EX-1『アスタとマイアの一年目 4』
「……よし。少し落ち着いて、冷静になってきたぞーう」
とアスタは言った。冷静なら絶対に言わない言葉だった。
――待て待て、落ち着け。よく考えろ。
自らにそう言い聞かせ、改めてアスタは周囲の様子を確認する。
といっても別段、何か新しい発見があったわけじゃない。待っていてもマイアやシグが戻ってくる様子はないし、本格的に分断されたのだという事実が再確認されただけだった。
「……マズくないか、これ」
ひとりで逃げ帰ることは、退路が断たれた以上できない。そもそも、なんらかの罠に嵌められたらしいふたりを、見捨てて帰る選択肢がない。
一刻も早く合流し、この迷宮から脱出する。
今、アスタが目指すべきはそれだ。そのことはとりあえず確認できた。
問題は、ではそのために何をするべきか、ということだろう。
感情論を抜きに冷静に考えた場合、いちばんの策はこの場で留まっていることだろう、とアスタは思う。
今のアスタは、魔術らしい魔術を一切使えない。魔力による身体能力や感覚の強化くらいは可能だが、肉体に魔力を通すだけのそれを魔術とは普通呼ばなかった。
要するに足手纏いでしかないわけだ。
どうやら捕らえられたらしいマイアとシグを助けに行くより、ふたりが自力で脱出してくるのを待つほうがいいような気がしていた。マイアがかけていた保険――アスタがつけているブローチのお陰で、彼女たちにはこちらの居場所がわかる。だがアスタには、ふたりがどこに消えたのかを探し出す能力はまったくなかった。無闇に動く意味がない。
――重ねて、さらに問題は。
あのふたりが、本当に自力で窮地を脱してきてくれるか、という点だ。
アスタには迷宮をぱっと見ただけで、その危険性を判別できるような経験が当然ない。そもそもシグはもちろん、マイアが冒険者としてどの程度
強いのかさえ、アスタはいまいちわかっていなかった。
彼女たちが独力で、ここまで戻ってきてくれるという確証が持てないのだ。
これは、彼が異世界に来てから出会った魔術師が、アーサーやマイア、つけ加えてもレファクールなどといった、異世界最上位層の才能を持った者だけだった、というのが大きいところだ。それが基準になってしまっているアスタには、実際のところ、彼らが相対的にどの程度の実力者なのかということがわからない。
《魔法使い》の称号と魔術の実力には必ずしも相関関係がないと聞いていたこともあって、もしかすると、この世界には彼らよりずっと強い魔術師や魔物がたくさんいるんじゃないか――なんて考えてしまうのだ。
水の町の、湖の底で見た魔竜――これまた人間では敵うはずもない幻獣だ――が、アスタの持つ強い魔物のイメージの基準になってしまっていることも影響している。
異世界に来て早々、世界最強クラスの実力者にばかり会うわけがない、という先入観もあった。
そう考えるほうが、むしろ自然なのだから。
要するに、アスタの持つ魔術師の認識は、実際のそれと大きく乖離してしまっている。
もちろんパンは例外だ。彼と同い年くらいの子どもであり、強さの基準に当て嵌めて考えることをアスタはしていない。
――何より。
彼女は、命を落としてしまったのだから。
「…………っ」
じくじくとした疼痛が心臓を犯す。頭がぼうっとしてきたようだ。
アスタは咄嗟に、魔力を勢いよく体内で循環させた。
瘴気に汚染されかかっていたのだ。
一流の冒険者なら呼吸と同じくらい簡単にできる瘴気への対策すら、今のアスタでは満足にこなせない。
――魔術の完成度は精神状態に大きく左右される。
その所以だった。弱った心では、出来の悪い魔術しか使えない。
「……探しに行くか」
しばらく考えてから、アスタはそう結論づけた。
実際には、そう長い間考え込んでいたわけではない。せいぜい三十秒かそこらだろう。それでも、たったそれだけの時間に焦りを感じた。
