7月27日
―コンコンコン。
ドアのノックの音で目が覚めた。
枕元の時計を見る。
今日はバイトもないから目覚ましが鳴らない。
短針は11時を指していた。うわ、寝過ぎたよ。
未だ眠気の抜けない頭を抱えて、玄関に歩いていく。
「ったく、誰だよ」
鍵を開けて、ドアノブを捻ったら。
「やっほ♪シロ君、今起きたの?」
腰をかがめて上目遣いにこっちを見てる。
襟空きブラウスからチラっと覗く白いブラがエロ可愛い。
「あ、優雪ちゃんお早よう。どうしたの?」
欠伸しながら聞いた。
「あー!ひどーい。せっかく引っ越し蕎麦持ってきたのにー」
彼女のカバンの中には確かに蕎麦セットが。
「あ、こりゃどうも」
茶目っ気に言って受け取ろうとすると、優雪ちゃんは意地悪そうにそのセットを後ろに隠した。このアマ!
「一緒に食べない?シロ君」
…へ?
良いのですか!?思わず敬語になっちまった。
「駄目?」
うるっと目を潤ませる。ぐはぁ!可愛い!抱き締めたい!
そんな煩悩を抑えつつなんとか
「いいよ」
とだけ言ったんだ。
「じゃ、お邪魔しまーす」
は?はあああ!?
「おおー。以外に綺麗な部屋だねぇ」
「そりゃどうも。って言うか何で俺の部屋なんだ?」
すっごく不思議だ。嬉しいけど。
「えー、だってまだ荷物全部開いてないし。…若い乙女の部屋に入りたいの?」
………なぜそうなる。
「いや別にそういう訳じゃないんで。さらにそれ言うなら思春期の男子の部屋に入るあんた様はどうなのよ?」
うん、至極真っ当な意見を言えた。
でもやっぱり優雪ちゃん。手強い。
「別に良いじゃぁないですかお兄さん。台所借りるね?あ、座っててねー」
あっさりスルー。この人の頭の中見てみたいな。どんなんなってんだろ?とか思いつつ座る。
「あら?あらあらあら?」
がさごそと台所を探る優雪ちゃん。
「どうしたの?」
「ここって、片手鍋しかないのね。うーん。…よし」
優雪ちゃんは自分のバッグを探ると、おもむろに財布を取り出した。
んで俺に
「シロ君、両手鍋プレゼントするからこれで買ってきて」
って2千円を突き出した。
「はぁ?なんでだよ。別に片手鍋でも良いじゃん」
って反論したんだけど、
「だめ!麺類はたっぷりのお湯で茹でなきゃ美味しくないの!」
だって。
結局買いに行ったんだ。
チャリンコで。四十分かけて。
普通のスーパーじゃ売ってないんだよね。
ホームセンターかダイ〇ーみたいな大型ショッピングセンターしか売ってねえんだ。
で、その両手鍋を籠に突っ込んで帰ったわけよ。
嫌な予感がしたからできるだけ飛ばして。
そしたら予感的中。
優雪ちゃん俺のベッドの下探ってやがった。
「あー!やっぱり!何やってんだ!」
怒鳴ってみた。そしたらビクッて身体震わせて冷や汗かきながら
「お、お帰りー」
って言った。
「いやね、思春期の男の子の一人暮らしでしょ?なんかエッチな本とか無いかなぁって」
「無・え・よ!大体ベッドの下なんて古典的な」
呆れた。こんなことする奴が本当に居たとは。
「えへへー。ごめん。でもお隣にこんな可愛いお姉さんが来たんだから別に要らないわよね」
マジですか。自分のこと可愛いって……いや実際可愛いんだが。
「はぁ、もう勝手に探るなよ?はい両手鍋」
水9リットルは入りそうなでかい鍋を渡す。
「あぁ、そうそううっかりしてた♪…ちっちゃいわね、まだ」
はぁ?一人暮らしだったらそれでも十分だっつのとか思いながら俺も台所に立った。
すげぇ。かなりすげぇ。
ぶっちゃけ優雪ちゃん見くびってた。
「ごめん優雪ちゃん。俺[どうせその辺のバカOLみたいに料理壊滅的に下手なんだろ?]と思ってた」
脱帽ですよ。被ってないけど。
「へへん。どう?これでも地元じゃ料理上手の優ちゃんで通ってたんだから♪」
納得。しきれないけどしとく。
だって今打ってんだよ?ソバ。
普通ソバセットって言ったら半生か乾麺じゃない?
優雪ちゃんソバ粉から打ってるよ!
流石にソバ打ちできない俺はすみっこで葱刻んだりぐらいしか出来なかった。
んで、茹で上がったんだ。
そのソバの見た目の見事さと言ったらもう。独立して自分の店もてるよって位。
ちっこいテーブル挟んで座って同時に
「頂きます」
旨い。これ程旨いのは本格的なそば屋ぐらいでしか食ったことねぇ。
「旨いねこれ」
とか言いながら都合5人前食った。俺3人前。優雪ちゃん2人前。
んで二人してテレビとか見た。
六時ごろになって
「あー!そうだ、買い物行かなきゃ」
っていきなり。
「ごめんシロ君。買い物行ってそのまま帰るね」
って言ったから、
「あ、うん。じゃお休みー」
って言った。
「うん、また明日ね」
って言葉を残して俺の部屋を去っていった。