高い身長。すらりと引き締まりながらも、鍛えられていることがわかる体躯。
そして艶やかすぎるほどに目を惹く、金色の髪。
汗が、左の頬を通って滴ることを自覚した。
ここがとうに死線の内側であることを、改めて実感させられる。
これ以上は踏み込めない。それは自殺と変わらない。
だから俺は、死線の最前線で歩みを止めた。
緊張を楽しめるうちは問題ない。たとえ万全ではなかろうと、それを最高と言い張れる。
その上で、ただひとつの動作を過つだけで終わりが来ることも自明だった。
世界は支配されている。
その意味は単純だ。
自らもまた、自己という一個世界を完全に統御しきらなければ、生存さえも許されないということ。
「……、……」
言葉など、作れた義理ではなかった。
そんな余裕は寸毫もない。綱渡りと呼ぶことすら憚られるような死の淵が、ここだ。
感じているプレッシャーを捨てることが許されるのなら、蛇に睨まれた蛙とでも、まな板の上の鯉でさえ、今すぐ場所を代わってほしいと本気で思わずにいられない。
一挙手一投足を試されている、などというレベルではもはやなかった。
指先のわずかな動きが、唾液を飲み込む一瞬が、瞬きに費やす刹那ほどの間が、誤差にして1%以下を要求される体内の魔力の流動制御が、代謝に呼吸に心臓の鼓動一回分に使うだけのエネルギーさえもが――全て致命的な隙になりかねない。
大袈裟だろうか。そう思えたら、どれほど幸せだったか。
今、自分が生きていると、そう自覚することすら難しく思えてならない。
ウェリウス=ギルヴァージルとはそういう存在だ。
開戦に、合図はないだろうか。
それは地上で、当のウェリウス本人から指摘されたことだ。その上で不意打ちを選ばずに、こうして歩いて来たことを、奴はどう捉えているのだろう。まだ本気ではないと、思われているのだろうか。
だとするなら――しかしウェリウスが動かないのはなぜなのだろう。
肉体を制御する、その一点だけで耐えがたい苦痛だ。
喉が渇く。息が苦しい。生きるという行為が世界に許されている気がしない――。
「――よかったよ」
「っ……!」
わずか。紡がれた言葉に戦慄した。
反射だけで背を向けて、逃げ出してしまおうかと本気で思うほど。
「よかった、本当に。どうやら本気になってくれたようだ」
薄く、――天才が目を見開く。
それがこちらを、思いのほか穏やかに捉えた。
「でなければ本気で困った。アスタ、君ならそうしてくれると信じていたからね」
「……は。ぬかせ」
問題ない――そう自分に言い聞かせて答える。
焦る必要はない。言葉を扱う時点で、その場所は俺の土俵だ。
いくらこの稀代の天才でも、そこで俺には敵わない。
「こっちの台詞すぎる。まさかここまで、殺意全開で待ってるとは思ってなかったよ」
嫌でも理解させられるウェリウスの本気。
今、ここで、こいつは本気で俺を殺すことを考えている。
「おや、どういう意味かな? 確か宣戦布告は済ませたつもりでいたんだけど」
「なにせ優雅じゃねえからな――その時点でお前らしくねえ。どうする、普段の調子を欠いて俺と戦うってか?」
「ふ……確かに。僕にも優雅でいられなくなるときがあったみたいだ」
「どうかね。お前の優雅は毛色が違えが」
「それは心外だなあ。僕ほど貴族らしくあろうとする男も、そうはいないつもりなんだけど」
軽く、肩を竦めながらウェリウスは笑った。
笑いやがった――この野郎。この状況で、こうもあっさりと。
普段と変わらない、ウェリウス=ギルヴァージルを保っていやがる。
……それは、本当に、まずい。
「しかし、こうして話しかけてくんのも意外っちゃ意外か。問答無用で殺しにかかってくるかと思った」