衝撃のあまり見逃してしまっていたが、マイアはともかく、シグはただいなくなったわけじゃない。何かに捕らえられたのだ。それが一刻一秒を争う事態でないとどうして言える。
――もうごめんだ。二度と、誰かが死ぬところなんて見たくない。
力がないことなんてわかっている。この世界で我を通すには、何もかもが足りていない。そんなことは百も承知だった。
それでも――もう、これ以上は堪えられない。抱えきることなんてできない。
アスタにとって、パンの死は、自覚を遙かに越えて重い陰を落としていたのだろう。心的外傷になっていたのだろう。
あるいは、どう足掻いても彼女を助けられなかった、自分の無力さに嫌気がさしているのかもしれない。無力を嘆き、無知に苦しむ、そんな自分を心から嫌っているのかもしれない。
いずれにせよ、アスタを動かした動機はただひとつ。
――もう、堪えられないから。
所詮はただのガキ。それも平和で満たされた、隣に転がる命の危険を誰もが無視していられるような――そんな、幸せな世界で生きていた子どもなのだから。
それが悪いわけではない。むしろ尊ばれて然るべきだと言える。
ただ、そんな子どもが容赦も情けもない異世界にいきなり放り出されたとき、そのままでいられるわけがなかった。
変わらなければ、死ぬだけだ。
「……?」
と、そのとき。アスタの背後から何か物音が聞こえた。
ずしん、と重く響くような音だ。とはいえ先ほどの壁の回転と異なり、地響きまでは伴っていない。
シグが消えてしまった方向から視線を戻して、アスタは部屋の中央辺りを見る。
そして、見た瞬間に絶句した。
「…………」
結論から言えば、ふたりを探しに行こう、というアスタの決意にはあまり意味がなかった。そんな覚悟とはまったく別のところで、この場に留まることのほうが不可能になったのだから。
いつの間にだろう。部屋の中央に、一体の魔物が立っていた。
巨躯の魔物。巨大な四足獣のカタチを取るそれは、たとえるなら獰猛な肉食動物――百獣の王と呼ばれる獅子に似ている。
ただし、その体高はアスタの身長を優に超えている。
ほとんど裂けたかのような口角から覗く、鋭すぎる牙が恐ろしい。人間など簡単に噛み砕くことが、なんの知識もなくとも知れた。さらに言えば畳まれた翼らしきモノが背中から生えているが、その辺りはもうどうだっていいだろう。
そんなモノがなくたって、バケモノであることに変わりはない。
「い――な、ど、こから……!?」
目を剥くアスタ。隠れ潜むような場所は見当たらないし、階段を通ってこれる図体でもあるまい。翼なんていったいなんに使うのか。
不条理を塗り固め、具現化させたかのような脅威。
その感情を一切感じさせない視線が、ふと、アスタのそれと交錯した、
「……っ!」
瞬間にアスタは駆け出した。逃げること以外の全てを捨てた。
――まずい。あれは……駄目だ。
本能がそう悟った。ちょっと魔術をかじった程度で、相手にしていい領域にない。アレは、そういう――いわば真性の怪物だ。
もはや悠長に考えている暇などなく、アスタは手近な階段へと飛び込んでいく。罠がなんだとか、現在位置がどうだとか、そんなことは一切考えずに、いっそ不用意と言っていいまでに形振り構わず階段を駆け上がる。
踊り場で折り返し、さらに走る。
その時点で怪物が追ってきていないことは――そもそも追ってこられる体格ではなかったが――察していた。察していたが、足が止まることはなかった。
それほどの恐怖だった。それほどの恐怖に襲われてなお、足が竦まなかったことは奇跡と言っていいかもしれない。
見も蓋もない表現をするのなら、水の町での経験が、少なくとも窮地に足を止めさせない、恐怖に身を竦ませないだけの力をアスタに与えていたのだろう。
