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EX-2『アスタとシグウェルの二年目 2』

 ――つーん。

 とばかりに唇を尖らせ、頬を膨らませたキュオと連れ立って、アスタは町の中心部まで訪れていた。

 なんということはない地方の田舎町。それでもこの辺りではいちばん栄えた交流の中心。

 旅に出たアーサーが持っていた隠れ家のひとつが、この近隣にあったのだ。アスタと、そしてマイア、シグ、キュオの三人で、今はその場所を拠点にしている。四人で暮らすにも広い程度の敷地がある隠れ家だった。


「まったくもう。まったくもうだよ、アスタは本当にもー」

「いや……あのだから、悪かったって。いきなりで予想外だったんだよ、面食らっても仕方ないだろ?」

「えーえーわかってますぅ。わたしとデートなんて考えもしてませんよねー、わかってますー」

「いや、あの、ね? それはほら、……ね?」

「アスタのばーか」

「…………」

「へんたーい。ひぎゃくしこー。ちをはくのがすきー」

「それは風評被害だ!!」

「むぅ。まあいいや、許してあげよう」


 アスタをからかっているうちに、割とあっさりキュオは機嫌を取り戻した。

 ちょろい、というよりまあ、身内にはもともと甘いのだ。あとは単純に目的として、アスタをからかいたかっただけだからだろう。


「せっかく久々に、狼狽えるアスタが見れると思ったのになー」

 放言するキュオだった。アスタ自身、それはわかっていたのだが。

「……そんな目的でデートに誘われてもな。俺だって、いつまでも子どもみたいな反応ばっかじゃないぞ」

 なにせマイアとシグは強い。

 ということは必然、キュオの代名詞と言ってもいい回復魔術を受けるのは、基本的にアスタということになる。

 そして回復魔術はその性質上、術をかける相手に手を触れていなければ使えない。

 言い換えればボディタッチが起きるということだ。

 怪我のたびにキュオの手が触れて、アスタは初めかなりどぎまぎしていた。年齢的には中学生だったし、だから当然とまでは言わないにせよ、アスタに誰かと付き合ったとか、そんな経験はなかった。というか初恋さえ地球で経験してはいない。

 逆に女の子が相手だと緊張して喋れないなんてこともなかったが、かといってこうボディタッチはほらちょっと違うっていうかハードル高かったじゃないですかねえ? なんて思っていたのである。

 一方のキュオは、その辺り男よりも成熟が早かったのだろう、緊張なんてまったくしない。むしろ緊張するアスタを見るや否や、からかう姿勢に切り替えていた。


 それに慣れるのに、とはいえ時間はかからなかった。

 アスタ自身、もちろん異世界に来てからの経験もあってだろうが、精神の成熟は地球の一般的なそれより早い。

 キュオとは合流以来、最も長い時間をともに過ごした。歳が近いこともあった。互いの性格や相性も影響はしただろう。

 それ以外にもさまざまな要因がありながら、とりあえず、キュオの悪戯には慣れたのである。

 慣れたと思っていたのである。


「…………」


 実際のところ、アスタが「は?」なんてアレな反応をしてしまったのは、やはり緊張があったからなのだが。

 いくら割り切ったとはいえ、相手は同年代の女の子。それも優しくて明るい性格の、いつだってすぐに傷を治してくれる、加えて言えばとびきりの美少女だ。意識しないわけがなかった。

 それを悟られたくないとアスタが思うのは、からかわれるのが恥ずかしいとか、魔術師がそんなことを意識するものじゃないとか、精神的に大人になったから――なんて後付けの理由より、単にプライドが大きい。

