5-09『《運命》』
「――ま、そんなところだとは思ってたけど」
アーサーの言葉に、俺はそう答え、軽く肩を竦めてみせた。わかっていたと主張するように。
実際、何がわかっていたというわけではないけれど。それでも察しはついていた。わざわざ教団がシャルを連れて行った時点で、誰だって何かあると疑うだろう。
俺が気にかけることがあるとすれば、それは教団がシャルを連れ去った理由ではない。シャルが、教団について行くことを選んだ理由のほうだ。
「アイツは、わざわざ世界を滅ぼそうなんてする奴じゃないし、そんなことで教団に騙されるような奴でもないと思うんだけどな……」
あるいは魔術で操られているのだろうか。彼女と最後に会ったときは、そういった様子でもないように見えたが。
だいたい、何を考えれば《世界を滅ぼす》なんて思考になるのか、俺にはちっともわからない。
創作物ではよく聞く言葉だ。俺だって、地球にいた頃はそんな目的の登場人物が出てくる作品をいくつか読んだことはある。
だが現実的に考えて、普通の人間がひとつの世界を滅ぼしてやろうだなんて、そんな動機をどうしたら抱ける? どう考えたって、そんなことに意味はないはずなのに。
いや。連中は世界を滅ぼそうとしているのではなく、本気で世界を救おうと考えているのだったか。けれどそれが言葉通りの意味合いでないことは、俺にだってもうわかっている。
「――は。知った風な口を叩くじゃねえか」
けれど俺の言葉を聞いて、アーサーは嘲るように嗤った。いや、実際にそれは嘲笑だった。
「お前がアレの何を知っている? ただ知ったような気になっただけじゃねえのか?」
「…………」
「呪いを解くために、なんてお題目で七星から――キュオネの死から逃げたのはお前だろう? 魔術師としての生き方を捨てて、日常を選んだのはお前だったはずだ。そんなことはできないと、俺が初めから言っておいたのに」
その通りだ。一度でも魔に手を染めたものが、足を洗うことはできない。
当たり前の事実を無視して、逃げ出してしまったのが俺だ。なんの言い訳もできない。
「逃げただけのお前が、その逃げた先で何ができた? 何をした? 事実、一年間ずっと、お前はアレの存在にすら気づかず学院生活を過ごしてたじゃねえか。目を背けて生きるのは楽だったか?」
「――なんで知ってんだよ。なんて、訊く意味ねえか」
「まあお前だって、俺に言われたくはねえだろうけどな。だからこそこの俺が言ってやるのさ。お前がいったい何を知っている、ってな」
それは糾弾であり、弾劾だった。俺が反論する余地なんて、初めから封じられている類いの指摘。
その通りだ。なんのかんの言ったところで、俺は自分の無力さから逃げ出した。呪いを都合のい言い訳にして、学院で過ごす日常を尊いものだと言い繕って、それ以外の全てから目を逸らした。
レヴィが、セルエが、メロが、ピトスが、キュオが――それを俺に指摘するまでずっと。
知らなかったわけではない。俺は知ろうとさえしていなかった。そのツケを払わされているだけだった。
けれど。
「――だからやめたんだ」
「…………」
「目を逸らすのを。自分の願いに嘘をつくのを。責任から逃げようとすることを。俺はもうやめたんだよ、師匠」
俺は、エイラの作ったペンダントを握り締めながら告げる。
いつ以来だろうか。彼を、師匠と呼んだのは。そんなことをふと思った。
「俺は、まあ、なんつーかいろいろ駄目だからな。でも、そんな俺を助けてくれる奴らには、幸運なことに恵まれてた。だから決めたんだ。そいつらに、少しくらい何か返さないといけないって。いいとこ見せなきゃいけないって」
足掻いて、もがいて、無様でも精いっぱい格好つけて――手に入る全部に手を伸ばすと誓った。
いつかセルエに言われた通りだ。俺は強欲で、だから何かを諦めるなんてできない。そんな自分を肯定すると俺は決めた。