そうでもなければ死ぬことを、アスタに学ばせていたのだろう。
結果的に、アスタは逃げ切ることに成功した。
二階を通り越し、三階まで足を踏み入れたことは、この際どうでもいいことだろう。その間、アスタは呼吸さえ忘れていたのだから。
怪物はアスタを追ってきていない。
「……」
いや、今から思い返せば、果たしてアスタを認識していたのかどうか。それこそ言葉通りの意味で、路傍の石程度にしか思っていなかったのではないか。そう考えてしまう。
仮にアレが本当にアスタを殺す気だったなら、逃げ切ることなんて到底適わなかったろう。いや、そもそもアレが本気だったなら、アスタが気づいて逃げ出す暇さえなかったはずだ――。
「……、なんか違和感あんな」
ふとした思いつきに、そう呟く。逃走劇を遂げ、ひとまずの安堵を得たアスタは、その影響からだろう。本当に冷静さを取り戻していた。
――魔物は、人類種を害するためだけに存在する殺戮機構。
アスタはそう聞いていた。だが先ほどの怪物は、どうもアスタを殺そうとしていたようには思えないのだ。
「……くそ、どうなってんだ……マイアとシグはいなくなるわ、妙な怪物に行き遭うわ……なんでこんなとこ、ろ、に……?」
何か、細い光の筋に似たものが脳裏をよぎった。
それが閃きの糸口ならば、決して手放すわけにはいかない。言葉を止めて頭を動かし、アスタは思索に潜っていく。
――マイアは確か、この迷宮を調査していた、と言った。
それにはシグも同行していたのだろう。この場で待ち合わせていたというより、シグをこの場に待たせていた、というほうがしっくりくる。合流したときの会話は、そんな感じだった。
ならば。どうしてあのふたりが、ああもあっさり罠に落ちる?
知らなかったのだろうか。あんな入口近くの調査さえ、彼らはしていなかったというのだろうか。いや、そんなことは考えられない。
そう考えてみれば、得心のいくことがもうひとつある。
迷宮に入る直前、マイアから渡された魔具だ。
シグのことは措くとしても、アスタはマイアの実力を、ある程度は知っている。水の町で魔竜に襲われたとき、窮地を救ったのはマイアの作った魔具だった。そのあとだって、いくつかの作品を見せてもらっている。
それが、世間的にどの程度のレベルなのかは知らない。マイアが作る程度の魔具は、錬金魔術師なら誰でも作れるようなものなのかもしれない。
――だとしても。
手渡されたこのブローチは、マイアが作ったにしてはあまりに効果が低すぎる。もっとずっと、驚くような効果を持った魔具を、マイアはこれまでいくつも作ってきた。
もちろん基準なんて知らない。つけている人間がどこにいるのかわかる魔具、というモノは、もしかすると途轍もなく作るのが難しい可能性もあるだろう。アスタは錬金魔術なんて使えないのだから。
けれど、ならもっと別の効果を持った魔具でよかったはずだ。それこそ武器として使えるような魔具を渡していてもよかった。初めからはぐれることが前提の魔具を作っておきながら、彼女は、はぐれたときの対処になる魔具を渡していない。
そう。この魔具は、マイアとはぐれることが前提なのだ。
「まさか……あいつら。俺の前から、わざと姿を消した……のか?」
アスタは身震いを覚える。あり得る。あの女なら、それくらいのことはやりかねない。
理由なんて、それこそいくらでも考えついた。
そもそもアスタの魔術が上手くいかないからということで連れ出されたのだ。マイアならば、「実戦で使えばなんとかなる」くらいのことは平気で言いかねない。ちょっとした荒療治、とかなんとか言いそうだ。
「…………」
アスタは目の前に視線をやった。今度はその気配に気づいていた。
魔物がいる。迷宮なのだから当たり前だが、目の前には、巨大な蛇のような姿の魔物が現れていた。
