5-28『棄てられた鬼と棄てた鬼』
――太古の記録。
まだ人類が魔術を十全に扱っていた、現代よりずっと神秘に溢れていた時代。
世の中に《人間》と呼称される種族は今より多かった。
無論、そこに明確な定義があるわけではない。
言語を用い、二足で歩き――なんとなく意思疎通が互いにできる者同士を、適当にそう呼んでいたという程度だ。
ただ少なくともこの世界において、その言葉が内包する意味は他世界より数が多かった。それだけの話だ。
人類種がいた。
森精種と呼ばれる、霊的に魔への適性が高いものがあった。
獣人種という、肉体的な魔性適性の高い種族もあった。
鬼種と呼称される何種かの生命は、その精神性がより魔に近かったという。
――その中で。
純粋な鬼としての一族は、けれどその繁殖力の低さから数が異様に少なかった。
そして。
クロノス=テーロは、そこに生まれた最後の鬼だった。
無口な鬼だった。
知性は並より高く、その肉体は鬼の中でさえ最も完成されていた。
だが彼はあまり言葉を発さず、誰かと慣れ合いもせず、ただ在るがままの自然を受け入れることで、何をすることもなく暮らしていた。鬼や、その他の人間族と距離を取り、小動物や植物と言った語らぬ者たちを友として生きていた。
それで完成していたのだろう。
それで完結していたのだ。
精神的には、あるいは鬼より森精種のそれに近かったのかもしれない。
強大な力を持ちながら戦いや殺生を好まず、最低限の食事だけで静かに暮らしていく生活。生まれた森から出ることもなく、本当に文字通り、ただ在るがままを受け入れていた。
ともするとそれこそを、幸せと呼ぶべきなのかもしれない。
そんな日々だった。
だが、そんな生き方は長くは続かない。
理由は単純。どうあれ、彼はあくまで人間だった。
それが最大の悲劇だった。
なぜなら彼は、鬼であったとしても――同時にヒトと呼ばれる生命の範疇にもあったのだから。
もしこの世にヒトが彼しかいないのなら、あるいは何ごとも起こらずその生を終えることができたかもしれない。ほかより圧倒的に長い寿命を持ちながら、自然に適合したその精神を枯らすことなく、腐らせることなく生きることができたのかもしれない。
だが。
そんな自然と調和して暮らす生き方は。
実のところ、ヒトとしてはあまりに不自然だったのかもしれない。
少なくとも周囲にはそう映ったのだろう。
時代が悪かった、なんて表現は慰めにならない。何かを悪者にすることを、少なくとも彼は考えなかった。
「ねえねえ、××」
ときおり彼を、そう呼ぶ者があった。
当時、なんと呼ばれていたのかを彼はもう覚えていない。
純粋鬼に《名前》などという記号を貴ぶ文化はそもそも存在していなかった。
だから、その少女が彼を呼んだ名前は、単に彼女が考え出してつけただけなのだろう。
彼はそれに抵抗しなかった。受け入れたわけでもないけれど、そのため覚えてはいないけれど――弱いヒトの身でありながら、森に分け入ってきては話しかけてくる変わった女に、呼ばれるがまま放置していただけ。そう表現するのが妥当だった。
「へえ。それじゃあ××は、人間じゃなくて鬼なんだ?」
少女はいつも、彼に問いを投げ答えを待った。
ひとりでもずっと話しているような少女だったけれど、それでもふたりでいると、絶対に彼に声をかけるし、答えを待つ。使う場所もない言葉を覚えていたのは、彼があまりに賢かったせいもあっただろうが、確実に少女との会話に必要だったからでもある。
「うん? あれ、鬼もニンゲンなんだっけ。んー、わたしバカだからよくわかんないけど」
「……それは、私が決めることではありません」
「じゃあ、誰が決めるの?」
「周囲でしょう。少なくとも私は人間だとも、鬼だとも名乗ったことはありません」
「そっかー……」
「あなたが私の呼び方を、勝手に決めたのと同じことです」
