6-17『覚悟』
※
――その姿に、憧れた。
僕は自分が、彼に決して届かないということを知っていたのだ。初めから。
それでも――あるいは、だからこそ。
僕は自分の能力を磨いた。僕を拾ってくれた魔法使いに、ほんの少しで構わない、役に立ったと思ってもらいたい。僕が望んだことなんて、本当に、その程度の些細なものに過ぎなかった。
使い捨てで構わない。
それが正義だと信じている。
礎にすらならなくても別によかったのだ。道具でも。使い捨てでも。使ってもらえるだけでよかった。
だって、僕は結局、自分の価値なんてモノをその程度にしか信じていなかったのだから。
その気持ちはいまも変わっていない。僕は自分が何か価値のある人間だなんて一度だって思ったことはなかった。そこに意味を見出すことさえできれば、いつ死んだって構わないとすら考えていた。
だけど。
だからこそ。
彼のその姿に――憧れたのだ。
※
煙が立ち昇る。その光景はいつだって葬送のそれに似ていた。
くゆる紫煙は揺蕩う不定だ。形がなく、だからこそいかようにでも解釈できる。
「づ――――クソっ!」
迷宮の床を転がって攻撃を躱す。
アルベルの攻撃は苛烈だ。死んでいる彼は死を厭わず、ゆえに後先を考えない怒涛の連撃を仕掛けてくる。
いや、そもそも初めから奴は自分の死など恐れていなかったのかもしれない。
《日輪》を信奉するアルベルが恐れるものは、ただひとつ――魔法使いの役に立たず死ぬことだけ。死そのものへの忌避感なんて、あるいは初めから持ち合わせがなかったのだろう。
捨て身というのは烏滸がましい。
捨てるもの自体がないからこその全霊。
なるほど確かに、厄介だ。
「ピトスならキレるぞ、こんなん――っと、逆式! ――《秘密》!!」
ルーンを刻む。
発動すると魔力が文字を光らせるため、どうしてもそれは気づかれる。
が、一方で相手には、俺がその文字で何をするのかまでは、わからないのだ。
解釈は暴論でも繋がればいい。印刻の利点であろう。
「……《秘密》のルーンの逆位置。秘密の暴露、と言ったところかな?」
「うっせ。訊かれて答えるわけねえだろ、考えてろ!」
「《そこを動くな》」
「させるか、――《保護》!!」
アルベルが放った魔弾を《保護》のルーンで防ぐ。
どうせ、よからぬ効果があるに決まっているため、どうしても魔術的な防御が必要だ。魔力を削がれる。
目の前の障壁に魔弾が弾かれ、けれど瞬間。
「づ――っ!?」
「防いだ程度で逃れられると?」
動きが、止まった。逃げられなくなる。
当てた相手の動きを止める魔弾。防いでも貫通とはやってくれる……!
急停止させられた俺に、アルベルが人差し指を向けて――ああクソ、間に合うか……!?