「ああ、そうだね。実を言えばそのほうがよかった気はするんだけど――止められてね」
「止められた? ……誰にだ? 教団の連中が、なんか余計なこと言ったんかよ」
「違うよ。――レヴィさんに、だ」
「…………」
「君に不意打ちは通じない。殺意を必ず回避する……そう言われてね。君を殺すなら、紛れなく正面から向き合うのが、間違いなくいちばん可能性が高い、と。なるほど僕も同感で、だからこうして――待たせてもらった」
「……レヴィが、か」
小さく、息をつかずにはいられなかった。
あいつもまた俺の敵だということか。本当に、散々な目に遭っている。
まあ好都合だ。思えば《月輪》すら似たようなことを言っていたが、その辺りはさすがに信用していない。普通に不意を打たれるほうが絶対に困るのだが、……勝手に勘違いしてくれているならそれでいい。
「まあ、どっちにしろ僕は本気で向かわないといけないからね。彼女の判断を汲ませてもらった」
「……そうかい」
「僕よりは、まだ彼女のほうが君に詳しいだろ? まあ、ある意味で僕にしかわからないこともあるとは思うんだけど」
「そうか。生憎なことに、俺もそれなりにお前のことはわかってるつもりなんだよな」
「君と両想いとはぞっとしないな」
「その表現にぞっとしたわ」
――まずい。この流れは実によろしくない。
完全にペースを掴まれている。
いや、当然だろう。それは当然の流れではあるのだ――けれど。
できるか?
本当に、俺はウェリウスを相手に生き残れるのか?
「まあ、そういう意味では多少なりとも回復してくれてよかったな」
ウェリウスは言う。あまりに余裕のある態度だ。
「ボロボロの君を殺したところで、価値を見出せるか確信がないからね」
「いや、ボロボロだわ割と。義手失くしてんの見えませんかね?」
「その程度はいいハンデってものだろう? 少しくらい、若者に肩を貸してほしいね――伝説」
「おっま、こいつ、あり得んわマジ! 言うか、そういうこと? この野郎……」
「おっと失敬。――貸す肩の、その先が片方ないんだったね」
「そこもだけどそこじゃねーだろ……むっかつくわ、こいつマジで……」
誰がどう考えたってお前のほうが強いだろうっつーの。
いや、本当に参るぜ。
――この期に及んで勝てる気がしない。
それでも。
それでも立ち塞がるなら対処しなければならない。
「言っておくけれど、僕としても割と不本意ではあるんだよ? 君に勝つときは、本当なら――最強の称号を貰うときだと決めていたのに」
「悪いが、そんなもん持ってた記憶がねえ。そいつはシグのもんであって、言うならシグに言ってくれや」
「そうかな? そうかもしれない――ああその通り。世間的に言って《最強》を持つ魔術師はシグウェル=エレクだ。だけどね」
「……なんだよ?」
「それでも、僕は君を倒したい。君に勝ちたい。――その先で《最強》を手に入れたいんだ」
ウェリウスが、顔を上げて言った。
それは本心だろう。だからこそこの戦いが嘆かわしいとばかりに。
「降りてくるだけのものに意味なんてあるものか。力ってのは与えられるギフトなんかじゃ決してないだろ。違うかな?」
「……違わねえよ。ああ、わかってる。今さら言われる必要なんてあるもんかよ。俺だって、それは知ってるんだ」
そいつがあまりにも下らない、取るに足らないガキのような意地であることを。
わかっている。俺は自分が最強になれないことを理解している。そんなこと何度だって痛感した上でここにいる。
「そうだ。ただ最強になりたいんじゃない。僕の求めるものが、そんなつまらないものであって堪るものか」