アイリスは助ける。シャルだってこっちに引きずり戻す。オーステリアも救う。教団はぶっ倒す。その全部をひとつとして、諦めてやったりなどしない。それでいいと、言ってくれた奴がいるのだから。
「試すなよ、師匠。俺はもう大丈夫だ。今までとは違う。やれることは全部やる」
「――いいんだな?」
「ああ。知らなかったことなら、これから知っていけばいい。だろ?」
「言うようになったじゃねえかよ」
「誰の弟子だと思ってる」
「口の減らねえ奴だ」
「それが俺だ。――だから教えろよ、師匠。俺が何をすればいいのか。何をすれば全てに手が届くのか」
「それは自分で考えるもんじゃねえのか、普通……」
「ひとりでなんでもできるわけじゃないからな。できる奴に助けてもらえばいいんだよ」
「変わってねーじゃねーか」
「そうだよ。初めから、俺はこうだった。それを思い出しただけだ」
「馬鹿め。……ああ、お前は本当に馬鹿だよ。俺が知る中で、いちばんな」
世界に三人だけの魔法使いから、世界でいちばん馬鹿だと認めてもらってしまった。
まあ、馬鹿なのは揺るがない事実なのだから。中途半端になるよりは、どうせなら極まった馬鹿でいたい。
「――俺の魔術で、過去に跳んだときのことを覚えてるか」
やがて。口火を切るようにアーサーが言う。
俺は首肯した。そんな経験、忘れろってほうが無茶だろう。
「今思えば、すげえ貴重な経験だよな。時間旅行なんて」
「あのとき俺は、お前にほとんど情報をあたえないようにした。意図的に。それは時間魔術の縛りという意味もあるが、それだけじゃねえ。相手が、《運命》の魔法使いだったことも関係している」
「……どういう意味だ? っていうか、なんの話だよ」
「まあ聞け」アーサーはこちらを鋭く見据える。「いいか? 知ってしまった《運命》は確定される。それが奴の、一番目の魔法使いの魔術師としての能力だ。奴はな、自分にとって最適な運命を恣意的に選べるんだよ。いや、そもそも奴が存在するからこそ、運命なんて概念が存在すると言ってもいい」
その言葉の意味を、俺は果たしてきちんと受け取れているのだろうか。
俺にそんな自信はなかった。だが、知らず身震いしてしまう。
その魔術の恐ろしさを、あるいは本能的なところで理解してしまったからかもしれない。
「全てのことが、仮に運命で決まってるとしよう。けど、そんなことは普通、人間には関係ない。未来のことなんざ誰にもわからねえんだからな。決まってようが決まってまいが同じことだ。俺以外には」
「……まあ、そうかもな」
「だが奴は魔術を通じて、そんな形のない《運命》に干渉する。観測する。奴は全てを見ているんだ。この世の全てが因果によって決まっているなら、あらゆることを事実として知っていれば、その先のことも全てわかる。それは、つまり運命を確定させてしまうのと同義だ。わかるか」
「理屈としては、まあ」
決定論、というか単純に論理的な問題ということか。オカルトよりはいっそ数学とかに近い印象だ。
手に持った林檎を離せば、それは重力に従って地面に落ちる。そういう未来を予測できる。
運命の魔法使いは、いわばそれを一個の世界の単位でやっているということだろう。全ての《今》を知ることで、全ての《後》は確かに計算できる。理屈の上では。実際には、スーパーコンピューターを引っ張り出してきたところで、予測以前にまず観測が不可能だろうけれど。
それでもまあ、運命の魔法使いは、そんな机上の空論を現実に変えてしまったということらしい。
「そこにほんのひと押しして、運命を確定させるのが奴の魔術だ。あるいは偶然を、まぐれを消す能力と言い換えてもいいかもしれん。奴にとって、あらゆる未来は確定されたただの事実だ。そういう風に固定してしまう。そして、運命干渉魔術が奴の専売特許である以上、それは魔術では絶対に覆すことができない」
「……バケモノすぎるんですけど。人間がやっていいことの範疇超えてるだろ」