「――《人間》、」
「《そこにいると危ないぞ》」
「《車輪》――ッ!!」
待機していたルーンを起動。《車輪》のルーンで無理やり自分を動かす。
移動した先は、アルベルの後方、その頭上。
完全に死角をついた疑似転移法だが、アルベルはこちらに振り返りもせず。
「《ここなら平気》、――ブラウン」
「――《空白》」
直後、俺の肉体を雷が撃ち抜いた。
だが逆に、俺の肘も完璧にアルベルの後頭部を捉え――そして。
互いに距離を取る。
互いに、ダメージは受けていなかった。
「……ふぅ」
と、小さく息をつく。
煙草、二本目を考えておいたほうがいいかもしれない。少しでも過てば致命傷だ。
俺は考えながら口を開いた。
「おっそろしい雷撃だな……一回でも狙えば、相手がどこにいようと関係なしに上から攻撃が来るのか」
「予期していたんだろ。《人間》のルーンは自己制御の意味だ。逃げるより先にそれを使ったのは、致命傷を避けるためだった。いや、どころか利用したな?」
「そういうお前こそ、殴りつけてもノーダメージってどういうことだよ。反動すら受けねえとか、どういう理屈だオイ」
「さあ。知っているんじゃないのか、君なら。――《色鬼》くらい」
「色鬼……?」
王国語ではない、日本語の説明。
ああ、そうか。
「お前は一番目に拾われたんだったな……そうか。あいつは――」
「――君と同じ場所の出身だ」
一番目から教わったのだろう。
近いものはあっても、まったく同じ《遊び》が異世界にも全部あるとは思えない。
「なんだっけ? 確か、指定された色に触れている間は捕まらないってルールの鬼ごっこだったかな……そうか。お前本来の魔術は――」
「下らない、単なる《子どもの遊び》さ」
「そのルール自体を適用する法則支配の概念魔術……ってことかね?」
触れられたら動けなくなる。
指を指されたら撃ち抜かれる。
指定された色に触れていれば掴まらない――。
なるほど。
……実に厄介だ。
「安心しろ。法則に干渉する以上、それは例外なくお互いに適用される」
「……、……」
「茶色に――たとえば迷宮の床に触れていれば、攻撃的な干渉は君だって受けないよ」
「そうか」
聞いた瞬間、俺は自分の顔の横をグーで殴った。
その手は、けれどまるで硬さのない壁にでも止められたみたいに、頬に当たった瞬間、動きを止めた。
「どうやら本当みたいだな」
「……そう、すぐに、馬鹿みたいに試すとは思わなかったよ。嘘だったらどうするんだ?」
「敵が自分の能力を解説したんだぞ? 素直に信じるアホがどこにいるんだよ。嘘だったら困るから調べたんだろうが」
「そうだね。君はブラフが好きだったか」
「なんで自分は違うみたいに言ってんだよテメーはよ。第一、言うほど茶色か、この床?」
「そんなものは認識の問題だ。それを言うなら靴を履いている時点で厳密には触れていないだろう」
「細かいことで」
「要は手か足か。何かが触れている一色を読み取るだけのことだよ」
「説明が多いな? どういう風の吹き回しだよ、まるで信じられねえんだけど」
「好きにしろ。君の性格の悪さは僕も知っている。そして僕は、君ほど嘘つきじゃないというだけの話だ」
「だから信じろっていうのは烏滸がましいんじゃねえのかテロリスト」
「他人を信じられない哀しさを君が理解していないだけさ」
「理由を外部に求めないと動けないだけだろ。そのほうが哀れだ」
「好きに言うといい」
「言われなくともそうするよ。――お前は、ただ嘘をつかないだけだろ」
「……まあ心配せずとも、この魔術はすぐに解くよ」
アルベルは言った。軽く笑って、
「ほら。これで再び攻撃は通るようになった」
「……魔術を解いたのは、嘘じゃないな」
まったく、頭が痛くなってくる。
使えるものは全て使い、全てを把握して戦おうとする弱者の足掻き。
そういう意味合いで俺たちは同じ穴の狢なのだろう。
わかっていたことだが嫌になってしまう。――本当に厄介だ。
「つーか、何? お前、まさか一番目と鬼ごっこして遊んでたのか? 意外とかわいいとこあんじゃん」
軽く言った俺を、アルベルは馬鹿にするように笑って。
「まさか。あのお方にそんな時間があったわけがないだろう。話を……聞いただけさ」
「……それだけか?」
「それが? どうかしたのかな」
「別に。なんでもねえけど」
――ただ、少し考えただけだ。
アルベルの元々の魔術がそれだというのなら。
果たして彼は、何を想ってそれを習得したのだろう、と。
そんな、取るに足らない感傷。
大した意味もない。言葉に変えるべきものではなかった。
「まあ、どうでもいいさ」
アルベルは言う。なんの感慨もないとばかりに。
いや、それを隠しているように。
「そろそろ次に移ろう。――まだ僕に、付き合ってくれる気でいるんだろう?」
「うっせーよ。こっちはテメェが絡んでくるから、仕方なく時間割いてやってるだけだ」
「へえ。君がそこまで付き合いのいい奴だとは思っていなかったよ」
「一瞬前ともう言ってることが違うじゃねえかよ」
「僕のためだとは思ってなかったという意味さ」
「そんなこと言ってねえ」
「知ってる。ただの皮肉だ」
「この野郎……」
「――さて。《遊び》を続けようか」
魔力の広がる気配がする。迷宮では非常にわかりにくいが、そろそろ慣れてきた。
アルベルによる干渉――法則支配が始まった結果だ。
概念魔術は難易度が高く習得するが難しい。ゆえにジャンルを絞り、バリエーションを作ることで対応するのが、多くの魔術師の選ぶ道だ。たとえばウェリウスが元素に特化したように、ガードナー家が《開閉》に絞ったように――アルベルはおそらく、《遊戯》という枠を作ることで内側を広げている。
考えてみれば……奴の《逃げる》《隠れる》という適性にピッタリ嵌まっている。
こいつの才能を見抜いた、一番目の教えだったと見るべきか。
「――《ここにはいられない》――」
魔術が起動する。さて、いったいどんな効果だ?
