ヌヴェル12 風見鶏
「めずらしい風見鶏ですね。親子で風を見ているのって」
風見鶏の館に訪れたゲストは、必ずその風見鶏を見て、そう感想を漏らす。そして私は答える。
「ええ、あれは私の家内サリーと息子のトムなのですよ」と。
十年前、記者をしていたサリーは、取材先で台風に遭い、命を落としました。
そのとき、五歳だったトムは、深い悲しみに精神が不安定になりました。
来る日も来る日も、風見鶏を見て、風の向きをブツブツと言う状態が続きました。
トムはサリーと風見鶏を見て、「今、北向きの風が吹いているね」という他愛無い会話をするのが好きだったのです。
学校へ行くようになっても、時間があればトムは風見鶏を見ていました。
やがて、トムは、風見鶏にサリーの面影を見るようになってきました。
陽ざしのあたたかな日にはサリーに抱きしめられているような、風の穏やかな日にはサリーの香りに包まれているような、月明かりの夜にはサリーに子守唄を歌ってもらっているような、そんな気持ちを抱くようになってきたのです。だから、雨の日や風の強い日には「お母さんが可哀そうだ」と、ずっと風見鶏を見続けていました。
二年前、とても大きな台風がやってきました。
その台風に、風見鶏は支柱ごと飛ばされてしまいました。
そして、トムは、風見鶏の塔の下で倒れていたのです。
死んでいました。
おそらく、台風に飛ばされそうになっている風見鶏を守ろうと屋根伝いに、そこまで行ったのでしょう。
「お母さん、しっかり」と言いながら・・・。
私は、大切なものを無くしてしまった。
でも、この館の中で何故か息づいているように感じるのです。
そこで、二人のことをいつも思い出せるように、あの親子の風見鶏を作ったのです。
最近は、あの風見鶏を見て、私が風の向きをブツブツと言うようになりましてね。
そうすると、サリーとトムの笑顔が浮かんでくるんですよ。
そのとき風が吹いた。親子の風見鶏は、楽しそうに風と戯れた。