アスタは懐から煙草を取り出して、静かに身構える。
煙草の火を使って文字を書く、という発想はアスタ自身が思いついたものだった。煙草に年齢制限なんてない世界だ、持っていること自体は特別おかしいものじゃない。
アスタ自身は煙草なんて大して好きでもないし、美味しいと好む感覚が理解できないくらいだったが、これを筆記具として扱う、という考えには一考の余地があると思った。そのために持ち歩いている。吸う気にはならないのだが。
本当は実際に書くほうが効果は高いのだが、そんな余裕はないだろう。逆に指で軌跡をなぞるだけでもできないことはなかったが、その場合は効果が低すぎる。
取り出した煙草の先端に、アスタは指で《火》をなぞった。
それだけで、あっさりと煙草に火がともる。
実際に書いてさえ何度となく失敗していた魔術が、ただ指でなぞるだけで成功するのだから、なるほど追いつめられたほうがいいのかもしれないと、アスタは苦笑した。マイアの考えも間違ってはいない。
「――結局、そういうもんなのかもな」
呟き、アスタは煙草の先を魔物に向けて突きつける。
魔力の動きに警戒しているのか、魔物がわずかに身動ぎした。
それを無視して、アスタはこう宣言する。
「嵌められたみたいでなんか癪だけど……かかってこいよ。お前如きを倒せないようじゃ、どの道そこらで野垂れ死ぬ」
※
――実際のところ。
マイアたちは自ら姿を消したのではないか、というアスタの推測は、決して正しいとは言えなかった。
「……っと、シグまで捕まったかあ……」
「マイア」
さらわれた先。転移にさえ似た魔術で飛ばされたのは、この塔の地下に相当する空間だ。
そこでマイアとシグは合流する。ふたりとも、窮地自体は自力で対処できていた。
問題は、それが完全に予想外だったことのほうで。
「どう思う?」
「そう訊かれてもな」マイアの問いに、シグが首を振る。「早く戻らないとまずい、としか」
「だよね……参ったな。アスタを連れてくるべきじゃなかった。ちゃんと入口で待っててくれてるといいんだけど、なんか動いたっぽいしなあ」
確かにマイアは、アスタの想像したようなことは考えていた。
だが、やるとしてもこんな風にはやらなかっただろう。もっと安全を確保した状態で、なおかつそれをアスタには完全に気づかせないで、上手く運ぶことくらいマイアにならできた。
そうならなかったのは、この状況がまったくの想定外だからだ。
「前に来たときは、あんなトラップ絶対になかったのに……どうなってんだろ」
「さあな」こういうとき、シグはほとんど役に立たない。「それよりまずは帰り道を探すほうが先決だろう。いざとなれば――」
「シグの『いざとなれば』は聞きたくないな」マイアは首を振った。「保険はかけてあるから、大丈夫だとは思う……何よりアスタだし」
「……俺には」
と、シグが言葉を言い淀む。早口の彼には珍しい。
だが結局、言うことにしたのだろう。やはり早口で彼は訊ねた。
「あいつがお前の言うほどの存在には思えないんだがな。よくも悪くも普通というか。なぜ魔術師を志しているのかさえ疑問だ。これまでどこで何をしていたのかは知らないが普通に生きていくほうがいいだろう」
「――ま、その辺はね」
マイアは軽く頷いてて答えた。
シグは、アスタが異世界人であるという事実を知らない。それを知るのはマイアとアーサーだけだ。
「――でも、アスタは魔術師に向いてるとは思うよ。性格っていうか能力が、だけどね。というより、魔術師以外にはなれないと思う」
「…………」
「あの子はね、おかしいよ。絶対に普通じゃない。それはアスタが悪いわけじゃないけど、でもそうである以上は仕方ないんだ。魔術師しかなれないというか、魔術師にでもならなきゃ死ぬよ、あの子。遅かれ早かれ、間違いなく。――ねえ、シグ? あの子、指で《火》をなぞるだけで、火を出すことができるんだよ?」