俺も大概《意味がわからない》とか《頭がおかしい》とか言われてきたものだが、やっぱりそんなことはないと確信できる事実だ。
そんなのが本当に七曜教団のトップなら、もはや詰んでいるとしか言いようがなかった。どう足掻いたって勝ち目がない。だから。
「覆す方法がないわけじゃない。――そういうことだよな?」
「ひとつはまあ、同格の魔法使いになることだな。魔法使いが《ひとりしかいない》ってのは魔術的に大きな意味と価値を持つ。それは同じことができる人間がいないということであり、言い換えれば、魔法使いの魔術でもたらされたものは、ほかの魔術で覆すことができないという意味だ。まあいろいろあるんだが、そうなれば実力での競い合いに持っていける」
だが。アーサーはそれで敗北した。
何より俺は魔法使いじゃない。どうしようもない。
「ひとつは、っつったな。なら別の方法もあるんだろ?」
「おいおい馬鹿だな、そんなこともわからねえのか」
と、なぜかアーサーがニヤリと笑みを見せる。
その意味がわからず首を傾げた俺に、奴は厭らしい笑みで、ものすごく似合わないことを告げる。
「――そりゃお前。昔から奇跡を起こすのは、愛と勇気に相場は決まってるだろうが」
俺は答えた。
「誰だお前。さては偽者だな」
「いや。だから偽者だっつってんだろ」
「そうだった」
目の前の男は本当に本体じゃなかった。いや、というか。
それでも耳を疑う。まさかアーサー=クリスファウストから、そんな精神論が飛び出すなんて予想外だ。
「いや……でもマジで何言ってんの? まさか気合いでどうにかしろと?」
「そうは言ってねえだろ。似たようなもんだけどな」
「じゃあ言ってんじゃねえか……」
「聞け、馬鹿。いいか、運命の魔術は事実を全て観測する。だが逆を言えばそれだけだ。つまり、確定された未来を変えられるのは《人間の意志》だけなんだよ」
「意志……?」
「ああ。《己の意志するところを為せ》――魔術の基本原理だな。それに立ち返れ。いいか、俺やマイアがお前に何も言わないでいたのは、知ってしまったものは事実となって変更が聞かなくなるからだ。認識が共有され、それが世界というひとつの概念上に共有される。それは変えられない。だからお前は、自力でそれを為さなければならなかった。自力で知ったことならば、それを変えようと、回避しようという意思が優先される。変更に失敗した俺たちと認識を共有しないことで目が残る。誰かに何かを教わって、その上でしようとすることは、それはもう俺がお前に影響していると言い換えられる。それじゃ駄目だ。やるのはお前でなければ駄目なんだ――お前の意志が、運命を変える」
「言ってること滅茶苦茶だぞ……」
「だが事実だ。そもそも人間には初めから、運命を変える機能が備わっている。それができるようになっている。魔術だってその一環だ。《世界を変える》。初めからそれだけのものでしかない。別に精神論じゃなくな」
「つまり、なんだ。俺は自分の認識で教団の陰謀に気づいて、自分の意志で戦うことを決めて、自分の力で奴らを倒さないといけない――ってことか?」
「その通りだよ」とんでもないことを、当たり前のように言われてしまう。「それだけがただひとつ、《運命》の魔術を破る方法なんだ。そうなんだから仕方ねえだろ」
「ノーヒントとかマジかよ……破綻する可能性のほうが遥かに高かったってことじゃねえか」
「それでもお前は、この場所まで辿り着いた。それ自体がすでにもう、運命を変えている一環だ」
ああ、確かに。ならばこれは運命だったのかもしれない。
地球から遥か異世界に飛ばされ、そこで魔法使いを師匠に魔術を習い、やがて七星旅団の一員として実力を向上させた。その先で七曜教団を見つけて、それに対抗することを決めた。
なるほど誰かに誘導されたかのような人生だ。偶然と呼ぶにはできすぎている。