「そうだ。心配するな、ウェリウス。俺がお前に立ち塞がってやる。そう簡単に手に入ると思うんじゃねえ」
だけど――だとしても。
たとえ一生届かないのだとしても。
ああ。悔しいさ。挑戦した経験なんて慰めにもならない。ただ届かなかった結果を舐めて地を這うしかないコトくらい、俺にだって死ぬほどに理解している。
だが。
「――君を倒して《最強》になる」
「とんだ告白だ。まったく、今まででいちばん情熱的で参るぜ」
俺たちは。
「――憧れるだろ、男なら。俺だって――欲しくないっつったら嘘なんだ」
「当たり前だ。その頂を、手にしたいと思わない奴、男じゃないね」
ああ、まったく恥ずかしい。こんなこと初めて口にしたぞ、俺は。
「ふ……君から、それが聞けてよかったよ」
ウェリウスが小さく呟く。本当に、心底から打ち震えるような声音で。
「これでようやく――この戦いに意味が見出せる。礼を、思わず言いたくなるくらいだ」
だから俺も答えた。
「舐めんなよ、この腹黒優男。そいつがこんなところで手に入ると思ったら、大間違いだぜ」
「そうだね……できれば、僕もきちんと挑みたかった。だけど、こうなった以上は加減もできない」
「誰が頼んだよ。生意気言うもんじゃねえぞ、後輩」
「君なら見せてくれるんだろうな、アスタ=プレイアス」
「見たけりゃ示せよ、ウェリウス=ギルヴァージル」
「――当然だ」
そして、次の瞬間――。
※
男は、挑んだ。
「――《天網壱式》ッ!!」
「《逆式印刻》――ッ!!」
片や、かつて焦がれた伝説に。
「《因子超越統御》――《貫け》」
片や、己が知る最高の天才に。
「――《陽太》――」
己が実力の全てを、そうだ。
ただ魅せつけるためだけに。
そして、お互いの魔術がぶつかり合った。
ウェリウスが放ったのは雷撃。雷の槍は文字通りの雷速で矢のように飛ぶ。これで撃ち抜けない敵がいるほうがおかしいという明快にして必殺の一撃。
対してアスタが構成したのはやみ。漆黒にして形なき、暗闇という名の概念。それは宇宙か、あるいはブラックホールにたとえるべきか。
アスタが体の前に出した黒。それがウェリウスの放った雷の一撃を吸い込む。
それは光さえ飲み込む強大な重力圏を思わせる光景だ。
――たったそれだけの交錯が、この世界における魔術の到達点同士の争いであることを、果たして傍から見ているだけで理解できようか。
無論、これで初撃のやり取りをアスタが読み勝ったと思うのは大きな間違いである。遊びのない最速の雷撃は、アスタが最も警戒しなければならない、いわば詰み筋のひとつなのだ。
八属性中において、それでも偏りを言うならば、ウェリウスはそれほど雷属性が得意ではない。雷の単一適性を持つ、たとえばフェオのほうが、単純な破壊力においては勝るだろう。
だが、忘れてはならない。
まずそれが、彼にとって八つある選択肢のうちのひとつに過ぎないという異常を。
アスタが雷による攻撃を読み取って防いだ、という表現は厳密ではない。放たれた時点で終わりでは話にならないため、防がざるを得なかった――と表現するべきなのだ。
そして当然、可能性としては無論、雷以外で攻撃される可能性もあった。
一点読みでそれに賭けると、的中率は単純計算で八分の一。命を懸けるにはあまりに綱渡りが過ぎる。かといって、もしアスタが八属性全てに対応しようとするのなら、それを可能とするルーンなどほとんどない。
というより《運命》の名を持つ空白印刻だけ、と言ってしまっていいだろう。少なくとも仕込みなしの即時発動では。通常の魔力障壁如きで、ウェリウスの攻撃を防げるはずがない。
では《運命》を使うか?
