6-09『ダメ男』
マイアと別れ、俺は再びオーステリアの街を迷宮区のほうへ進む。
時間はそう使っていない。消費した魔力も、手渡された指環のお陰で補填は充分、むしろお釣りがくるくらいだ。さっさと夜のうちに進んでしまうのがベターだろう。
マイア以外にも、俺を止めに来る者はいるだろう。だが俺がこういう行動に出ると察知していなければ、妨害されずに迷宮まで進めるかもしれなかった。
無論。
そう簡単にいくような連中では、ないことくらい知っているけれど。
管理局まで、あとひとつ角を折れれば辿り着く、というところまで来たときだ。
――そのふたりは、俺が来ることを知っていたように、ただそこに立って待っていた。
月明かりの下で。
俺は、その姿と対面する。強化した視力は夜目も利くため、いやあ気づかなかったぜで流せるはずもないのだ。可能なら、それで流してしまいたかったものだけれど。
……なんだか、ねえ。
やっぱり、お前らは止めに来るよな。
「予想外、と言ったほうがいいのか。それとも予想通りと言ったほうがいいのか。どうだろうな?」
投げかけた言葉。それに、背の高いほうが答えて曰く。
「何それ。来ないと思ってたってこと?」
「来なきゃいいなと思ってたのと、俺の願いはだいたい叶わないってことと、あとはまあ止めるつもりでも、今夜だと気づかれなければなんとか逃げられるかなーみたいな期待と、やっぱりそう言うのは叶わない気持ちがないまぜになった感想だ」
「バカじゃないの」
「知らなかったのかよ」
「知ってたよ」
軽く首を振る。言うようになったもんだよ、こいつも。
俺は視線をもうひとり、背の低いほうにも向けて。
「お前も、目的はいっしょか?」
少女は笑っていた。
「どうですかね。わたしはわたしで、わたしの目的のためにここにいますから」
らしい、と言うべきなのだろう。
本当――強い女だよ。
「……でもまあ、お前は、そうだろうなあ」
「ええ、わたしはそうですとも。アスタくんのほうはどうです? 見たところ、すでに一戦やり合ってきたようですが。そのことを敗北の言い訳にはさせませんよ?」
「安心しろよ、まだぜんぜん戦えるさ」
「それは何よりです」
その言葉に応じるように、もうひとりの少女も笑う。
「だね。私も、ここには、勝つ気で来てるもん」
よりにもよってこのふたりとは。
ある意味じゃ最悪の敵と言っていいぞ、こいつは。
「ったく、姉貴のアホめ。あんな馬鹿魔力垂れ流しにしたら、気づかれるに決まってるってのに」
「イヤですねえ」
と、そんな俺の言葉に、だが少女たちは揃って首を振った。
「アレがなくても気づきますよ」
「そうだね。舐めてもらっちゃ困るよ」
「でっすよねー。ほら、なんか……えーと、愛の力とか、はい。ありますから」
「適当すぎない?」
「いやちょっと隣から突っ込まないで貰えますかね裏切りですかコラ」
「ごめん、なんかバカなこと言ってたからつい」
「あ? お前から先にやっかテメ、あ?」
「こわいこわい……ハッ」
「やですよこの人、鼻で笑ってますよぅー。見ましたか? これがこの子の本性ですよ。やっぱり恋人にするなら優しくて頼りがいのある癒し系女子ですよ、アスタくん」
「黒い本性曝け出しまくりの女が何言ってんの? どの口で癒し系? アンタみたいな暴力女、男は好きじゃないと思うな。やめといたほうがいいと思うよ、アスタ」
「そういうところがかわいいって評判なんですよわたしはー!」
「台詞がもうかわいくないけど」
「あぁ!?」
冗談みたいにいつも通りのふたりだった。
だからこそ、本気なのだとわかる。
そして、だからこそ――俺はこう告げるべきだろう。
「回りくどいことは言わんぞ。――そこ、どいてもらえるか?」