 男のプライドというよりは、子どもの見栄と言うべきなのかもしれないが。

 だから、


「んー、ざんねん。狼狽えるアスタ、可愛くて好きなんだけどな、わたし」


 そんなことを言われてしまうと、どんな反応をすればいいのかわからなくなってしまう。


「やっぱり小悪魔だよな、お前……」

「だから小悪魔ってなんなのさ」


 アスタ=プレイアス。異世界二年目。

 思春期真っ盛りであった。


 ともあれまあ、そんな会話を交わしながら街を歩くふたり。デートと言うより、それこそ双子のきょうだいと散歩しているようなものだ。

 とりあえず、いい時間だしふたりで昼食でも取ろうか、という話になった。

 適当な店を見つけて入る。適当なメニューを注文し、ふたりで食事を済ませて終わった。それくらいだ。

 どちらが代金を持つかで下らない諍いが起きたことは特記するが、それとて結局、自分の分は自分でという結論に落ち着いた。


「デートなんだろ? 男のほうに持たせろって」

「えー。そういう格好つけは、わたしあんまり好きじゃない。誘ったのはわたしなんだから、わたしが払うのが筋だと思う」

「こういうときは格好つけるものなんだよ。俺だって最近は少しだけど冒険者の仕事もやってるんだ。収入はあるんだぜ?」

「アスタががんばって働いて稼いだんだから、もっと自分のために使うべきだと思う」

「そんな大した額じゃねえよ」

「だったらなおさらじゃん」

「いやいや、男が甲斐性を見せる隙を与えるのも女の仕事だって」

「何それ、誰が言ってたの?」

「マイア」

「マイアは単に奢られて食べるのが好きなだけでしょ、別に男女問わず」

「……それはそうだけど」


 などという会話を、十五歳前後の男女が客足の多い食堂で交わしていたものだから、注目を集めてしまったのは仕方あるまい。

 見守るような温かい視線から逃れるよう、ふたりはそそくさと自分の分を払って店を出た。



     ※



「なんかめっちゃ恥かいたんですけど」

「うん……わたしもさすがに恥ずかしかったな」


 耳を少し赤らめながら、ふたりは街の目抜き通りを歩いていた。

 せっかく町まで出てきたのだし――アーサーの隠れ家はここから少し遠い――どうせだから、このまま通りを冷やかしていこうという考えだ。

 ちょっと逃げ帰りたい気持ちもあったのだが、それはそれで恥ずかしいというか嫌なのでこのまま、と。その辺り揃って思春期だった。


「にしても……なんか、ちょっと新鮮な気分だわ」


 昼下がりの街を散策しながら、アスタはそんな風に呟く。

 隣を歩くキュオは首を傾げ、その意をアスタに問うた。


「うん? どういうこと?」

「いや……こんな風に何も考えず、平和に街を歩くなんて久々だな、と思って」

「……そっか」


 呟くキュオの髪を、通りを吹き抜けた風が軽く撫ぜる。

 その行き先をなんとなく目で追うように、空を見上げてキュオは言った。

 街の真ん中を歩いているのに、なぜだろう、その喧騒がなんとなく遠くに感じられた。


「遠いとこから来たんだったもんね、アスタは」


 キュオはアスタの過去を――彼が異世界から来たという事実を正確には知らない。

 なんとなく察してはいるのだろうが、それを明言したことは一度もなかった。アーサーに言われて隠しているわけじゃなく、なんとなく言う気にならないというだけだ。

 つまらない感傷なのかもしれないけど、とアスタは思う。

 きっと、否定したくなかったのだ。どこから来て、どこへ行くのかなんて関係ない。どんな過去があっても、この世界でキュオに出会い、ここでともに暮らしている現在いまを否定することはしたくなかった。

 そもそも魔術師は基本的に、自らの過去を滅多に語らないものだ。

 だからマイアもシグも、キュオだって、実のところどんな過去を持っているのかアスタはほとんど知らなかった。

 三人は異世界人ではない。アスタと違ってこの世界で生まれ、この世界で過ごしてきた人間だ。年齢にすればまだ若い彼女たちが――特にキュオが、この歳で親元を離れ冒険者として過ごしている事情など、軽々に訊くことはできなかった。