それはそれで問題だ。八属性どんな攻撃が飛んでくるかもわからない状態で、アスタが対応するなら《運命》――なんて考えはウェリウス側だって一瞬で思いつく。当然アスタも、その可能性をウェリウスが考えている、ということまで考えている。ならそれを対策してくる可能性もあるだろう。
この時点で、八択などという生易しい可能性に身を投げることのバカらしさは誰にだってわかるというもの。対応の手法は八の十倍を軽く超えるだろう。アドリブ的な乱数を含めれば、そんなものは数えきれない時点で無限も同義だ。
いかな《紫煙の記述師》でも、ウェリウスを相手に、誘導の効かない初撃の選択肢を唯まで縛り切ることは不可能だ。
ならば高い可能性を広く拾える手段で防ぐしかなかった。
この時点で、読みを外せば死が決まる。
一挙手一投足が文字通り、なんら比喩ではなく死出の綱渡りでしかないのである。
――防がれた……。
ウェリウスは現象冷静に思考する。もちろん彼のほうも初撃で終わるとは考えていなかった。
ただ、方法はさすがだ。あのやみが《太陽》の逆位置ならば、おそらく強大なエネルギーへの対抗だろう。元素はその属性として、エネルギーの形で発露することが多いため、そのエネルギーそのもののをゼロに返す《太陽》の逆式は、なるほど天敵と言っていい。
無論、ウェリウスの雷撃は、ただの雷と呼べるほど生易しい一撃ではなかった。
ただでさえ適性者の少ない属性の上、雷は《ただまっすぐ放つ》ということが八属性中最も難しい属性である。はっきり言えば雷速の矢を放てるだけで冒険者として相当な高位に立てるだろう。
その上でウェリウスの天網壱式――《因子超越統御》には、元素という質的頂点の概念が永続付加される。雷の矢はその《伝達》の概念を持って、不可避の必中攻撃として成立しているのだ。
その必中を、アスタは防いだ。
無論、彼の印刻もまた元素と並ぶ魔術の質的頂点にあるがゆえだ。
その上でエネルギーそのものを霧散させられては。なるほど必中の矢を防ぐには、矢そのもの消せばいい――アスタらしいふざけた解釈だと笑う。これが火といったほかの属性でも、アスタの《闇》は対応できたということ。
その上でウェリウスは刹那に思考する。
なぜ、《運命》を使わない?
それを切り札と定義し、使用箇所を縛るのは魔術師として当然の選択ではある。切り札とは容易に切らないからこその切り札である。安易に札を切っては、魔術の価値を貶めるのだ。
しかしルーンとは、アスタにとって無数にある選択肢のひとつ。あるいは《無数にある選択肢》という、ひとつの札だと言い換えてもいいものだ。
ウェリウスの手札を単純に八と考えるなら、アスタは基礎印刻だけで二十五も存在する。しかも解釈や組み合わせだけでいくらでも幅が出るという無茶苦茶っぷり。その、何をしてくるかもわからない、実質的になんでもできているかの如き在り方は、アスタ=プレイアスという魔術師の根幹だ――つまり《運命》だけを伏せる必要がない。
しかしアスタは、対応力の広い《運命》のルーンをあまり使わない。
もっと狭い範囲でのメタを張ってくることが多い、とでも言おうか。確かに、それが実際できてしまうアスタなら、範囲を狭めて効果を上げるというのはある意味で当然の選択だ。――そうだろうか?
ウェリウスは予測している。
おそらく、アスタは《運命》のルーンを濫用できない。
これほど対応力を持った《強制魔術キャンセル》を、アスタはほとんど窮地での保険にしか使っていない。
それは、アスタがより場に適した対応をルーンの組み合わせで行えるから、それだけの能力があるからだと誰もが思っていたが、実際には逆――《運命》をそう簡単に使えないからこそ対応力で勝負するしかなかったとしたら?