「絶対に嫌」「バカ言ってんじゃねーですよ」
揃いのお答え。いや揃ってはないが。
だろうさ。なんだろね、……ちょっと嬉しいんだよな、正直。
こうして止めに来てくれるのは、それだけの価値を俺に認めてくれているから。自惚れてもいいのなら、愛されているとか言っていいのだろう。思うところがないとは言えない。
「はは。だからって、そういわれても止まるわけにはいかねえんだけどさ」
「わざわざ払わなくてもいい犠牲を払いに行こうとしてる奴、止めないわけにはいかないよ」
「そういうことです。悪いですけど、わたしの中の優先順位は、もう決まっちゃってるんで」
そして。
ピトスとフェオが俺の前へと立ちはだかる。
「……やる気か?」
問いに、フェオは答える。
「今の私は、前とは違うよ」
知っている。彼女は本当に強くなった。
実力だけじゃなく、その心が。
そして、ピトスもまた笑いながら言うのだった。
「お姉さんほどの甘さは期待しないでくださいね? 半殺しにしてでも、わたしが治せばいいんですから」
知っている。彼女はやると言えば本当にやる。
死ななければ、治せるのだから。
「つーか、アスタくんはわかってないんですよ何も。わたしたちがどうしてここに立っているのかさえ、本当は」
「……なんでなんだ?」
「アスタくんを愛しているからです。この世の誰よりも」
恥じらいもせずに答えるピトス。
まったく言葉がない。告白の返事もせず死にに行こうとする控えめに言ってクズ野郎に、返せる言葉のあろうはずもない。
「……お前はどうなんだよ、フェオ?」
そう訊ねると、フェオは軽く首を振って、それからこちらをまっすぐに見た。
「そうだね。私も――言えてないこと、あったからね。伝えるために、立ってるんだ。それは、絶対に否定させない」
「……言えて、ないこと?」
「うん。――私、アスタのこと、好きだよ」
「――す、」
「初恋なんだ」
…………、…………。
「え、マジで?」
時間が凍った。
ふたりは言った。
「わたしが言うのもなんですけどフェオさんこの男殺してもいいのでは」
「うん刺す殺さないけど刺す一回刺す絶対に刺すどうせ死なないし刺す」
「――いや違うんですよ!?」
待ってくれ。だって違うじゃん、思わないじゃん、そんなん。予想外すぎるじゃん。
好かれるどころか迷惑かけっぱなで正直ちょっと嫌われてるまで思ってたまであるよ俺は!
いや、いやまあそれは言い過ぎかもだけど、この状況で、そんな……ピトスもそれ言ってんのに、いっしょに来て、いや、言うとか思わんし……あ、そうなんだ。
くそぅ。まさかこんなところでモテ期が来るなんて。もっと余裕のあるときがよかったなあ……とか言うから怒られるのかな俺。
「……えーと。ありがとう、ございます」
俺は答えた。
俺のことを好きと言ってくれたふたりの女の子が、ゴミを見る目で俺を見た。
……やっぱ嫌われてないですかね……。
「あー。うん……まあ、そうな。――悪かったよ」
その想いに、本当の意味で報いる方法。
それを考えながら。
好いてもらっていることは嬉しい。俺だってふたりのことは好きだ。
だけど。
だからこそ。
「悪いな、本当に。でも俺は、それでも行くって決めたんだ」
「……まあ、アスタはそうだよね」
「だからわたしたちは、それでも止めに来たんですよ」
「――そうか。なら、よかったよ」
まあ、魔術師なんてこんなもんだ。
どうあったって我があるから。それを肯定的に受け止めているからこそ、ぶつかることを許容できる。
だから俺は、告白してくれたふたりの少女に、およそ最低の返答を笑顔で告げる。
「そこをどけ。邪魔するなら倒すぞ、ピトス、フェオ」
その宣戦布告に、魔術師らしい答えが来る。
