表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セブンスターズの印刻使い  作者: 白河黒船/涼暮皐
第六章 運命を超える意志
261/308

6-03『現状確認Ⅰ』

説明回です。がんばってね。

 それからマイアが話したのは、つまりが歴史の話だった。



     ※



《一番目の魔法使い》が、いつその精神を腐らせてしまったのかはわからない。

 いや。それとも彼はあくまでも、理性によって行っているのだろうか。その辺りは単純に、見る側の捉え方次第なのかもしれない。

 問題は――それを問題と呼ぶのであれば――結局のところ一番目が人類の敵となってしまった一点なのだろう。

 動機など関係がない。

 それが崇高であれば認めるのかと問われれば、誰も頷きはしないだろうから。


「かつて、戦争があったわけさ」


 ――私はそれを、歴史としてしか知らないけれど。

 そう前置いてマイア=プレイアスは語る。

 曰く、かつて古の時代に、《魔王》と呼ばれる存在があったのだという。

 無論その呼び名はあくまで後世において語られたもので、当時それはただ世界を破滅へ導く災害としてしか認識されていなかった。

 今となっては《それ》がなんであったのかさえ曖昧であるが、ただ《それ》が世界を滅ぼし得る存在であることと、その存在を打倒した者があったことだけが後世に伝わっている。


 それが一番目。のちに《運命》の魔法使いと呼ばれる者だった。


「かつては文字通りに世界を救った英雄だった。そして魔術の奥義に至った彼は、《転生》の術式を開発して、無限の生を得た。――そして、その長い生の果てに、この世界が滅ぶことを知った」


「彼は《運命》を掴んでいるから。だからこの星の行く末を知ってしまった。そこで彼が何を思ったのかまでは私にもわからない。わかっていることはひとつだけ。――彼はこの機に、人類を間引く(丶丶丶丶丶丶)ことを決意した」


「言葉通りね。ここでいう世界の滅びとは、正確に言うなら《膨大な魔力の渦に呑まれる》ということ。そんな強大な奔流の中で、人間は肉体を維持できない。そういう意味での滅亡ってことよね」


「だったら対処法はふたつある。魔力の渦に《呑まれないようにすること》だけではなく――《呑まれても、死ななければいい》という考え方もできるってコト。人間そのものを、先の次元ステージへ進化させてしまうわけね。毒を飲んでも死ななければ問題ない、みたいな考え方だけど」


「もともと、魔力で構成される生命の存在は証明されてた。魔物とかね。だったら人間もそのレベルへ至れるはず。彼らが……教団が行った魔人化の理論研究は、要するにそういうこと」


「世界が滅んでも、自分たちが滅ばないようにするための計画だったわけ」


 ――そうだな、と誰かが呟いた。

 ユゲル=ティラコニアだ。


「《地上》――狭義ではこの概念を指して《世界》とする。惑星ほしを覆う、つまりが《生物》の住む世界だ」


 魔術的に定義した惑星は、ひとつの生命として捉えられている。

 人間も、あるいはそれ以外だろうと、それが生物であるのなら地上を間借りするだけの身だ。


「……なあ珈琲屋。星の……地球の内側ってどうなってるんだっけ?」

「そうだな……まあ地球型惑星ならば、内側からおおまかに内核、外核、下部マントル、上部マントル、地殻……その表面が地表だ」


 アスタの問いにレンが答える。

 聞いたアスタも、そこまでしっかり返ってくるとは思っていなかったが。


「……なんでお前はそんなこと知ってんだ」

「充分、常識の範囲内だろう。むしろなぜお前は魔術師のくせに、そんなことも知らないんだ」

「うっせーな。まだ中学上がったばっかだったんだぞ、当時。魔術がどうこう以前に普通に知らねーわ」

「……。ここで言う地表部分が、ユゲルの言った地上……魔術的には《生物生存圏》とか、そんな風に言う」


 アスタを無視して話し始めるレン。

 腹立たしくも、アスタとて今さら話の腰を折る気はない。


「ま、要は林檎の見える皮の部分だな。そこが地上。それを剥いた果実部分が内部構造だ」

「……だけどこの世界には、内側に迷宮……魔力空間がある」

「そうだ。だが違う」


 レンは頷き、それから首を振る。

 矛盾するその答えの意味は。


「少なくとも俺の調べた限りにおいて、この世界もおそらくは地球型惑星だよ。科学的に、というか物理的にはな。超巨大な岩石の塊」

「え。星って岩なの……?」


 呟きに応じたフェオ。その反応にレンは軽く肩を竦め、


「ごく単純な表現をすればな」

「へえー……そうなんだ」

「そして、まあ思考実験みたいなものだが、俺たち人間が地面をひたすら掘っていくとしよう。ここから足下を、ひたすらまっすぐにな……それが可能で、かつ重力影響を無視して星の反対側の地上まで貫通できるとしよう。さて、できたトンネルを通るとして。問題、俺たちは途中で迷宮にぶつかるか?」