確証はなかったが、確信はしている。
単純に消費の多さを厭ってか、あるいはなんらかの使用制限があるか。いずれにせよ、アスタは短時間に連続して《運命》を発動することはできない。そう読んでいる。
ならば、行うべきはまずアスタに《運命》を撃たせること。
そして使えなくなったところに決定打を与える――。それがウェリウスの考える《アスタ=プレイアス攻略法》であり。
そして――同時に。
――おそらく、そこまでする必要すらない。
と、青年は冷静に思考していた。それは最後の手段だと。
そう。別にそこまで待ってやる義理もないのだ。もったいぶってくれるならむしろありがたい。
アスタが切り札を切らないなら、先にウェリウスが勝負を決めてしまえばいいだけである。
一方で、アスタもウェリウスの次の行動を、冷静に読もうとしていた。
――アワリティア、っつったよな……。
ウェリウスの単語詠唱。そこに込められた意味を想像する。
本来、魔術師が自己設定するキーワードから魔術を逆算しようなど馬鹿のすることだ。どうせ当たらない。だがアスタの場合、そこまでしてようやく、という自覚がそれをさせてきていた。
あるいは、それができてしまうことが異常だと言い換えるべきなのかもしれないが――いずれにせよ。
――珈琲屋が言ってたな。八つの想念か……。
つまりが《強欲》。地球においてはやがて《大罪》と呼ばれる宗教的想念。
これをアスタに撃ってくること自体が皮肉だが、さすがにウェリウスにもその意図はなかっただろう。八想念を、それぞれの八属性に当て嵌めることで術式を簡略化――戦闘用にチューンナップしている。
そこに罪を嵌めたのは、さて、ウェリウスなりのなんらかの諧謔か。
いずれにせよ前回、魔競祭での決戦時より、ウェリウスの天網式は洗練されている。本来は元素が持つ様々な概念を振るえるだろうに、それを一概念に縛ることで発動の短縮化に成功しているわけだ。
幸い、逆式の《太陽》が雷撃は消し去ってくれた。
だが幸運ばかりではない。それはこちらの概念が一方的に勝ったということでは決してない――むしろ単純な力比べでは敗北している。
なぜなら、本来その場に留まるはずだった闇が、一撃で破壊されてしまったからだ。
エネルギーそのものを否定する概念。有を無に帰すはずのそれが攻撃で破壊されるという異常。
アスタは知る由もないが、それは雷撃が持っていた《伝達》の概念が、ルーンそのものに届いて破壊したということだ。詠唱からその事実まで読み取れずとも、おそらくなんらかの概念がルーンに打ち勝ったのだろうとアスタも察知はする。
ふざけている。
これは切り札同士のぶつかり合いではない。
本来の意味から外れれば外れるほどに難易度が増す印刻魔術において、逆式とはほとんどギリギリで行使できる魔術と言っていい。正反対ゆえに遠からず――という解釈は、普通なら使うことすら不可能なほどのものなのだ。当然その消費は大きい。
一方でウェリウスの攻撃は別段、切り札ではない。切り札みたいな効果を持っているだけの、単なる通常攻撃でしかないのである。少なくとも消費の上で言うのなら、だ。
たとえるなら、天網式モードのウェリウスの弱パンチを、アスタはゲージ必殺でようやく相殺した、とかそういうレベルだろうか。お互いに費やした魔力量の差が、釣り合っていないなんてものではない。
連打されただけで負ける攻撃だ。
だから連打させない対策をアスタは講じているのである。
「…………」
言葉はない。油断もない。無手のアスタは理想的な集中でウェリウスを見捨ている。
彼の周囲には七つ七色の光球。ウェリウスを囲うように漂うそれが天網壱式による永続元素概念。
そう、七つである。