「ええっ。その言い方はずるいよ! だって××くん、名前教えてくんないんだもん! ……うう、もしかして怒ってる?」
「いいえ」
「ホントに?」
「はい」
「じゃあいいんだけど。……そうだね、いいよね、別に。××くんは××くんだ! わたしのトモダチ――それで充分だよねっ!」
「……そうですね」
交わした会話のひとつの欠片。
そんなものさえ大切に、今も忘れず抱き締めている。
嘘をつかない鬼と。
嘘をつけない人間の少女。
そんな組み合わせは、傍から見る者があれば、上手くいっているように見えたのかもしれない。
「××くんはいっつも静かだねー」
「…………」
「どうしてこんな森の中で、いつも独りで過ごしてるの?」
「ここが、私の生まれた場所だからです。あなたも同じでしょう?」
「それはそうだけど。でもわたしはわたしの村、好きだよ? ××くんも、ここ、好き?」
「……ここは静かです」
「答えになってないんだけどなあ……あ、静かだから好きってコトかな」
「ここは静かです。あなたが喋らなければ、いつも」
「それはどういう意味なのかな!? うるさいってことかな!?」
「いくら麓の村とはいえ、ここまで登ってくるのは大変ではありませんか」
「もう来るなって意味に聞こえるよっ!!」
「そんなことは言っていないのですが……」
「このタイミングで言うからじゃん!」
「そんなものですか。言葉とは、難しいものですね」
ともあれ少女は飽きもせず、毎日のように彼の元を訪れた。
彼もまた、その来訪をいつしか日常として受け入れることになっていた。
――だからだろう。
あるときを境にして、なんの前触れもなく、少女が来なくなってしまったとき。
彼は、生まれて初めて変化というものを自覚した。
おかしいと、そんな風に思ってしまった。
だからといって、わざわざ麓の村まで下りていこうとは思わない。
彼は自らが異端であることを十全に理解している。
こうもあっさり彼を受け入れる少女のほうが妙なのであって、古くから村に生きる者にとって鬼など伝説上の怪物――文字通りの悪鬼でしかないことを知っているのだから。
善悪を問わず。
悪であると。
だが結局、その時点で中途半端だったのだろう。
少なくとも彼は、住む場所を変えるか、少女を完全に拒絶するべきだった。
その代償は、どんな者であれ例外なく支払うことが求められる。
少女が訪れなくなって、ひと月ほどが経った頃だろうか。
彼は見た。
――麓の村から、火と煙が立ち昇っているところを。
※
「……驚いた。まさか、あの状態から姿を晦ます手立てがあるなんて」
というシャルロット=クリスファウストの言葉を、淡々とクロノスは聞いていた。
言われるほど、クロノスは驚いてはいない。別に想定していたわけではなく、どんなことであれ起こったことが現実であると、むしろ無思考に受け入れているせいだ。
ただ実際、言ったシャルロットの側もそう驚いている様子ではなかった。
――あの男なら、それくらいの理不尽はやってのける。
と、むしろ信じていた風にさえ見える。
まるで、英雄譚に目を輝かせる幼子のように。
「どう、クロノス。アンタ、ふたりがどこ消えたか感知できる?」
「……わかりません」
問われた言葉にクロノスは答えた。
外界から魔力を吸収する――その余波で感知能力に長けるクロノスだが、それでもアスタの行き先は目下、不明だ。
「感じたことを感じた通りに話すなら、この場所に我々以外の人間はいない――というのが、最も近い答えになりますかね。木星のお株を奪う鮮やかさです」
「……本当にこの場所から逃げ出したって可能性は?」
「ないでしょう」クロノスは即答で断言した。「逃げたところで意味がない。彼は我々をここで倒さなければならないのですから――それに実際問題、そもそも不可能でしょう。三番目によって時間を捻じ曲げられているこの空間、本質的な構造を理解するのも難しい……というより不可能です。これは、弟子であった彼にとっても檻として働く」
