エピローグ:解答のない未来を、君と
都内の大学に進学して、初めての春。
満開の桜が舞うキャンパスのベンチで、勝呂みゆきは相変わらず分厚いノートを広げていた。
「航太、遅延よ。約束の十四時ちょうどから、百二十秒も経過しているわ」
駆け寄った俺に対し、彼女は腕時計をピシリと指差した。
高校時代よりも少し大人びたタイトなスカートに、緩やかに巻かれた髪。けれど、その口調と「勝ち誇ったような瞳」は、あの頃のままだ。
「悪かったって。講義が少し延びたんだ。……で、今日は何の勝負だ?」
「ふふん。今日は勝負というより、私の新生活における『生活環境最適化ロジック』の進捗報告よ。……はい、これ」
彼女が差し出してきたのは、合鍵だった。
しかも、可愛らしい青いソーダ水のボトルのキーホルダーがついている。
「……これ、お前のマンションの?」
「そうよ。二人で別々の場所に居住し、移動にかかる時間とコストを浪費するのは極めて非合理的だという結論に達したわ。つまり……これは、共同生活(同棲)に向けた、私からの戦略的提案よ」
みゆきは顔を真っ赤にしながらも、必死に論理武装を続けていた。
「勘違いしないで。これは、あくまであなたが私の『練習台』として、より高精度なデータを供給するための環境整備であって、決して……ずっと一緒にいたいとか、朝ごはんを一緒に食べたいとか、そういう情緒的な理由がメインではないわよ!」
「はいはい。……わかったよ。お前のロジックには勝てそうにないな」
俺が鍵を受け取ると、みゆきは安堵したように、ふにゃりと頬を緩めた。
その時、近くの桜の木の下を、一人の女性が通り過ぎた。
「あら、相変わらず不器用な攻防戦を繰り広げているわね」
凛とした声。同じ大学の法学部に進んだ九条麗香だ。彼女は立ち止まることなく、いたずらっぽく微笑んで去っていった。
「九条! あなたこそ、その余裕がいつまで続くか見てなさい! 次の試験では、三度目の正直で完全勝利を収めてやるわ!」
みゆきが叫ぶと、キャンパスに笑い声が混じる。
彼女は俺の腕にそっと手を回し、幸せそうに目を細めた。
「ねえ、航太。人生って、結局のところ、正解のない問いを解き続けるようなものね。……でも、あなたというパートナーがいれば、どんな難問も、最高に楽しい『勝負』に変わるわ」
「そうだな。……これからも、よろしくな。俺の女神様」
「ええ。一生かけて、私に負け続けなさい。……それが、私たちが勝ち取った最高の『未来』なんだから」
春の光の中で、二人は歩き出す。
ロジックでは測れないほどの幸福を抱えて。
解答のない未来へ、一歩ずつ、確かな勝利を積み重ねながら。
【エピローグの勝敗:航太の降参、みゆきの生涯独占権獲得】
—— 本当に、完 ——
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
イラスト未収録のお話は完成し次第、実装していきます
少々お待ちくださいませ