「え……っと」

「――いえ。ぶつかりませんね」


 迷うフェオに代わり、ピトスが答えた。


「迷宮には、管理局の転移板を通らなければ入れません。シャルさんやアスタくんもいましたけど、初めて集まったときみたいに。アレは正規の手続きであるという以前、本来ならそれ以外に方法がないということでもあります」

「そう。それが正解だ」


 レンが頷く。そこでフェオが首を傾げ。


「え。でもタラスの迷宮は――」

「アレは入口があるので例外ですけど。逆を言えば入口以外からは出入りできないでしょう? 少なくとも物理的手段で。オーステリア迷宮の場合は、あの転移板が入口、と考えれば早いかと」

「なるほど……」

「……まあ、この中にはあっさりと別の手段で出入りする方々もいらっしゃいますしね」

「む。なぜこちらを見る?」

「すみません、シグウェルさんの口は食事にだけ使っててくださって大丈夫です。話進まないんで」

「これ美味いぞ?」

「訊いてねーんですわあ」


 律儀に突っ込むピトスであった。軽く首を振って。


「いずれにせよ。魔術的な手段を取らない場合、迷宮には入る方法がないのが基本です」


 それをシャルロットが受けた。


「フェオが価値も知らずに使ってた転移の魔具とかもそうだね」

「うるさいな!?」


 顔を赤くするフェオ。シャルロットは続けて、


「ま、タラスの場合のほうがむしろ普通で、例外はむしろオーステリアのほうだよね。ほかの土地の迷宮も、基本的には入口が設定されてるほうが多い」

「……ああ、そいえば、そうだね。そっか……実はシャルも、冒険者やってた時期があるんだっけ」

「真似事みたいなもんだけどね。基本ほら、迷宮って、旧い時代の魔術師が遺した研究施設や宝物庫の変異って話だったじゃん? でも実際は違った。迷宮は《世界の裏側》に直結する場所でだった。だとすると――」

「――要するに。それは過去の魔術師たちが、入口を設定したっつーことだろう」


 シャルロットの考察を、レンが受ける。


「入口の設定?」

「ああ。迷宮の……その大本となる空間自体は、おそらくこの惑星が生まれたときから存在する。だが人間はそこに入る方法が本来なかった。だが……《喪失魔術ロストロジック》なんて概念があるんだ、おそらく過去……あの一番目の魔法使いとやらがいた時代か、その前後か……正確には知らんが、その辺りの魔術師は、現代より進んでたんだろ。だから魔力空間に接続する方法を見つけた奴らがいた」

「ああ――逆なんだ!」


 シャルが叫ぶ。


「空間そのものを過去の魔術師が造ったんじゃなく、そこが魔力に満ち溢れた空間だったから、利用しようとした魔術師がそこに研究施設とかを作ってた。だから、迷宮を通じて《裏側》に接触できるんだ。あとの時代の魔術師には、その能力がなかった……だから、勘違いしていた……!」

「だと思うが……なるほどな。――つまり、そういうこと(丶丶丶丶丶丶)なんだな。そうだろ、ユゲル?」


 レンはユゲルに問うた。だがユゲルは何も答えない。

 答えを待っていなかったのか、それとも性格を掴んでいるからか。レンは気にした様子もない。

 だから、フェオが訊いた。 


「……どういうこと?」

「星は巨大な岩石だ。だが、それでも《岩石》と《惑星》は異なっている。言葉の上でも、魔術的にも」

「どう違うの?」

「さっきも言っていただろう。――惑星ほしは、生きている。生命なのさ」


 魔術的に《生物》と《生命》を分ける判断材料は、大きく言えば《肉体の有無》である。

 厳密には多少異なるのだが、自然状態ではこの分け方でほぼ困らない。三要素たる《魂魄》《精神》《肉体》のうち、およそ生命と称される者は肉体を持たないことが――というより、それを魔力に依ることが多い。

 レンは続ける。

 語る。


「多くの魔術論……というよりは神話、宗教の元型論アーキタイプの話と言うべきか? まあなんでもいい。あまりメジャーではないが、三元論トリニティと言って、多くの物事を三要素に分けて考え、かつそれらを繋げる思考がある。魂魄は神性を、精神は人性を、肉体は獣性を司るとか、まあそういう話だ。――地球の魔術論だがな」


