右方向4
某日夜
人生は何が何でも楽しんだほうが勝ちだと、俺は思っている。
綺麗事は必要最低限でいいと思うし、欲望に忠実に生きれば必然的に醜い事だって降り掛かってくるのだ。
避けられない現実は出来るだけ受け流して、手の届く可能性のある楽しみは無理をしてでも掴み取る。
そして。
そんな人生を謳歌するにあたり、絶対してはいけない事が一つある。
それは……。
「アキさん。なんか物憂げ」
「ん~?そう?」
それは無意識でもあれば意識してそれを理解することもある。
どちらにせよそれは簡単に、しかしやめるのには相当の決心が必要なもので。
「アキさんのその表情。くせになっちゃう」
「ふうん」
「ねぇ、一晩だけって約束だったけどさ……また会わない?」
馴れ合いを続けたら情は必ず移り、いつの間にか片時も離れるのが辛くなる。
それが人間という生き物であり、性であり、猿から進化してきた結末だ。
しかしその進化は人を弱くする。
「会わない」
俺は気だるい身体を無理矢理ベッドから起こしながら小さな声で応えた。
「そんなぁ。俺たち身体をの相性もバッチリだし、付き合うのに問題ひとつないじゃん」
「俺なんかを口説く時間があるなら、もっといい出会いを探しに行けよ」
床に散らかった服を拾い集めて、さっさと身につける。
「もう帰っちゃうの?」
残念がる男に、俺は顔すら向けずに一言。
「明日早いんだ」
俺が人生の中で一番恐れていて、一番したくない事。
弱い俺をさらにちんけな生命体へと陥れる。
それは……。
一人の人間に、《依存》することだ。