ふたりもまた、満面の笑顔で。
「かかってこいよ」
「やれるものなら」
※
レヴィ=ガードナー奪還戦。
第二戦。
vsピトス=ウォーターハウス及びフェオ=リッター。
※
開幕を告げるものなどない。名乗りはあれど、俺たちは互いに敵同士。
魔術師の戦いなど勝った者が正義だ。卑怯も卑劣も何もない。
ゆえにこそ、その不意打ちを罵倒することなど俺にはできなかった。
「――術式起動、」
「励起」
ふたりは同時に動いた。
片やピトスは、その両手を地面について魔術を起動する。その結果が発露されるより早く、フェオの髪が赤に染まった。
先祖返り。吸血種としての能力発露。
魔力に染まった赤髪を振り乱して駆けるフェオ。その両手には、シルヴィアから、エイラから託された二刀がある。
「しっ――!」
距離を詰めてきたフェオを、俺もまた自ら近づくことで対応した。
魔術など使ってもいない。剣を相手に中距離を保つなど自殺行為にも等しく、俺は急接近してリーチの不利を補う以外にはなかったのだ。
袈裟に振るわれる一刀。その腕そのものをこちらの腕で止めると同時。逆の一刀が胴を凪いできた。こちらは義手の硬度に任せて、ほとんど強引に止めてみせる。
フェオは少し驚いた表情で、それでも笑った。
「へえ。その腕、硬いんだね?」
「一瞬で決着をつけられなくて残念だったな」
あえて俺も笑みを返した。
魔術を用いず、あえて生身で受けたのは当然、理由ありきだ。――ピトスが発動した結界である。
おそらく、彼女たちはあらかじめ用意していたはずだ。俺を打倒するために必要な準備が終わっていたから、瞬間に結界を発動させている。ふたりはなにせ、アイコンタクトすら交わさず戦闘に入ったのだから。打ち合わせ済みということだ。
「さすがですねー、アスタくん。結界の効果を見抜いたんですか?」
ピトスの声が遠くからかかった。
だがそいつは違う。
「まさか、知るわけねえよ。なんだかわからねえから、普段の俺ならやらない方法を選んだだけだ。は、その分なら正解みたいだな。魔術で防御してたらどうなってたか」
「その判断力が、充分に化物だと思うんですよね、この人は」
ピトスの呟きをフェオも受けて。
「私が駆け出して、ピトスが地面に手を突いただけでそう判断したってことか……本当、さすがは伝説だよ」
「……は。それだけの理由で、お前に噛みつかれた頃が懐かしいもんだ」
「今はもうそんなことしないよ。アスタは、私がいちばん尊敬している魔術師だ。――だからこそ、勝ちたいんだよね」
ぐ、と力が入った。
フェオを止めている腕が押され始める。そもそもの膂力が思い切り敗北している。
「悪手だよ、アスタ――近接じゃ、アスタは私どころかピトスにも勝てない」
フェオの足が振るわれた。
バランスを崩すはずの行いだが問題ない。フェオは本当に、踏ん張りさえなしの腕力だけで俺を押さえ込むことができるのだから。受けるわけにもいかず、背後へ逃げることで蹴りの一撃を回避する。
その瞬間、フェオを追い越すようにピトスの魔弾がこちらに飛んだ。
俺はそれを防壁で防ごうとして――、
「――っ!」
直感だった。何か明確な理由があったワケではない。
強制的に止められた動きが、俺の回避を間に合わなくさせた。魔弾が直撃し、そのまま背後へと吹き飛ばされる。
ピトスとフェオが、驚いたように動きを止めた。
「い――ってえ、マジ……くそ。肩が砕けるかと思った……!」
「……まさか当たるとは思っていませんでした」
驚くピトスに笑みを返す。
「は。……ちょっと読めてきたぜ。今、追撃がなかったな」
「それは、あんな無防備に受けると思わなかったからなんだけど」
フェオの言葉に首を振る。
