メビウスの輪の終着点
寒さの中に春の匂いが混じる四月初旬。私は学校への道を気だるい足取りで進んでいた。周囲には私と同じように、面倒だという空気を漂わせた学生が、始業式に参加するためだけに歩いている。街は太陽の光を照り返し、その薄汚さを顕わにしている。埃っぽい空気を一つ吸い込んで、待ち合わせ場所へと向かう私は、周囲に溶け込めているだろうか。そんなことを考えていれば、一際大きな声が耳に飛び込んできた。
「今何て言ったのよ?!」
「美優にはこんなの似合わねぇっつったんだ。耳までババアになったか?」
「きーっ! ぴちぴちの女子高生に向かってババアですってー?!」
声の発生源を見やれば、二人の幼馴染が不毛な言い合いを繰り広げていた。大声で言い争っているせいか、彼らの周りには人が寄り付いていない。顔を付き合わせれば口喧嘩しかしないのは変わっていないが、だからといって店の目の前でやることではないだろう。この辺は何度繰り返しても変わらないらしい。私は早足で二人に近付き、私より頭二つ分ほど上にある、色素の薄い髪で覆われた頭を軽く叩いた。
「美優をからかうのもそこまでにしておきなよ」
「うーい」
「亜美ー! 由良がいじめるー!」
私が仲裁に入った途端、由良は大人しくなり、美優が半泣きになりながら抱き付いてくる。一連の流れは、幼稚園の頃から変わらない。いや、変わってはいる。美優が由良を見る目が、由良が私を見る目が、私が二人を見る目が。もっとも、私の場合は色恋沙汰からはかけ離れているけれど。
「ほら、そろそろ移動しないと、お店の人にも迷惑だよ」
「分かったよ、お母さん!」
「……美優を生んだ覚えはないんだけどなぁ」
「仕方ないだろ、昔から面倒見いいもん、お前」
由良の言葉に私は苦笑を返すことしかできなかった。私が美優より手がかかる子だったなんて、一番最初の過去を覚えているのは私だけだから。
「そうそう。なんていうか、包容力っていうの? そんな感じの雰囲気があるんだよね」
「へー、美優でもそんな言葉使えたんだ。ほー」
「……それは私が馬鹿だと言いたいの?」
「お、よく気付いたな、偉い偉い」
「馬鹿にしないでよ! 由良の馬鹿!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだぜ」
由良の言葉を皮切りに、私が止める暇もなく口喧嘩が再発してしまった。言葉の応酬を続ける二人はどこか楽しそうで、本当はすぐにでも終わらせるべきなのだろうが、どうしても見守りたくなってしまう。
ふと視線をずらせば、均等に並べられた建物が目に入った。それぞれの形はばらばらなのに、行儀よく並ぶ様はさながらドミノのようで、見慣れた、もう見たくない景色にため息を吐く。
今度こそ変わるようにと願う私が、変わることなどないと一番よく知っているなんて、皮肉すぎて自嘲の笑みすら出てこない。でも、それでも、諦めてはいけないと思うから。
「ほら、二人とも。早くしないと遅刻しちゃうよ」
「え……、うわ! もうこんな時間?!」
「遅刻したらお前のせいだからな」
「何でそうなるのよ!」
「はいはい、喧嘩は後でね」
私は二人の背中を押し、無理矢理歩かせる。また、長い一年が始まろうとしていた。
同じ道筋を繰り返す女の子の話。俗に言うループ物。舞台は現代日本を基にしたパラレルワールド。普通の学生だと話が成り立たないので、異能力が存在する世界になる予定。そこらの細かい設定は煮詰めると大変なことになるため、今は保留。恐らくは世界を壊す話になると思われる。ループの元を断ち、平穏な生活を取り戻すのが主人公の目標。
主人公は毎度物心付く頃に全ての記憶が蘇っている。そのため、精神的に成熟しきっている。ループしているのは主人公のみであり、他の人は一切気付いていない。いつからループするようになったかは主人公にも分かっていないが、二十回はくだらないのは確実である。
ループとあるように、主人公が通る流れ(主人公の人生)は多少の誤差はあれど変わらない。むしろ特筆するべき点などなく、ごくごく普通の学生なのだが、高校二年生の冬になると強制的に戻されてしまう。原因を探るべく動いてはいるが、欠片すらも見当たらず、半ば諦めている。
現状を打破する切欠は、今の所未定。誰かに出会う、何かを見付ける、事件に遭遇する……。色々と浮かぶが、どれもぴんとこない。候補募集中←
思い描く落ちは、主人公がループの元の手がかりを見つけ、困難のうちに辿り着き、破壊して普通の一生を送る。これも候補募集中←
あ、カ●プロみたいという突っ込みはなしでお願いします。自分が一番よく分かっているので……。