 訊ねれば、きっとキュオは答えてくれるだろう。おそらくマイアとシグも同じだ。

 アスタだって、問われれば自分の事情を答えるだろう。今や三人は、アスタにとって家族なのだから。

 本当に義弟になったマイアだけじゃない。シグもキュオも含めてそうだ。そんな三人に対し、閉ざす言葉をアスタは持ちたくなかった。

 同時に喋ることを恐れる自分がいても、それを矛盾だとは思わない。

 結局のところ、アスタは繋がりが断たれることを恐れているだけなのだから。身寄りのない世界で、それでも手に入れた絆を、温もりを、手放すことを恐れている。

 あるいはそれが依存だとしても。

 この世界では、それが簡単に失われるものだと知っている以上。


「――……ん?」


 通りの先が、ほかより少し騒がしいことに気がついたのはそのときだった。

 まるで道を塞ぐように、人だかりができているのが見える。アスタは首を傾げて、


「なあ、キュオ? なんだろな、あ――」

「――アスタこっち!」

「れ、お……うおいっ!?」


 服の裾を急に引っ張られ、思わずアスタはたたらを踏む。

 存外に強い腕力で、キュオはなぜかアスタを通りの脇へと引っ張っていた。アスタは逆らえず、そのまま裏道のほうへと入っていってしまう。

 キュオは何も言わずに、ずんずんと裏通りを進んでいった。さきほどの人だかりを迂回して、その横側から通りに戻る道を選んで。


「……?」


 首を傾げたまま、アスタは引っ張られるがままにキュオの後ろへついて行く。

 そのまま裏から通りに戻ったキュオは、そこでなぜか身を隠すように屈み込むと、アスタに手招きをした。屈め、という意味だろう。

 わけがわからないまま従うアスタ。そのときには、キュオの視線は通りの人だかりに向いている。

 ようやく落ち着いて、アスタは訊ねた。


「何してん……? つか、急にどうしたんだ、キュオ?」

「しーっ」キュオは言った。「聞こえなくなっちゃう」

「…………」

 かなり釈然としないながらも、キュオに従い耳を澄ませるアスタ。

 通りを埋める人だかりから、こんな言葉が届いてきた。


「――どうやら生きてはいるみたいだね。ひとまずよかったよ」

「しかし、こんな真っ昼間から通りで寝てるなんて、いったいどうしたんだろうね? 酒か?」

「いや、酒精アルコールの匂いはしてないね」

「……というかこの人、さっきから物凄い勢いで腹を鳴らしているわけだが」

「うん。……ああ、じゃあ、やっぱり?」

「そうだな」

「ああ」

「……行き倒れだろ」


 以上である。

 そんな言葉がはっきりしっかりふたりの耳に届いた。

 嫌な予感しかしなかった。


「……なあ。俺、そこにいるのが誰かわかる気がするんだけど?」

「奇遇だねアスタ。わたしもわかる気がするよ」

「やっぱりか」

「うん。……せーので言ってみる?」

「いいぜ」

「じゃ、せーの」


 ――シグ。

 という名前を、ふたりが同時に言ったことは、書くまでもないだろう。


「……いやいやいやいや。何してんだよ、あの男はさあ!」

 アスタは頭を抱えて小声で呻いた。小声になってしまったのは、なんとなくだということにする。

 一方のキュオは、こちらはもう諦めたような表情で軽く苦笑して言う。

「まあ、シグだからねえ……。あれはもう芸の域だよ、行き倒れ芸」

「行き倒れ芸て」アスタは突っ込みからキレを失っている。「俺もう三度目だぞ、シグが空腹でぶっ倒れるの見るのは!」

「わたしはもう数えてないよ」

「そんなにやってんの!? アイツこの前、『大丈夫だ三度目はない心配するな』ってキリっとした顔で言ったぞ!? あれ二回目じゃなかったのかよ……」

「だいたい半年に一回はやるよ」

「言っていいかな!?」

「いいよ」

「馬鹿じゃないのアイツ!!」

 吠えるアスタだった。普通は誰もがそう思うだろう。