威力からして牽制とみるのが妥当だ。だがそれなら、それこそ当たった瞬間が狙い目だったはず。
――どういうことだ。
考えろ。ピトスが張った結界の効果はなんだ。
魔術の阻害は本来なら考えにくい。結界は内部にいるピトスとフェオたち自身にも効果を及ぼしている。それ以前、質的に高度なルーンを阻害することは難易度が高い。
ならば、なんだ。即興ではなく陣を描いて待ち構えているはずだ。だったら全てではなくとも、魔術の一部を妨害することならできるかもしれない。それは――おそらく、防御だ。
「……防御魔術の発動阻害、か。この結界、おそらくそのためのものだな」
果たして、ピトスとフェオは目を見開いた。
「嘘、でしょ……なんで、これだけでわかるの?」
「確証はなかったよ。でも、その反応で確定だな――考えたもんだ」
当然、俺は見破ったのではなく鎌をかけただけだ。引っかかるふたりが悪い。
辺りを見遣って、ようやく気づいた。
正直、やられたと思う。
このふたり、とんでもない方法でそれを完成させている。
「――ルーン魔術を使ったな、ピトス」
「正解、です。ルーンに質的に対抗するためには、こちらもルーンを使うしかありません。幸い、常軌を逸したお手本に心当たりがありますから」
解釈の幅が広いだけで、別段ルーンは俺の専売特許じゃない。
ほかの魔術を使えない俺とは異なり、ピトスとフェオは学べばルーン魔術だって使えるのだ。
「廃れた魔術ですから使い手は少ないですが、あらかじめ準備しておけるならルーンは悪くない魔術です。まあ、メインで使うような馬鹿げた真似は誰にもできないでしょうけど」
「言ってくれる……防御魔術を使えない場所を作り出したのは」
「だって、アスタくんには、できないでしょう? わたしたちを傷つけられないでしょう」
悪魔みたいなことを考える女だった。
強制デスマッチ。魔術師が高威力の魔術をポンポン放てるのは、相手がある程度まで防御、軽減できるという信頼からだ。
殺し合いではないのなら。魔術師は魔術師であるというだけで魔術への抵抗力を持っている。
ピトスは今、そのセーフティを外したと言っている。
その上でも彼女たちは容赦なくこちらを攻撃してくるだろう。俺が死ぬわけねえ、という開き直りみたいな信頼から。一方でこちらは、確かに戦術の幅を狭められてしまっていた。
「申し訳ありませんが、やれることは全てやりますよ、わたしは」
「……いいさ、なんだって。決めたんだろ?」
「ええ、そうです」
開き直ったピトスは、フェオは強い。
決めているからだ。自分の中での優先順位を。通すべき《我》を。
「たとえ世界が滅ぶとしても。わたしは、アスタくんに生きていてほしいと思うんです」
「……参るね。愛が――重くてな!」
これは詰めに来ている。俺ひとりではどうしようもない、というほどに。
だが構わなかった。
あるいは俺は、これはこれで――選択肢としてはおよそ最悪、というか最低のものを選んでいるのかもしれない。
だけど手段を択ばないのはこちらも同じ。
直後、俺はまっすぐに駆け出した。
「な――」
「――させるかっ!」
驚くピトスと、それでも即座に反応するフェオ。
俺は、ほとんど自分の身を犠牲にする形で前に駆けている。
向こうとしては願ったりだろう。フェオなら俺を傷つけず無力化する程度は容易いのだから。
だからこそ、その特攻には意味がある。
俺が捨て鉢になっているとか、攻撃されないなんて甘い考えを持っている――などとふたりは考えないから。
だが。意味のない行動に意味を匂わせるやり方は、結局のところ普段の俺だ。
それでは通じない。あいつらは、そのことだってやっぱり理解しているのだから。
――つまり。
この行動だって、もちろん意味を帯びている――!