雷の属性を意味する紫色の光球が、アスタの闇に呑まれたまま戻ってこない。永続するはずの雷の概念が、空間から消失したということだ。
そうでなくては、切り札を切った甲斐がない。
そう。あの暗闇はブラックホールだ。もちろん実際のものではなく魔術再現における付加概念として。
この異世界の人間は、ウェリウスどころか誰も存在を知りすらしないだろう。宇宙に存在し、光さえ飲み込むエネルギーの終わり――それを太陽の逆式であると言い張るアスタは、実に大人げないというか無茶苦茶ではあったが。
それが永続する元素に対してアスタの出した解答。
呑まれて消えても続いている以上は新しく出すこともできない。
永続性を逆手に取ることで、ウェリウスによる同属性の連射を防いだのである。
アスタもまた、前回の魔競祭で読み取っている。おそらくウェリウスの天網壱式は八つでひとつセットの魔術であると。それは利点でありこそすれ欠点であるはずもないが、こうなっては少なくとも雷だけ新しく出すことはウェリウスにはできない。
弱点、というより仕様上想定されていなかった間隙を突くような行いか。
「…………」
ウェリウスも冷静に思索する。
無論、何をされたのかなどさっぱりわからない。意味不明だ。本来なら再び雷が戻ってくるはずであった。
だが雷が戻ってこない以上、そういうものだと理解するほかなかったし、わけのわからないことをやってくる――という一点において、わかっていたことではあった。なんらかの解釈によって呑まれて消えた、と現状だけを把握する。
そして、――取り立ててダメージだとも思わなかった。
ここまでやってひとつ消せることは、きっと褒められるべきだろう。だが、ここまでやってひとつしか消せないことが、実際上の意味を持つことはない。
何より雷が出せないだけなら、一度魔術を切ってから、新しくまた全部出し直せばいいだけの話である。
アスタの涙ぐましい苦労は、たったそれだけで無意味になる。もちろん、天網式発動分の、決して少なくはない魔力量を消費することにはなろう。だがウェリウスの魔力が、アスタの敗北より先に尽きる、という可能性は無視できるほど低い。
無論、アスタはそれがわかっている。出し直されるだけで終わりだと。
――だが、ウェリウスは知らないという一点がここに効くのだ。
そう。出し直せばいい、ということは、喰らった側のウェリウスにはわからないのだ。
もしかしたら、出し直しても雷が戻らない可能性がある。それで復活するという確証がウェリウスにはない。その場合、魔力は無駄に消費する上に、何よりそれだけの隙を晒してしまう。ただ出すのと、消して出し直すのとでは意味が違う。
ウェリウスはそんな可能性には賭けなかった。
彼は、雷を戻さなかったところで勝てるのだから問題ない、という意味合いでノーダメージと見做したのだから。
だって単純にあと七つ残っているし。
その全てをアスタが消せるともまったく思えないし。
仮に消されたら、そのとき改めて出せばいいし。
それで出なくても、そのときは別の魔術に移ればいい。
お互い、手札が一枚切れた程度で、狼狽えるような魔術師ではない。
むしろそれだけアスタが雷に脅威を感じていることが、ウェリウスには幸運なくらいだ。
その程度で脅威を感じてしまうとわかるのだから。
アスタは考える。さて、ウェリウスはどう動くだろうか――と。
ウェリウスは思った。このままでは、本当にアスタは詰むだろう――と。
「……階段か」
と、そこでウェリウスが言った。
アスタは顔を上げる。だが何も言わず、ウェリウスは続けた。
「手ぶらでどうやって印刻を刻んでいるのかと思ったけど。階段からこのフロアに飛び降りる前に、火をつけた煙草を置いて来たんだろ? だから、遠巻きに煙だけが存在する――ゆえにルーンが使える」