事実、言葉で《時間が捻じ曲げられている》などと言われても、それが現実にどうおかしくなっているのかなどクロノスにはわからない。シャルロットにもわからないし、アイリスも同様――そして本質的な部分では、おそらくアスタ=プレイアスにすらわかっていない。
場所がわかっているから入ってくることはできた。
規定された出口がわかっているから、出て行くことも可能だろう。
だが。
魔術で存在しない出口を作り出して逃げていく――などということはアスタにもできない。
実力や才能の問題ではないのだ。
三番目の魔法使いが、時間への干渉権を自らだけに制限した以上。それをもって世界最悪の犯罪者と呼ばれるようになった以上――それ以外の人間は、時間の概念に触れられない。
「彼にとっても、必ずしも本拠地とは言えないわけですから。この場所は」
「……それはそうか」
「十全に理解できるのは、それこそ三番目だけでしょう。もっとも、彼がそれ以上の理不尽でもって檻を破ったとすれば話は別ですが――」
たとえば一番目のような埒外なら。
時間の枠を、運命によって破壊することもできるのだろうが。
「そんな余裕はない、か……」
「彼の魔力は、もう底を突く寸前です。それだけの術式を構築する魔力はありませんし――私がいる以上、この空間から魔力を工面することも不可能です。彼を見くびるつもりはない――よって彼がまだ切り札を隠していると考えたとしても、です。魔力がなければ、どんな魔術も発動することはできま――」
刹那。
天井が崩落した。
「……っ!」
シャルが反応し防御を張る。
もちろん、彼女はクロノスを助けようとまではしなかった。
彼らは決して味方同士ではないのだから。
もっともクロノスも、驚くことなく冷静に天井へ視線をやった。
逃げた彼らが次に採る行動として、最も可能性が高いのは不意打ちだ。そんなことは確認するまでもなくわかっていた。
ゆえに予期していた不意打ちなんて、むしろ相手にとっての隙でしかない。
そしてクロノスは、天井に空いた大穴の向こうに紫煙を見た。
アスタ=プレイアスの姿を。
彼がその手に、火のついた煙草を持っている姿を。
だがアスタのほうは、クロノスになど目を向けてもいない。彼が見ているのはあくまで独りの少女――シャルロットのことだけだった。
その様子をクロノスは冷静に見つめる。
無視されたという怒りはなく、それで刺激される矜持もない。ただ単に、隙がある、と冷静に判断しただけだ。
そして同時に。
そんな隙を、考えもなく《紫煙》が晒すわけもないと。
「――!」
それが理由だろう。
二度目の不意打ちにクロノスが反応できたのは、きちんと警戒をしていたからだ。
とはいえ、それでも不意打ちは不意打ちとして成立した。
なぜならクロノスが警戒していたのは、あくまで前方――崩れ去った天井側の方向だから。姿の見えないアイリスが、そのどこかからこちらを狙ってくるだろうことくらいは読む。
だがまさか、背後から現れるとは想像していなかった。
「っ、」
それでも咄嗟の防御は間に合った。
腕を交差させ、アイリスの跳び蹴りを両腕で防ぐ。
小柄な少女の攻撃は、全体重を乗せたところで鬼を揺らがすレベルではない。
はずだった。
「――ぐ!」
だが。
そのあまりに想定外の威力に、鬼の表情は初めて歪んだ。
みしり、と嫌な音が両腕で響いた。防御の上から、腕を叩き折られてしまったのだ。
その負傷は鬼の回復力がカバーするが、受けた衝撃まで消えるわけではない。
その体重ごと、砲弾の重量と弾丸の鋭さを両立したアイリスの蹴りが、クロノスを壁に向かって吹き飛ばす。強大な負荷から壁に叩きつけられたクロノスは、それでもなんとか受け身を取ったが――晒した隙は少なくなかった。