なんて、頭で考える意味はない。どうせオリジナルの解釈が加わっているものに、予断を許すほうがまずい。
アルベルに動きはない。こちらの出方を窺っているのだろうか。
明かりはあれど薄暗い迷宮の中で、影も何もない気がする。動かないのを見るにカウンター型だろうか。
まあ、いいや。
俺は自分から動くことを決めた。
「《太陽》――」
「ぐ……!」
「――《野牛》!!」
魔術を発動。熱球を生み出し、その威力を引き上げてからアルベルに撃ち放つ。
直後、俺は結果を見る前に踵を返して後ろに走り出した。
そして目にする。
気づけば、距離を取ろうとして逃げ出した俺の正面にアルベルが立っている様を。
その指がこちらに向いた瞬間――、
「――《一日》!」
待機していたルーンを起動。
《一日》は循環を意味するルーンだ。どんな方法を使ったのか知らないが、疑似転移で移動してきたというなら元の場所へ叩き返すことくらいはできる。
姿の消えたアルベルがいた場所を俺は走り抜けて壁際へ。
そこに背中をつけて、しゃがみ込みながら前を見る。
無論、その先には無傷のアルベルが立っている。
こちらに、指で象った銃の照準を向け――、
「《水》」
「――ふん」
「《保護》」
落下した雷撃は、俺に当たる直前で軌道を変えて地面に落下した。
アルベルの攻撃がそこで止まる。
「……流動と守護の合わせ技、というわけだな。もう対応したか」
「一回目は、さすがに《空白》で強引に消すしかなかったが。ネタが割れりゃこんなもんだ」
「それで? なら今、僕が強いている法則のほうも理解できたのかな?」
「あ? あれだろ……相手の影のある場所に移動できるとか、そんなん」
俺は嘘をついて。
そしてアルベルはそれを見抜いた。
「……なるほど。本当にわかったらしい」
「ちっ」
「さきほど張った逆式の《秘密》……あれで魔術の効果をある程度、見抜いたわけだ」
「方法までバレてんのかよ」
「当然、僕に転移なんて使えないからね。君がその程度に気づかないはずがないんだ。なら僕が影へ転移できる、なんてあり得ない嘘をついた時点で、君が見抜いたことくらい僕もわかる」
「でなきゃ見抜けるような魔術でもなかっただろ。まあ、お前の言うことが正しければ、それはこの空間にいる限り俺にも使えることになる。――接近戦じゃお前は不利だ。そんな魔術、使うはずがねえ」
「かもしれないね」
アルベルは軽く肩を竦めた。
……ダメだ。この展開は実によろしくない。
対応が後手に回ってしまっている。
何より奇妙なのが――、
「……お前、ずいぶん俺のお喋りに付き合ってくれるんだな?」
「君が魔力の回復を図っていることに気づいているのに、それを許しているのが不思議だというわけだ」
「――――――――」
図星だった。いくらなんでも魔力を使いすぎている。
量としては俺もかなり持っているほうだが、ここまで乱発させられては息も切れてくる。
最悪、ここで使い切らなければ死んでしまうかもしれないが、その場合はもうレヴィを追いにいけない。
「そうだよ、アスタ=プレイアス。僕は何かを狙っている」
アルベルは言う。
見抜かれていることを見抜き、見抜かれていないことも見抜いている。
「さあ、考えろ。それはなんだ? ――君に見抜けるか?」
「……無茶言いやがるぜ」
「無茶は君のほうだ。だが僕も君の弱点はいくつか知っている。――たとえば魔力量とかね?」
「…………」
「確かに君は容量が多いほうだ。ほぼ唯一と言っていい、君の魔術師としての長所がそれだろう。だが反面、君は保有する魔力が多いのと同様、一度の魔術で消費する魔力の量も多い」
……これは。