 半年に一回行き倒れておいて、むしろ今までよく生きてこられたものだ。

 そろそろ学習してほしい。アスタは心底からそう思った。

 さきほどキュオには断られたが、これまでの二回、アスタはシグに食事を奢っている。いったい何をしているのだという話である。


「――いや。仕方ないんだよ」


 だがキュオはむしろシグの肩を持った。

 意外に思って目を見開くアスタに、


「シグはさ、燃費が悪いから食事が多いんじゃないんだよね。むしろ燃費がよすぎる(丶丶丶丶)んだよ」

「……どういうこと?」

「魔術の……魔力の話なんだけどね」とキュオ。「シグは魔術が下手すぎて、まともに使えるのが《魔弾》だけなのは知ってるよね?」

「ああ。まあ、その魔弾が強すぎるからおかしいんだけど」


 身体能力の強化といった魔力運用を除いて、もっとも単純なふたつの魔術が《魔弾》と《障壁》の二種類だ。

 魔力を固めて球体を作り、それを撃ち出すことによってダメージを与える最も単純な攻撃魔術、魔弾。障壁も同じで、魔力そのものを固めて目の前に壁を作るだけ。動かすか、固定するか。実のところ違いはその程度だ。

 術式さえほとんど必要としない、魔弾。

 それを、もはや破壊光線ビームのレベルで高速連発するのがシグという魔術師の戦い方である。


「シグの場合、魔弾以外の才能がないのはそうなんだけど、それ以上にあまりにも《魔弾》の才能を持ちすぎてるからね。で、アスタも知ってると思うんだけど、基本的に適性のある魔術は、魔力の消費が少なくて済む」

印刻ルーン以外使えないからあんま実感ないけど、まあそう聞くな」


 魔力の消費量は当然、魔術の規模によって変わる。

 同じ魔弾でも、より多くの魔力を消費するほうが速く、鋭く、硬く強い魔弾を放つことができる。あるいは魔弾を不可視にしたり、軌道を制御して誘導弾にしたりと、特別な効果を持たせることも可能だろう。

 ただ同じ魔術を使うにも、適性と技術によって消費する魔力の量は変わる。

 AとB、ふたりの魔術師がまったく同じ速度、大きさ、威力の魔弾を使ったとしても、より適性と技術を持つ魔術師のほうが魔力消費は少なくて済むということだ。

 魔弾とて、魔術である以上は《魔力による世界法則の改変》であることに変わりはない。だからより才能を持つほうが魔力インクの書き損じが少ない、とでも考えればいいだろう。その無駄を、どれだけなくせるかが魔術の腕前ということだ。


「シグに至っては、もはやそれ以上だよね。消費する魔力が魔術の規模に見合ってないくらい、あまりにも燃費がよすぎる。はっきり言うけど、もし抵抗がないっていう前提なら、この町の建物全部を壊しつくしたところで、全体の一割も魔力を使わないと思うよ。もともとの魔力量もかなり多いしね」

「改めて聞くと怪物だよな、あの男」

「うん。でもそれって言い換えれば、魔力という毒を体外に放出するのが下手って意味でもあるんだよね」

「…………」

「魔力はある程度、外に放出しておかないと体内で淀む(丶丶)。でも魔弾しか使えないシグは魔弾でしか魔力を消費できないのに、その魔弾があまりにも燃費がよすぎるせいでほとんど消費できてない。――シグが大量に食事を食べるのはね、まあ本人が普通に大食いってのあるんだけど、魔力をわざわざ《代謝の向上》に使ってるからなんだよ。それも身体能力の強化の一種だし、それでも一応、魔力は使われるわけだからね」

「それであんなに大食いなのか……その割に痩せてるのも」

「普通はそんなことしないし、意味ないんだけどね。代謝を上げるってことはほかの場所にもいろいろ影響が出ちゃうわけで、それを均すために関係ない器官まで魔力で強くしてる。贅沢な魔力の無駄遣いだよ」

「……難儀だな、シグも」

「ま、それでも足りないときはこうして、街中でぶっ倒れちゃうわけなんだけどね。シグ、あれで意外と体内魔力の制御は上手いんだけど。たまに魔弾をぶっ放しまくるためだけに、ひと気のない迷宮に入ったりするんだよ」