追撃がなかったのは、単に目の前の少女がバランスを崩してよろけたから。要は運だ。
「……なんて、速さ……」
だが魔術ではない。少女が魔術を使えないことをクロノスは知っている。
いや、そもそもどうして背後から現れたのか。隠れていたときならまだしも、魔術で移動するような気配はどこにも――いや。
答えなら、見つかった。
あまりに単純で、だからこそ馬鹿げているという答えが。
「……走ったんですね」
クロノスは言う。
答えを求めたわけではない。ただ認識したことを言語しただけ。
アイリスも、だから何も答えなかった。
「上に逃げたあと、魔術を使わず自分の足で、この部屋まで遠回りして階段を下りて回ってきた……単純すぎて逆に驚きます」
「……、……」
「ですがそんな埒外も、その身体能力があれば不可能ではない――驚きました。少し前とは見違える、別人の如き速さです。《紫煙》はいったい、どんな手管を……」
「……おとーと」
と、そこで初めて、アイリスがそう口を開いた。
それが自分を呼ぶ掛け声だと、クロノスが受け入れるまでには少し時間が必要だった。
「今……私を、呼んだんですか」
「うん。おとーと。……おとーと、くん?」
「いえ敬称の問題ではなく」
どこかずれた鬼同士の会話。
ただそれは、確実に変化と呼べるものの兆しだ。
「おとーと、くん……は」
アイリスは語る。
これまでクロノスがアイリスに言葉をかけていたように。
今度は姉から弟へ。
妹から兄へ。
鬼の先達に向け、人としての先達が声をかける。
「――やりたい、こと……何?」
「なん、ですか……」
「どうし、て……きょーだん、てつだってる、……の?」
「……ありませんよ、理由なんか」
クロノスは静かに首を振る。
だがそれを見て、アイリスもまた首を横に振ってみせた。
「ちがう」
「違う、とは」
「それは、だめ」
「…………」
「よく、ない」
「……そう言われましても」
まさか《紫煙》に倒せないなら説得しろとでも吹き込まれてきたのか。
一瞬、そんなあり得ない仮定すら考慮に入れてしまうクロノス。
その理由は単純だ。なぜなら彼は、初めからそれを想定さえしていない。
アイリスが。
アイリス=プレイアスが。
これまでクロノスが一度として所有してこなかった、自らの意思によって、願望によって、感情によって言葉を発しているということを。
ゆえに、クロノス=テーロは理解できない。
「わたし……おねーちゃん、だから」
「……実際には貴女のほうが遥かに年下ですよ、普通に」
「じゃあ、おねーちゃん、で……いもーと」
二本指を立てて、アイリスがクロノスに突き出してきた。
首を傾げるクロノスに、少女は言う。
「にばい」
「……いや、そうなるんですか?」
「だって、にばい……だよ?」
「かもしれませんが」
「クロノス」
と、アイリスが言う。
同じ鬼として。
違ったとしてもその後継として。
「わるいこと、してる」
「……、……」
「それは……だめ、な……こと、だよ?」
単純な理解で。
端的な言葉で。
ただ、お前は悪いことをしているのだと。
それだけの事実を、教えていた。
「よくない」
「……だから、なんですか。やめろと、そう言うわけですか」
「うん」
「そんな言葉で私が止まると? 姉さんは――いえ、あなたは本気でそう思うのですか」
「とめる」
ああ、とクロノスは、そこで理解した。
とはいえアイリスが言いたいことを理解したわけではない。いや、言っていることは言葉としてわかるが、なぜそんなことを言い出したのかにまでは理解が及ばなかった。
クロノスに、ヒトの心はわからないのだから。
まさか本当に《お姉ちゃんかつ妹だから》などという理由だけではないと思うが。
いずれにせよ、言葉でクロノスが止まらないのと同じく。