本気で、まずいかもしれない。
「当然の代償だろう。――君の印刻は異常すぎる」
「……お前に、言われたくはねえな」
「言いもするさ。何がルーンだ。これのどこが印刻魔術だ。違う。そうじゃない。――君が使っている魔術は初めから印刻魔術ではない。ただそれを媒介にしているだけだ。だってそうだろう?」
「――――」
「解釈次第でなんでもできる。必要なのは込める魔力量だけ。そんなものは実質なんでもできると言っているのと何も変わらない。解釈なんて後づけだ。君は魔力の続く限り万能の魔術師なんだよ。それが君の強さだ」
「……んなこたねえんだがな……」
「まったく。まるであのお方と向き合ってるような気分になるよ。――だからこそ最悪だ」
憎悪の視線が向く。
アルベルはすでに一度倒した敵で、格付けは済んでいる、と俺は言った。だが。
奴はあのときとは違う。能力が弱体化しても、感情を飼い殺すことに成功している。
それは成長だ。
奴はもはや以前のアルベル=ボルドゥックではない。
「――そして仕込みは済んだ」
「っ……」
「《影踏み》は解除しよう。もう必要ない」
アルベルは言う。
つまり、奴はそのためだけに――俺が仕込んだ逆式の《秘密》を無駄遣いさせるためだけに、今のやり取りを描いたということだ。本当の狙いを、俺が見抜かないように。
それは逆を言うなら、俺が《秘密》を発動した段階で、奴は魔術の効果を見抜いたということ。
いや、違う。
可能性を考慮し、俺ならそれくらいはやってくると奴は信じた。俺をだ。
その上で、何をされてもいいように行動している。その策を詰将棋の如く敷いている。
「魔人化した僕はその能力を中心に君と戦って、破れた。強い力だが、君にそれを上回られたからだ」
「……お前」
「だからもう頼らない。そしてその結果、僕が君の能力を掴んでいるのとは逆に、君は僕の普通の魔術を知らなかった。それがこの差だ。僕に利した、奇跡だよ」
本来ならそれはあり得ない。
二度目など、死を前提にあり得ない展開だからだ。
だがこいつは戻ってきた。
生き返ったのではなく、死んだまま現世に干渉することで――ただ俺を殺すためだけに。
死人である以上、もはや魔人でさえない弱体化を果たしたというのに。
認めよう。魔人だった頃より奴は強い。
俺がこれまで戦った中で、最もやりづらい相手だと言ってよかった。
単純な強さでないがゆえの強靭さ。
俺たちは今、同じ武器をお互いに振るっている。同じルールの中で争っている。
手の内が読まれている分――不利ということである。
だが。それでも。
「……いいぜ。かかってこいよ、アルベル」
俺は、あえて言った。
それは言葉にする意味のあることだと思ったからだ。
「かかってこい。上回ってやる」
「…………」
「お前が俺に勝てないってことを教えてやる」
「――なら行こうか」
そして。アルベルは魔術を発動した。
「《ここなら平気》。――《ブラウン》」
直後、アルベルはまっすぐにこちらへと向かってくる。
あえての接近戦。その場合は俺が有利なはずだが、今の魔術で不利を埋めたと見たか――あるいは。
いずれにせよ敵の狙いがそこにあるなら、あえて乗ってやる必要はない。
俺は立ち上がり、即座に逃亡を決めた。
アルベルはそれを追ってくる。状況を傍目に確認した瞬間、俺はそのまま踵を返した。
――《駿馬》。
これは愚策だ。そんなことはわかっている。
だがアルベルならば、普通なら俺が乗ってこないということくらい読んでいる。にもかかわらず距離を詰めようとしてきた時点で、あるいは俺が逃げることを期待していたのかもしれない。
この考えは堂々巡りだ。