「……さーて、どうかな? なんて、誤魔化してみる以外の返答ねえけど。まさか俺に訊いてるわけじゃねえよな?」
「煙に巻こうってわけだ、はは」
「面白くねえが」
「まあ君なら何かそこにあるもので文字を解釈できるんだろうさ。それでも、煙を使うのが手っ取り早い。それが君にとっては、最も使い慣れた《文字》だからね」
「で? そう読むお前さんは、次にどういう手を打つんだ」
答えは端的な詠唱だった。
「《枯れろ》」
直後、背後からアスタの鼓膜を揺さぶった音は、地形の崩落を意味する爆音。
アスタはもちろん振り向かない。ウェリウスから視線を切ったりしない。
ただウェリウスの言う、階段のところに煙草を置いてきたという推測は大正解であり。
そのために張っていた防御はまったく意味を為さず、ウェリウスに階段ごと巻き込んで潰されたと理解した。
緑色の光球が、ウェリウスの近くで瞬いた。
「とまあ、壱式にはこういう使い方もあるんだ。純粋な戦闘には参つの式の中でいちばん向いている」
「木属性……それで迷宮そのものを崩落させたってか?」
「僕の切り札が、ただエネルギーを放つだけのものだと考えるのは、些か楽観が過ぎるよ。壱式にはこういう使い方もあるんだ。君も防御はしていただろうけど――ま、纏めて潰せば何も関係ない」
「お前、無茶苦茶だわ。俺のこと言ってられないでしょ」
「そうかな。この程度で驚かれると困ってしまう。君もまあ、この程度じゃ驚いてくれないだろ?」
「驚いてんだよなー」
「きちんとサプライズは用意しているんだ。そっちを見てもらわなくちゃ、パーティーの準備をした甲斐がない」
「へえ? モテる男は言うことが違うじゃねえの」
「これまで君には何度も驚かされたからね。一回くらい、こちらからも提供しなくちゃ礼儀に欠けるさ。貴族としてね」
「そうかい。――で、じゃあいったい、野郎に何を見せてくれるって言うんだ?」
「そう性急に誘うなよ。そんなことを言われたら、応えてやろうという気になってしまうだろ?」
――ウェリウスが両腕を軽く開いたのはその直後だった。
アスタは目を細める。魔力の流れがある。
そうでなくともウェリウスが何かをするのなら気を引き締めるほかない。
そして、――天才は言った。
「ずっと考えた。君の弱点を突くにはどうすればいいか。魔競祭で力押しを狙ったのもそうだし、《運命》に関してもそのひとつだ。おそらく連続使用はできないだろう、とかね」
「……持ち上げてくれるもんだね。自分のどこか弱点じゃねえのかのほうがわからねえよ、俺は」
皮肉めいた自虐を言うアスタ。
ここで、ウェリウスはその言葉を肯定した。
「そう――そうだ、その通りだ。君は本来、弱点だらけの魔術師であると理解するべきだった。本当、僕たちはどこまでもどこまでも君の掌の上から逃れられていない」
「……、……」
「どこまで君が異常でも。それでも、君はそもそもルーン魔術師だ。そして印刻使いには絶対の弱点がある」
「……?」
アスタは。
――わからなかった。
ウェリウスが何を言い出したのか。印刻使いとしての弱点――なんて当然の前提だ。
第一、魔術師同士の戦いで弱点を突くなんて、むしろ難しいのだ。それよりは自分の強みを押しつけることを考えたほうがいい――弱点なんて、いちばん理解している当人が初めに埋めている。
そんなこと、ウェリウスだってわかっているはずだった。
にもかかわらずウェリウスは言う。
否、行う。魔術を発動する。あるいは、もう発動していた切り札の――本当の姿を開陳する。
その広げられた両腕。こちらに見せるように開かれた手のひらから、ふたつの光球が飛び出してきた。
アスタは動かない――というより不用意に動けない。
黒と白の二球。
これは、いったいなんだ。なぜウェリウスに八つ以上の手札がある――?
