1-00『プロローグ/ある書籍の序文』
――《七星旅団》。
それはこの国で最も有名な魔術師の集団の名だ。
たった七人だけで構成された魔術師の集団。現代における最新の伝説となった、虹色の冒険者たち。
所属する全員が二つ名持ちであり、彼ら最大の功績とされる前人未到の大偉業――即ち、五大迷宮が一角《ゲノムス迷宮》の完全踏破――は今や、戯曲として多くの詩人に謳われてるまでとなっている。
その偉大にして高名な七人の魔術師に関して、しかし判明していることは極端に少なかった。
彼らがどこの誰なのか。いったい何を目的として活動していたのか。
前年の暮れに突然の解散が取り沙汰された現在も、その真実は依然として謎に包まれている。
年齢、性別、名前、出自。その外見から扱う魔術に至るまで、かの旅団に所属する魔術師七人のうち、実に五名までが一切を明かしていない。
ただ戦場で彼らが戦う姿を見たという魔術師たちの間でのみ、与えられた二つ名が会話の端に挙げられている。
所属が確認されている二人に関してもまた、解散と同時に忽然と姿を消してしまっていた。
彼らを表舞台に登場させたのは、記憶に新しい《五大迷宮》攻略の功績だ。
歴史上、誰ひとりとして踏破するもののなかった五大迷宮。過去には魔術師百名超からなる大規模編成軍をも退けた最大にして最凶の魔窟。
その一角に数えられる《ゲノムス迷宮》を、たった七人だけで攻略したという伝説的偉業は、今をもってなお記憶に新しい。
その功績だけで、七星旅団の名が世界に知らしめられたことは言うまでもないだろう。
彼らはその後、各地の戦場を転々とした。
王の要請によるものだったのだろう。戦場で彼らを間近に見た兵士たちは、その実力に畏敬と畏怖とを抱かされたという。
だがその功績に反し、彼らの正体を知る人間は極端に少ない。ただその戦場における活躍から命名された二つ名だけが、巷間に膾炙しているのみだ。
そう、彼らは富を求めなかった。彼らは名声を望まなかった。
七星が欲したのは、ただひとつ――自らが成し遂げるべき結果だけであったのだから。
創作上の英雄譚だとしても出来すぎなほど、近年における彼らの活躍は著しい。
正体不明の七人の英雄。七星旅団。
本書においては、その隠された素顔についていくつかの考察を重ねていきたい――。
――ターク=マイルド著『セブンスターズの謎』より抜粋。