ならば最速で意表を突くにはこれしかなかった。ほとんど反射である。
ひと息に距離を詰めた俺は、そのまま煙草を投げ捨てた。
これはブラフだ。近接戦に慣れていない奴は、どうしたところで意味もないフェイクに目を取られる。
無論、その程度が意味を成すとも思っていないが、奴もまたどうあれ俺がしたことの意味は考えざるを得ない。なら、やっておくだけメリットだ。
急襲。
反転した俺は即座に膝をアルベルへと叩き込んでいく。奴が床に、茶色に触れている以上、こちらの攻撃は通用しない。そして当然、奴からの攻撃も俺には通用しない。
――などという説明を俺は何ひとつ鵜呑みにはしていなかった。
当然だ。俺はアルベルの言ったことなどひとつとして信用していない。自分の目で確認したこと以外は全てだ。
奴だけがルールから逃れるくらい、平気でしてくる。そういう男だと信じている。
そもそもアルベル=ボルドゥックは《逃亡》と《隠蔽》が本領だ。ルールから自分だけが隠れ、逃れるくらいは当然にやって来るはずだった。
少なくとも、俺がアルベルに攻撃される場合、回避しないわけにはいかない。
そう思っていて。
そして、それでも足りなかった。
「が、ぐぶ……あ」
「な――」
俺の攻撃が通用したのだ。
予想外と言えば、それが最も予想外の展開だと言っていい。
《駿馬》で強化された脚力からの蹴りは、無防備に受ければそれだけで命も危ない威力だ。まして魔力によらない物理攻撃である以上、魔力抵抗で減衰することもできない。
だが、アルベルは俺の攻撃を完全に無防備に受けていた。
「――テ、メ」
「ぐ、づぅ――っ」
赤い血が撒き散らされる。
奴の、もう死んでいる肉体に残っていたものだろうか。その辺りはわからない。
だがアルベルは確かに口から血を撒き散らし、それが足下を染めていく。
床の色を、赤にする。
「その、ために……っ!?」
「――は、は……」
アルベルが笑った、気がした。咄嗟に逃げようとした俺だが、遅い。
その血には魔力が込められており、単純な元素魔術で簡単に広げられるだろう。現に、俺が踏んでいる床の色は、もう赤と言ってしまうべきだろう。
――『要は手か足か。何かが触れている一色を読み取るだけのことだよ』。
そうだ。やられた。
アルベルは確かにそう説明していた。
俺は読み取っていたのだ。
あいつが《自分だけはルールから逃れられる》という事実を隠していたことを――確かに読んでいた。しかし――。
「――ようやく」
しかし、よもや自分が不利になる形で逃れてくるとは思っていなかった。
そしてそれ以外、あいつはひとつも嘘をついていない。
言葉の中に隠した落とし穴。アルベルはそれが俺に読まれることを前提として策を築いたのだ。それを見抜いてしまったからこそ、それ以上の思惑に思い至れなかった。
自分を例外にした上で、ルールに則って俺を追い詰めたのだ。
奴は本気だった。負けることを前提にせず、全霊を尽くした上でなお上回られる可能性を考慮していた。
それは魔術師らしからぬ思考だ。
格付けが済んでしまったからこその方策。
本気だったからこそ、
それを上回ったからこそ、
見抜けない。
「捕まえたぞ――アスタ=プレイアスッ!!」
「お――ま、え……っ!!」
次の瞬間。俺は、
「――《ただあるがままに》」
アルベルの蹴りを腹に受け、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
ところで明日、小説家になろう公式生放送に出演します。
詳しくは今日更新の活動報告をどうぞ。
って感じでまあ、お暇でしたら観てやってください。