「……それは」
「そう。あり得ないんだよ、そんなこと。ほかのどんな印刻魔術師にだってそんなことはできない、いや、できちゃいけないとさえ言える。だって、それはもう印刻魔術じゃない。私だってルーンなんて大して知らないけど、それでも、アスタが異常だってコトくらいはわかる。染色とか祈祷から始まって後始末まで、印刻魔術に本来必要な過程のほとんどを、すっ飛ばして結果だけ呼んできてる。ただ印刻とその解釈だけで魔術を成立させてる――そんなのもう、自分の認識だけで世界そのものを歪めてるのと変わらないよ。ひとつ踏み外せば、魔法使いの領域にさえ至りかねない」
「まあ。放ってはおけないな」
「それにね。そんな才能は自分だって殺す――シグならわかるでしょ? ほかでもない、《魔弾の海》なら」
「魔法使いが弟子にとった理由は、それか」
「アスタはこれから先、間違いなくいろんな騒動に巻き込まれる。あんな才能は、本人が望むも望まないも関係なく、そういうものを呼び込むからね」
「そうだな」
「今回だって同じだよ。はじめに来たときは何もなかったのに――二度目に来たら、言い換えればアスタと来たら、その途端にこの始末だもん。もちろん偶然かもしれないけどね。でも――それを運命と呼ぶ魔術師を、少なくとも私たちはひとり知っている」
「…………」
「そのとき、それを自力で覆せるだけの力がなければ、死ぬよ。アスタは、間違いなく。――いや、それとも逆かな」
マイアは、微笑むような表情を見せた。
それはけれど、なぜだろう。どこか悲しげな色があった。
「それだけの力を身につけていれば、どんな状況に陥ってもアスタは死なない。死なないし――死ねない。それが幸せか不幸かなんて、私が決めることじゃないけど。だったらせめて、選択肢だけは与えてあげないと」
「……甲斐甲斐しいことだな。気持ちはわかるが」
「似たようなもんだからね、私たちだって。なら私たちくらい、仲よくしてたって罰は当たらないと思うんだ――さて」
ぱん、とマイアは手を打った。
この話はここで終わり、とばかりの行為。シグはそれに逆らわない。
「どう、シグ? 上手くいきそう?」
「問題ない。この付近にいる魔物は全て、こちらに向かってくるだろう」
先ほどからずっと、シグは自らの魔力を可能な限り広く薄く、迷宮の中に流していた。本来ならそれは単なる魔力の無駄遣いで、はっきり言ってなんの意味もない。
だが。魔物は人間を殺す機構であり、つまり言い換えれば人間の魔力に反応して襲ってくる。
すなわち――魔物をおびき寄せる餌になるわけだ。
「まあ峻別できるわけじゃないからな、大物まで纏めて誘っているかもしれないが」
「望むところだよ。アスタのとこに向かわれるよりずっといい」
「きついぞ?」
シグは問う。迷宮での戦闘は、散発的であるからこそ息が続くのだ。
たとえ迷宮の魔物でも、連戦になれば消耗するし、回復する猶予だってなくなる。シグが行ったのは、それほど危険な行為だった。
「なんの問題もないね」だがマイアは笑う。「シグといっしょにいて、私にできなかったことなんてひとつもない。シグこそ平気? なんなら先に帰ってもいいけど」
「お前がやるなら俺もやるさ」シグは当たり前のように答えた。「今までずっとそうだった。これからもずっとそうだ。俺の理由は、お前が作ればそれでいい」
「そう言うと思ってたよ。さすがシグ、愛してるっ!」
「そうか」
「うーんこの淡泊さ、ぞくぞくするぅー」
下らない冗談を言い合って、マイアは笑い、シグは笑わない。
それがいつものことだったから。
だから構わない。今日もまた、いつも通りを続けるだけだ。
「――そんじゃ、まあ。つれない幼馴染みは放っておいて、弟を助けに行くとするぞーう!」
ぞーう。