瞬間。フェオの剣が、水流によって弾かれた。
驚くフェオ。慌てて切り払うも、その一瞬で俺は横を抜けている。
その先にはピトス。
だが、彼女ももう俺を止められない。あまりにも遅かった。
――音が、する。
それは軽快に、どこからともなく跳び込んでくる人影。彼女が地面を踏み抜くだけで、結界が粉々に破壊される。
俺はピトスの横も通りすぎた。
止めに来たふたりを、ほとんど無視する形で。
「――つーわけで。あとは任せた、ふたりとも」
「ん。まかされ……た!」
「いや本当、仕方のないお兄ちゃんだよねえ」
ようやく間に合ったというべきか、それとも遅かったというべきか。
おそらくそのどちらでもない、というのが答えだ。だから、俺がふたりに告げる言葉は以上でいい。
結局、初めから俺の作戦などこんなものだ。
自力での突破が難しいのなら――できる誰かに任せてしまえばいいという話。
いつだって、それが俺の方法論だ。
いやまったくもって、男らしくないことこの上ない。
「う、うそ、でしょ……?」
「あ――あの男、最悪だあ――っ!!」
まさかスルーされるとは思っていなかったのだろう。
愕然とするピトスとフェオ。俺はそちらに振り返って言う。
「そういうわけだ。あとのことは妹にぶん投げる」
「か、仮にも告白した女子の一世一代のバトルを他人任せにしますか普通……!?」
「……わ、私の……立場が……」
「うっせーな。こっちはそれどころじゃねーんだよ」
「最低だあ――ッ!!」
というツッコミが、なぜか三つ聞こえたのはまあ気のせいだろう気のせいに違いないようん。
いいんだよ。他人じゃなくて家族なんだから。お前ら、妹と上手くやれない奴とは付き合えないからな俺は。
……刺される気がしてきたぞぅ。
「それから!」
と。だから最後に俺は言う。
一応、これだけは、最後に伝えなければならないだろうということで。
「――告白の返事は帰ってきたら必ずする。必ず、帰ってくる。レヴィとウェリウスを連れて、だ」
実のところ、心はもう、決まっているのだけれど。
いや。それをここで言うのは、さすがに違うんじゃないかと思うんです私は。本当に。
それで愛想を尽かされたら……まあ、それはそれって話だろう。
みっともなく、今度はこちらから頼みに行くだけだ。
だけど。
止めに来てくれて、ありがとう。
※
「嘘だろ、オイ。マジでいなくなりやがったんですけど、あの男」
小さく呟くピトス。頭を抱えていた。
だけど、それで愛想を尽かせないのだから、もう本当に参っているらしい。
――わたしって割と尽くす女だよなあ、とか思った。
「なーにしに来たんだろね、私たち。もう道化なんだけど。ナニコレ?」
「ちょ、やめてくださいマジで。心折れます。いやそりゃわかりますけれども」
「つーか、ふたりはそれでいいの? 結局、いいように使われてる感じするんだけど」
フェオは、アスタのふたりの義妹に声を向けた。
言われた少女――シャルは、軽く肩を竦めるようにしてこう嘯く。
「別に。頼ってもらえるようになっただけ、マシだと思うな」
「……都合のいい女」
「おい聞こえてるぞピトス。言っとくけどあんなのでもお兄ちゃんだからね。――どこの馬の骨とも知れない女には渡せないよ?」
「あんだと?」
「言葉通りだけど。ね、そうでしょ、アイリス?」
「ん」
わかっているのかいないのか、アイリスは小さく頷いた。
それを見れば毒気も抜ける。この少女の判断は、おおむね間違わないと知っていたから。
「それに、」
と、アイリスは言う。
「終わらせて、追いかければいい……だけだから」
「……追いかける?」
「わたしは、アスタを、助ける。ピトスと、フェオは……止めたい。だったら、勝ったほうが……追いかければ、いい」
至極、単純な話であった。
そして実際、それは事実だろう。
戦いの合意としては充分だ。
「いいこと言ったね。実は私も、なんだかんだ言って置いてかれたことには腹立ってるし」
「……なるほど。では、どちらがアスタくんの元へいけるか。そういう勝負をしようってわけですね?」
受けるピトスに、フェオも応じて。
「いいじゃん、わかりやすくて。なんかもう、いろんな意味であの男は殴らないと気が済まないし」
シャルが笑って。
「――勝ったほうが」
ピトスが言った。
「殴っていい――!」
レヴィ=ガードナー奪還戦。
第二戦。
組み合わせ変更。
シャルロット=プレイアス/アイリス=プレイアス
vs
ピトス=ウォーターハウス/フェオ=リッター。
アスタくんが悪いわけではないのです。
彼を許してやってください。
――このあとちゃんと酷い目に遭うから!