黒と、
白。
陰陽――。
そう。アスタは知らない。ほかの誰も知る者はいない。
なぜなら本来、その可能性は、この歴史ではあり得ないはずの未来だったのだから。
けれど――それは理解が足りていない。
この男は。この貴族は、初めからあり得ない奇跡に挑んでいたのだ。
歴史に否定された程度のこと、世界を支配することで覆せずしてなんとする――。
※
「――っ。おい……おい、お前……ま、さか……!?」
ウェリウスは答えなかった。
代わりに続けた。
「印刻使いの弱点は、文字を使わなければ決して魔術が使えないことだ。それは形が必要なものだ。じゃあ形ってなんだ? つまり視覚情報だ――まあ、暗闇にいるからって魔術が使えなくなるなんてことはないだろう、もちろん。だけどそれはこの世で完全な暗闇を探すほうが難しいからだろう? だが、魔術でそれを創り出せるとしたら? 僕に、元素魔術でそれができるとしたら? そう――この世には、闇を司る元素がある」
「……おい。それは……いくらなんでも、ふざけんなよ……」
「何が? 逆に訊こう。元素は全部で十属性だっていうのに、たった八つだけで世界を支配したなんて、そんな粋がり方、優雅だなんて言えないじゃないか。そうは思わないか? ――ていうか、さ」
薄く。
ウェリウス=ギルヴァージルが、笑う。
――俺は、これほど警戒してもまだこいつを舐めていたのだろうか。
「魔術師が自分の適性を、全部教えるわけがない。普通に考えればわかるだろ?」
どこが。
それのいったいどこが普通だ。
八――。
この時点で異常でしかないというのに。
そんな……ことが。
こんな奇跡が、この世に存在し得るというのだろうか。
だとするならこの男は、いったいどれほど世界に愛されているというんだ。
だとするなら、その前に立つ俺は――。
「――――――――――――――――あり得ねえ」
ついに、無理解を口にした。
「いいや違う。現にこうしてあり得ている。目の前の現実を否定するなよ。ていうか、わかってるんだろ?」
いや。いや違う。そうだ、こんなものは無理解とは言わない。むしろこれ以上なく理解している。
わからなさとは対極だ。わかりきってしまったにもかかわらず、それを受け入れることを理性が拒んでいる。
気が狂ったとしか思えなかった。神様が、こいつを生み出すときに頭がイカれていたのだと、そんなことを考えてしまうほど異常だった。
いいや。正常に過ぎた。
完成していて――完全だった。
――元素。
それは魔術的な解釈における世界の構成因子。火、水、土、風、氷、雷、木、金。八大の自然属性と、そして陰陽の二大性質。足して十となるせかいのすべて。
そう。もしも人間という唯が、世界という全を統べようというのなら。
完全なる支配下にそれを置こうというのなら。
十属性に完全な適性を持つ魔術師でなければ定義が崩れる。
だがあり得ない。そんなことはあり得ない。目の前に在ってなおあり得ないと言えるほどにあり得ない。
歴史上、未だかつて前例のあろうはずもなかった。その完全は、生まれついて世界の支配者であることを定められたか如き貴さ。
そうだ――その通りだ。八と十では意味が違う。あまりにも意味が違いすぎる。
不完全と完全では比較にならない。
未完成と完成では価値が計れない。
こんなことが。こんな才能がこの世に存在していいのか。
バグにも限度というものがある。
天才と。そんな表現が、ウェリウス=ギルヴァージルを前にしてどれほど空虚だったのか。
そうだったのか。
だから俺は、初めて会ったときから――お前を。
「ここからが本番だぜ、アスタ。ただ、その前にひとつ訊いておこう」
ウェリウスが――否。
文字通り、この一個世界の王が言う。
そう、彼は王だ。
世界という概念を構成する十大を全て支配下に置く者を、それ以外に果たしてなんと称す。
――俺は、世界を、このとき本当の意味で敵に回したのだと悟った。
「僕に、《最強》は――果たして相応しいと君は思うかい?」
歴史上一度としてあり得ず、おそらくは二度とあり得ないであろう奇跡の果ての奇跡。
世界の全てを統べることを許された、貴き王たる魔術師。
その完了形。
天才と称することすら憚られる、神の愛の全てを受け取った天才。
世界の全てを支配する者。
精霊愛の独占者。
十つ郷を治むる王。
十大属性完全適性魔術師。
自己自身者。
第四到達者。
イプシシマス。
その名を、ウェリウス=ギルヴァージル。
世界最強の、元素使いである――。
※
レヴィ=ガードナー奪還戦。
第六戦。
vsウェリウス=ギルヴァージル。
実は私、今まで嘘をついていました。
それをこの場で謝罪します。
ええ、あまりにも完璧な詐術に誰も気づいていなかったと思うのですが。
――実はウェリウスは噛ませ貴族じゃないんです……!




