3-47『エピローグ/後の祭り』
魔競祭から七日間が過ぎた、ある休日。
ピトスは、セルエ=マテノから呼び出しを受け、彼女の研究室に向かった。
中に入ると、そこに待ち構えていたのはセルエだけではなかった。
「いらっしゃい。悪かったね、急に呼び出して」
「ウェリウスくん……?」
セルエの教室にはウェリウスがいた。ほかにシャル、そしてレヴィの姿もある。
首を傾げるピトスに、ウェリウスが微笑みでもって語る。
「ごめん。実は呼び出したのは僕なんだ。セルエ先生に場所を借りてね」
「えっと……何かあったんですか」
問いにはセルエが答えた。
「本当は、特に言い触らすつもりもなかったんだけど。ウェリウスくんがね」
「はい……?」
「ああ、ごめん。結論から言うね」
そしてピトスは知る。本人が黙っていた事実を。
「アスタは、昨日づけで学院を休学。今はオーステリアからいなくなってる」
「え、ええ……っ!? ど、どうして急に!」
当然、面食らった。だって、そんなこと聞いていない。
驚いているのはシャルも同じか。というより、知っていたのはウェリウスだけだろう。レヴィの表情は読めなかった。
「行き先は王都。目的は治療」
端的に言うセルエ。ただ事実だけを告げるように。
「本当は学院を辞めるつもりだって聞いたけど」
「はあ!?」
「うん。だからそれは私がやめさせた。まあ代わりに試合に出ることになったけど、その話はいいか。アスタの現状だけ言うね」
「……何かあったんですか」
セルエは、やはり表情を変えずに頷いた。
「呪いの進行速度が、ついに限度を超えたんだと思う」
「……まさか」
「そう。今、アスタは魔術が一切使えない」
言葉が出ない。いや、わかってはいたことだろう。
ついにそのときが来たというだけの話。驚くことではないのかもしれない。
正確には魔術が、というよりは魔力が使えない、外に出せないという状況か。単純な身体能力や反射速度を上げるくらいならばともかく、体外に魔力を放出しなければならない魔術は一切使えない。
魔術師としては死んだも同然だ。むしろ命を落としていたっておかしくない呪いなのだから、生きていることを喜ぶべきなのだろうか。ピトスには何も言えなかった。
しかし、なぜその話をこの面子に言うのだろう。知りたい情報ではあったが、わざわざ呼び出されてまで教えてもらえる理由は考えづらい。
その答えはウェリウスからあった。
「……まあ、ちょっとした意趣返しみたいなものかな」
「え、っと……」
「それはこっちの話だけど。ともあれ、僕は本人から聞いたからね。その上で口止めされた。君たちには言うな、と」
「そうなんですか、ウェリウスくん? でも、ならどうして……」
「うん。だからセルエ先生から言ってもらったんだよ」
しれっと。笑顔でウェリウスは詭弁を吐いた。
「で、ここからが本題。アスタは、僕たちに全てを秘密にしてオーステリアを去った。まあふたりほど連れはいるみたいだけどね。問題はそこさ」
ウェリウスは笑う。笑っていると、そう呼ぶべき表情だ。
「――勝手にいなくなっただけだ。放っておけばいい。って、そう思う理屈はわかるけどさ。でもちょっと、面白くないと思わない? いつも向こうから顔を出してくる割に、こういうときは蚊帳の外。腹が立つよね?」
「まあ……そう思わなくはないです」
確かに面白くない。というかはっきり不愉快だ。
ピトスもだんだんと腹が立ってきた。
「うん、だからさ」
ウェリウスはさらに続ける。
アスタ曰く、何かを企んでいるかのような笑みで。
「――今度はこっちから、向こうに押しかけてみるのはどうだろう?」
答えなんて、決まっていた。
※あとがき※
はい、というわけで三章完結です。いよっしゃあ!
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
感想や評価で応援してくださった方々、嬉しかったです。
本編はここまでが伏線張り。いわばプロローグ。
本番は四章から。伏線回収と血と汗と魔力と死が迸ります。
たぶん。
ようやく目的意識に目覚めた主人公の活躍と、それを追う学生たち、そして敵味方の強力な魔術師・魔法使いの戦いをお楽しみにー!
さて今後の活動について。
まあ詳しくは活動報告に書きますが、そんなん読んでられんという方のために。
とりあえず直近では短編をいくつか上げます。ネタだったりサブストーリーだったり。ペースはたぶん週一くらいです。
こんなん読みたいとかあれば、活動報告なりツイッターなりで言ってくだされば対応する、かもしれません。
それでは次回。
第四章『王都編/セブンスターズ結成秘話』でお会いしましょう。
七星旅団の過去がついに明かされる!
ではでは。感想、評価をお待ちしております。