思えばあの珈琲屋は、そのことに気がついているかのような節があった。だから奴は、俺のことを嫌っていたのだろう。そう考えればアイツもアイツで、謎のある存在かもしれない。
「――腹が立ったか? だとしても無理はない。お前は、まるで世界そのものに誘導されたかのように教団の――魔法使いの敵に回った。俺はそれを知っていて、だからお前を弟子に取った。恨まれてもまあ、文句は言えねえ。そのせいでお前は、それまでの地球での人生を奪われ、こんなところで血を吐く羽目になったとも言えるんだ。正直、もし俺がお前の立場なら発狂してるよ」
「同情かよ」
「かもしれねえな。いや、本当のところは俺にだってわからねえ。だが結果だけ見るなら、お前は《教団を止める》という目的のために運命を変えられ、無理やりこの世界に呼び出されたようなものだ。本当なら別に存在したはずのお前の人生は、たったそれだけの理由で全て覆された。何もかもなかったことにされた。過ごすはずだった世界から切り離され、出会うはずだった人々を奪われ、誰も自分を知らない世界で生きて死ぬことを強要された。お前、世界でいちばん不幸かもな。平穏に生きる権利を、お前は奪われたんだからよ」
「馬鹿言うなよ」俺は首を振る。「下らねえ同情すんな。お前それでもアーサー=クリスファウストかよ。だとしたところで知ったことか。言っただろ、俺は俺の意志で決めたんだ。別に誘導されたからじゃない。運命なんざ知ったことじゃない。俺は幸運だ。幸せだよ。これ以上ない人生だ」
「馬鹿め」
「うるせえ」
正直、思うところが何もなかったと言えば嘘になる。
俺がこの世界を訪れず、あのまま地球で生きていたらという《もしも》を、思わなかったわけではない。
何度も死ぬような目に遭った。実際、死にかけた回数など数えきれない。俺はこの世界を自力で生きるにはあまりにも弱くて、だから手の届かないものがいくつもあった。
それでも。だとしても――得られたものがなかったわけじゃない。
俺はそれを否定しない。できるはずがない。仮に過去に戻って地球で過ごす人生を選べる権利を与えられても、俺はそれを使わない。何回だってこの運命を選ぶ。
そうできることは、きっと、幸運なことだと思うから。
「つか、何? 別にそう決まったわけでもないし。たまたま都合がよかっただけだろ。運命かどうかなんて、それこそ一番目にもわかんねえよ、きっと。俺がいなきゃ、俺以外の誰かがやったかもしんねーし。それがたまたま俺だったのは、むしろ喜ぶことなんじゃねーの。権利を奪われたとは思わない。むしろ貰ったんだ、俺は」
「……そうか」
「だいたい、仮にそうなら、一番目はとっくに俺を殺しに来てないとおかしいだろ。それ自体が、一番目にとって俺が障害になると決まってたわけじゃないって証明じゃねえの?」
「それは違え」と、アーサーは首を振った。「一番目はお前を殺さないよ。本当に敵対しない限りはな」
「いや、だからしてるだろ」
「もっと決定的になるまでってことだ。だって、それが奴にとって世界を救うってことなんだから」
「…………」
「そう。奴は世界を救おうとしているわけだ。滅びの決まったこの世界をな。言っただろ、《人間はもともと運命を変えられる》と。だけど、その能力を本当に使える奴は限られる。奴もまたかつては自力で運命を変え、世界を救い出した男だ。――それができる人間を、奴が殺すはずねえんだよ」
「……それだけ聞くと正義の味方なんだけどなあ」
「逆を言えば、運命を変えられない、流されるだけで変える意思のない人間は、奴にとって生きていても仕方のない人間ということだ。この世界を救うためだったら、そんな連中はいくら犠牲にしたって構わないってわけだ」
アーサーは決定的なことを言わない。告げないようにしているのだろう。運命の魔法使いを相手にするためには、それに俺が自力で気がつかないといけないから。
教団は――運命の魔法使いは、世界を救おうとしているという。