 それはもはや魔術の才能というより、生物としての欠陥と言うべきだ。

 体内で毒が生成され、それは放出しない限り自らを冒す。にもかかわらず放出の方法が限られており、結果として行き倒れる。

 ――戦って、戦い続けて終わったら死ね。

 生まれ落ちた瞬間から、そう定められているようなものだった。


「行き倒れてる振りをして、通りがかりの誰かに食事をたかってるわけじゃなかったんだな」

「そんなこと考えてたの、アスタ」

 冗談めかして呟いたアスタに、キュオも苦笑で答える。

 そうすることでしか流せないような重さが、今の話は込められていた。

「しっかしまあ、今日倒れてるのは予想外だったよ」キュオは言う。「本当はね、デートにかこつけてシグのあとでも追おうかと思ってたんだけど」

「それで隠れたのか……」アスタは苦笑した。「てか、なんでそんなこと?」

「……え、えと。アスタ、ほら、シグに勝ちたいって言ってたから」

「うん……?」

「シグのあとを追って、こう、なんだろ。シグの強さの秘密を握ろうぜ? みたいな……?」

「――――」

 要するに。よくはわからなかったけれど。

 気を使われたということらしい。アスタは軽く頭を掻く。


「……ありがとな、キュオ」

 顔を背けてそんなことを言ったアスタに、キュオは柔らかく笑みをみえた。

「なんのことか、わかんないけど。……でも、どういたしましてっ」

「……ああもう! ほら、さっさとシグ回収しようぜ。メシ奢ってやりゃ治るんだろ?」

「そうだね。……ていうかシグ、てっきり食事に出てきたと思ったんだけど。財布とか忘れたのかな?」

「アイツ、普通に抜けてることは抜けてるよな……、……あ、れ?」


 そのときだった。ようやく通りのほうに目を向けたアスタは気づく。

 隣のキュオに、そちらは見ずに問いかける。


「……ところでキュオ」

「ん?」

「いや……シグ、どこ行ったん?」

「え」


 気がつけば。通りの人だかりは散会しており、シグがその場から消えていた。

 キュオは目を丸くしてアスタを見る。アスタもまた視線をキュオに戻し、ふたりの瞳が数秒だけ交錯した。

 慌ててキュオが通りに出ていく。アスタもそのあとを追った。

 キュオは通りの人をひとり捕まえて、問う。


「あ、あの、すみません! ここで倒れてたヒト、どこに行ったか知りませんか?」

「うん? ああ、それならなんか知り合いだって人が連れてったぞ」

「知り合い、って」

 この街に、果たしてシグの知り合いなどいるだろうか。

 マイアくらいしか思い浮かばないが、彼女は今、別の街に出てしまっている。

「どんな人でしたか? あと、どこに行ったかわかります?」

「さあ……ガラの悪い兄ちゃんたちだったし、たぶん冒険者とかじゃねえのかと思うが」

「冒険者……?」

「そういや、なぜか管理局のほうじゃなく、街の外のほうに出てったな。ようやく見つけたとか言ってたし、メシでもおごってやるんじゃないのか?」

「……ありがとうございます」

 礼を言って頭を下げ、キュオはぎこちない挙動でアスタのほうへ振り向いた。

 なんだか微妙な表情をして彼女は言う。


「……どう思う?」

「どうも何も。言葉通りじゃないの? 知り合いの冒険者に連れられて食事に行った」

「管理局なら食事くらい出るでしょ。街の外行ったって言ってたよ」

「……なんかいい店知ってるんじゃないのか? 外のほうに行ったって聞いただけで、外に行ったとまでは言ってない」

「こんな田舎町の食事屋は、ほとんどこの辺にしかないよ。管理局があるって言ったって、小さい迷宮があるだけのとこだよ?」

「……じゃあこの町の人がたまたま知り合いで、家にシグを連れてったとか」

「シグの食べる量を知ってて? しかも、ガラの悪い兄ちゃん『たち』って言ってたんだよ? 冒険者だし、恨みを買っててもおかしくないと思うんだけど」

「…………」

「…………」

「改めて聞くけど、どう思う?」

 キュオが再び訊ねる。

 アスタは、違う答えを返した。


「――攫われたんじゃないかな」

「じゃあ助けないと駄目じゃんか、もうっ!」

「助けるってどっちを」

「シグに手を出そうとしてるほう!」


 そういうことになった。

Q.シグは?

A.もうデート回ってことでいいんじゃないですかねラブコメラブコメ。

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