右方向2
「明希音さんこれどうします?」
「あーその書類は後で俺が目を通しておくからそこおいといてくれ」
「はい」
下半身にだらしない俺だが、そんな俺でもきっちり会社を“持っている”。
四年前に、とあるコネクションを使って立ち上げたのは多岐にわたるデザインを請け負う会社だ。
ある時はゲームやアニメのキャラクターデザイン。またある時は大企業のWEBデザインまで。
俺の会社は様々な分野のデザイナーを雇っていて、企業に貸し出すこともあれば、自分で好きな仕事を取らせたり与えたりしている。
結構何をしても許すことにしているからか、いまだ大きな問題や不祥事が起こったことはない。
そのおかげか何かは知らないが、結構儲かっている。
この間、社員の一人が有名企業CMを作ってかなり名が売れた。
怖いほど順風満帆で今のところ仕事に困ることは無い。
「アキちゃん、東雲さん」
デスクに向かって物思いに耽っていると、一人の社員が、俺と秘書の東雲を呼んだ。
「なんで社長の俺が“ちゃん”で秘書の東雲は“さん”なんだよ」
「えーアキちゃんはかわいいからです。東雲さんは怖いからです」
なんの躊躇いもなく即答されると、やはり会社の方針をかえようかと本気で悩みたくなる。
やれやれと首を振る俺に変わって、俺より断然社長らしい東雲が、威圧感たっぷりにブルーの眼鏡をくいっと指で持ち上げた。
「社長で遊んでないで、用件はなんです?高城」
「ひっ……あ……えっと次の仕事の事で……」
高城は少し青ざめながら、たどたどしく言う。
東雲はまた鬼をちらつかせながら微笑み、高城を身震いさせた。
「まぁまぁ東雲。高城も怯えすぎだぞ?」
「アキちゃぁん」
「い・ち・か・わ・社長!」
せっかく助け船を出してやったと言うのに高城って奴は……。
「まぁそろそろ次の仕事を頼もうと思ってたところだった」
「何々!?」
「タメ語!」
こいつには仕事より先に言葉遣いを叩きこむべきだな。