クロノスもまた、言葉でアイリスを止められるはずがないことは理解しておくべきだった。
単なる同条件に過ぎない。
そして、立っている地平が同じならば。
たとえ紛い物でも。
才能がなくとも。
所詮はでき損ないの鬼でも。
――魔術師である以上、やることは変わらないだろう。
「そうですか。これでようやく、私とあなたは明確に敵同士になれた、というわけですか」
「うん」
「まったく……洗脳を解かれているとは思っていましたが、なんですか、その変わりようは。まるであなたのほうが、《紫煙》に洗脳されたかのようだ」
「……」
「ですが違うのでしょうね……いえ、人間とは昔からそうだった。影響し合うことができる、そんな生き物だった――ついぞ変わらなかった私には、わからない感覚ですが」
――さて、姉さん。
と、クロノスは言った。
「紛い物とはいえ――混ざり物とはいえ、それでもあなたは鬼種の因子を受け継いだ、魔人の試作機として製作された人造個体です。鬼ではなく、人でもなくなったのだとしても――人であり、そして鬼なのです。私と同じく」
「ん」
「ならば鬼の流儀に則りましょう。知っていますか――本来、純粋種の鬼とは、その生まれ持った闘争本能に身を任せ、戦う以外の生き方を知らない戦闘狂の血を引いていると。そこに言葉は不要です。語り合うにはただひとつ、拳の振り方さえ知っていればいい。――そんな野蛮な種族なのですよ」
「……ん」
「私に言いたいことがあるのなら。ええ……そうですね、鬼らしく、人間の言葉を借りて言うのであれば。――拳で語っていただきましょう」
年齢も種族も性別も。
鬼にとっては違いではない。
あくまで強さ。
その腕っぷしだけが頼まれる。
それが鬼という、滅んだ種族の馬鹿な在り方だ。
原初の戦闘。
理屈は力。
それだけを交歓として。
鬼は生きる。
鬼気迫るとは――そういうことを言う。
「私はあなたに、ええ確かに、思うところはあったのでしょう。だからこそ、その解答として――私はあなたを殺します」
だから同胞よ。
この世でただふたつだけが遺った鬼として。
どうか、その腕で。
「――あなたが私を殺してください」
クロノスの纏う魔力が、跳ね上がって渦を巻いた。
鬼気。
世界から回収した魔力が脱色され、ただ純粋な力の塊とされていく。
それこそが鬼の能力。
魔神として、鬼さえ超えた鬼の権能。
理屈はいらない。
論理など必要としていない。
ただ力さえあればいい。
圧倒的な暴力が、超越的な出力が――目の前の全てを捻じ伏せれば話は済む。
話などしなくて済むのだから。
「では――」
「――ん!」
その鬼気に、小柄な鬼が、けれど応えた。
クロノスすら上回る速度でもって、目に止まらぬ鋭さが走る。
まるで射出されたかのように――否。
まるで、ではない。
アイリスは、文字通り自らを砲弾のように撃ち出していたのだ。
考えてみれば、それは当然の帰結だったのかもしれない。
取り込めるのなら、撃ち出すこともできる――理屈としては当たり前だろう。
吸収し、内包した莫大な魔力。魔術師としての訓練を受けていないアイリスには当然、それは宝の持ち腐れだ。せいぜい身体能力の強化にしか使えず、元の肉体が貧弱なアイリスでは限界があった。
それを、アイリスはそのまま、ただの純粋な力として利用していた。
左手を後方に、底から魔力を噴出し、その反動で自らを撃ち出す。莫大な魔力をただの推進力として、いっそ贅沢なまでに無駄に費やすという行い。真っ当な魔術師なら、可能であったとしても絶対に選ばない手法。
けれど。
魔術を使えず、にもかかわらず有り余る魔力を持つアイリスならば。
それは必殺の戦法だ。
「――――っ!」
「……!」
向かうアイリス。
受けて立つクロノス。
速度でもって完全に上回られた彼は、それでも堅固さでもって少女に対抗する。
互いの拳が、まるで兵器のように衝突した。