「さて。もちろん星は生き物ではない。だがこんな言葉遊びは結局が定義次第でな、いっそ比喩というか、単に話をわかりやすくするための捉え方のひとつだと思え」


「この星の構造そのものをひとつの生命と仮定したとき。根幹となる魂魄の存在を仮定した際――では星の肉体とは何か。決まっている、それは当然、俺たちが立っている大地、地表……その構造そのものだ。肉体に縛られる人間は当然、星の肉体部分でしか存在できないわけだな。なら、俺たちの言う魔力空間、魔力の渦……世界の裏側とは何か」


「それが、たぶん惑星にとっての《精神》に相当する空間ばしょだ。想像によって創造された、イメージの世界。物理的には辿り着けない現実ならざる異空間。ゆえに、そこへ辿り着くためには肉体の軛を外れ、精神体――魔力体としての活動が求められる。それを可能とする方法が、教団の作り上げた術式。人間の進化系……すなわち《魔人》化だ」


「逆を言えば、この星そのものもまた、次の段階への進化過程にあるんだろう。岩石にくたいに囚われない魔力せいしん構造としての惑星になろうとしている。それに、地上の生物はついて行くことができない。……できなかった」


「連中が言っていたところの、世界を救う方法ってのが、言うならそれだな。惑星の進化に合わせて、人類をも生物から生命へと進化させようとした。――だけど、それだけならもっと、別の方法が取れたことだろう」


「連中は《世界を救う》と言った。……そう、言葉通り(丶丶丶丶)なんだ。奴らは世界を救っても、人類を救うつもりなんてさらさらなかったんだよ。進化に適応できない人間なら死んでもいいと思っている。いや、死ぬべきだと思っている――それがゆえの間引き(丶丶丶)。そういうことだろう、マイア=プレイアス?」


 ――うん、そういうことだよ。

 と、マイアは答えた。否定しなかった。


「本来なら。惑星の進化は、五大迷宮でユゲルが……私たちが確かめたみたいに、もっと、遥かずっと先の話だった。けど教団は……というか《日輪》はそれを早めたんだよ。だけど、急速に加速を強制された進化が上手くいくと思う? うん、いかないよね。この方法は間違ってる。星は進化の負荷に耐え切れず自壊してしまいかねない。――だから、そのために、それを防ぐために、シャルロット=クリスファウストとレヴィ=ガードナーが必要とされたんだ」


 つまり、ガードナー家とはそもそもそのために存在している家系なのだろう。

 だが絶対じゃない。完成形とさえ称されるレヴィ=ガードナーが、間に合うかどうかが不明だった。


「……でもレヴィさんは、たぶん、わざと間に合わないようにされたんだと思う」

「セルエ?」


 静かに語り出したセルエに、アスタが首を傾げる。

 彼女は続けた。


「レヴィさんの能力は、その大半がお母さん――エリファさんによって制限されていた。彼女は本来、そうだね、天才と呼ばれるウェリウスくんにも匹敵するだけの才を持って生まれている。実際、その片鱗は学院の成績が証明していた。けど」

「……本当なら、あの程度じゃ……なかった」

「うん。今はもう、取り返してしまったけれどね。というか……そこは駆け引きだったんだよ」

「駆け引き?」

「うん。レヴィさんは、おそらく間に合わない……生まれないはずだった。レヴィさんがってより、レヴィさんほど完成した才能を持つガードナーの粋がね。この世代、この時代にはまだ間に合わないはずだった。だけど、現実、レヴィさんは間に合ってしまっている」

「つまり、……逆手に取った、ってことか? レヴィがいるから教団は……《日輪》はその能力を、言うならアテにして計画を進めた」

「逆を言えばレヴィさんがいなければ、《日輪》にだってたぶんどうしようもなかったと思うよ。だからエリファさんは、娘の才能を封じることで、《もしも計画を進めようものなら失敗するぞ》って脅したんだと思う。――だけど、その駆け引きは、相手が狂ってたら成立しない。というより敵が上手だった……《日輪》を、《運命》の魔法使いを前に、運命に挑んでも、勝てるわけがなかったんだよ」

「……どういう意味だ?」

「間に合わなかったはずのレヴィさんが間に合っている理由。それは、もちろん《日輪》が運命を変えたからなんだ。……つまり、」


 問いに、セルエはちらとマイアを見た。

 それにマイアは頷きを返し、アスタを見遣る。




「――まあ要は、レヴィ=ガードナーは一番目の魔法使いの実の娘ってことだよね」

しかも終わんなかったっつーね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