理屈のほどは定かではないにせよ、この世界がいずれ滅んでしまうことは確からしい。教授の見立てでもそれは事実らしかったし、思い返せば一番目はかつて《勇者》と呼ばれた男だ。一度、彼は本当に世界を救っている――と、少なくとも伝説に語られている。
その詳しい内容はやはり判然としない。それを知っている人間も、この時代にはもはや本人以外にいないだろう。だが少なくともそれは事実らしく、つまるところ《世界が滅ぶこと》と、《それを一番目が救える》ことが確からしいことはある。
だが、それだけならアーサーが敵対する理由がない。
教団だってそうだ。いちいち面倒な干渉をしてくるからアレなだけで、ただ世界を救うというだけならこちらから手を出す理由なんてないはずだった。
だから――まだ何かある。それ以外の何かが。
実を言うと推測はできている。ただまあ、それはこの際、もうあまり関係がないことだ。
教団は、俺にとって、越えてはならない一線を越えた敵だ。何をしようとしているかなんて、はっきり言ってどうでもいい。俺はもう、仮にそれで世界が滅ぼうと、教団を倒すと決めている。
隣に座るアイリスの頭に、俺は軽く手を乗せた。
わふ、と小さくアイリスが言う。可愛らしい義妹。その未来を奪った教団を、俺が許す理由はないだろう。
「俺は奴らを絶対に認めない。やらかしたことの責任は絶対に取らせる」
「――だから。そういうところが、僕は何より気に入らなかったんだ」
※
その声は俺の目の前から聞こえた。だが、口にしたのはアーサーじゃない。
気配などなかった。いや、俺は知っていたはずだ。これまで何度なく、気配を隠して俺の前に現れた男を。
それでも驚愕したのは、俺はそれだけ強く警戒していたからだ。もう何度も奇襲を受けた。だから俺は細心の注意を払って、奴の隠形を見破る魔術を講じていた。
何よりこの場にはアーサーが――《時間》の魔法使いがいる。いくら奴だろうと、時間さえ操るその男から逃れられるとは考えていなかった。ましてこの場所に侵入してこられるはずがないと。
それが誤りであることを。
俺は、目の前で心臓を貫かれたアーサーを見て気づかされたのだ。
「――契約違反でしょう、これは」
なんの前触れも、一切の前兆もなく。いきなりアーサーの背後に現れた男が、アーサーに向けてそう告げる。
七曜教団幹部。《木星》――アルベル=ボルドゥック。
アルベルの左腕は、背後から椅子ごとアーサーの胸を貫いている。背中から胸まで貫通した、その手の先には赤い心臓が握られていた。抉り取られてなお、まだ脈動しているそれが。
「あ? ありゃ本体に課せられた縛りだろうが。分体の俺には関係ねえよ」
それでも。その状態でなお、当たり前のようにアーサーは喋る。
それが魔術というより、単にアーサーの強靭すぎる意志によるものであることは俺にもわかった。口角から血の泡を吹き出すアーサーは、もう間違いなくこのまま死ぬ。たとえ分身であろうと、それはひとつの命なのに。
「つか俺はお前らの仲間になったつもり、欠片もねえのさ正義の味方」
「……屁理屈を」
憎々しげに呟くアルベル。アーサーはその一切を無視した。
心臓を失った状態でこうも平然に喋るのだから、本当にすさまじい師匠だ。だから俺は、その言葉を静かに聞く。
「アスタ。その嬢ちゃん、どうにかする方法ならマイアが知ってる」
「……わかった」
「次に会うときは俺も本体だ。つまり一番目の野郎に従わされている俺だ――わかるな?」
「ああ」
「俺はきっと、お前を殺しに行かなきゃなんねえ。だからアスタ、迷うなよ――」
瞬間。アルベルが、アーサーの心臓を握り潰した。
鮮血が周囲に飛び散っていく。それが影響したのだろうか、アーサーがついに力を失う。
最後にひとつ、分体としての遺言を置いて。師の、肉体のひとつが逝く。
「――俺は、お前が殺せ」
また段々と一話が長くなってきた……。




